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サンタの存在証明
第2話
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クリスマスを目前に控えた日、コスプレの先輩からLINEが届いた。そう言えば、M3の時から連絡を取り合っていないし、当然会っていない。このタイミングで何の要件だろうか、と思ったが、要するに、クリスマスにコスプレのイベントがあるから、その手伝いをしてほしい、という事だった。
僕は、この事をミコに話した。まあ、話さずとも、ミコは知っているんだが。
「それって、ボクも付いて行っていいのかな」
デートの約束が反故になる可能性があるので、ミコは怒るかと思ったけれど、そんなでもなかった。
「別に構わないよ」僕が言った。「それに、一日拘束される訳じゃなさそうだから」
「どんなお願いされたの?」
「うん」僕が返答した。「なんか、クリスマスイブに池袋でコスプレのイベントがあるらしいんだけれど、それについてきて欲しいんだってさ」
「キミもイベントに参加するの?」
僕は笑った。
「まさか。会場までエスコートするだけだよ」
「え~」ミコが声をあげた。「だったら、先輩1人でいけばいいじゃん」
「そうなんだけれどね」僕が言った。「小さなイベントで着替える場所がないから、コスプレのまま会場に行くんだってさ」
「それが?」
「さすがに恥ずかしいから、会場まで一緒に行ってほしい、という事らしい」
ミコは声を立てて笑った。
「ボクだったら、そんな事気にしないけどな」
そりゃそうだ。
「兎に角、12月24日は先輩の家に迎えに行って、池袋の会場まで送り届けるよ」
先輩の住んでいる月島までは、京急に乗り、乗り入れで都営浅草、大門で大江戸線に乗り換える、という行き方になるのだけれど、恐らく大部分の都民がそうであるように、この大江戸線というヤツに乗るのは憂鬱な気分になる。どこの駅だったか、地上までエレベータではなく階段を使ったが為に、果てしない螺旋階段を上らされて辟易した事がある。正直、エッフェル塔の展望室まで歩いて上る方が楽じゃないかと思えたほどだ。それ以外にも、地図アプリでは歩いて移動する事になっている駅間の地下道移動が、普通に1Kmくらいあるんじゃないか、という経験をしたりと、他の都市の常識ではなかなか考えられない事が、この街では普通だったりするから、用心深く生きる必要がある。
「ボクは平気だけどね」
構内を歩きながら、ミコが言った。僕は横目で、わざと恨めしそうな表情を向けると、それはそうだろうね、と答えた。僕だって、歩くのは嫌いじゃないさ。でも、今回はちゃんとエレベータを使うよ。
「え~」ミコが言った。「階段で行こうよ。ボクがひっぱってあげるからさ」
ミコは、僕の手を取ると、強く引いた。ちゃんと、引かれる感覚があるので、稀に、このタルパは実在するのではないか、と強く錯覚する事がある。けれど、この状況、傍から見ると、意味不明に手を振り上げてつんのめってる様にしか見えないから、危険だ。
僕は、ミコの手を振りほどいてから、エレベータに向かった。
「へんっ」立ち止まって腕組みをしながら、僕の背中にミコが放った。「ボクは階段で行くからね」
で、僕がエレベータで上り、扉が開くと、目の前にミコがいた。予定調和だけれど、その得意気な表情に、僕は笑いを押さえられなかった。なんだかんだ言って、これは彼女なりの気遣いなんだろう。満員のエレベータに彼女は乗る事は出来ない。否、出来るのだけれど、そういうシチュエーションを極力避けようとしてくれている。まあ、つまり、僕が避けようとしているんだけれど。
僕は、この事をミコに話した。まあ、話さずとも、ミコは知っているんだが。
「それって、ボクも付いて行っていいのかな」
デートの約束が反故になる可能性があるので、ミコは怒るかと思ったけれど、そんなでもなかった。
「別に構わないよ」僕が言った。「それに、一日拘束される訳じゃなさそうだから」
「どんなお願いされたの?」
「うん」僕が返答した。「なんか、クリスマスイブに池袋でコスプレのイベントがあるらしいんだけれど、それについてきて欲しいんだってさ」
「キミもイベントに参加するの?」
僕は笑った。
「まさか。会場までエスコートするだけだよ」
「え~」ミコが声をあげた。「だったら、先輩1人でいけばいいじゃん」
「そうなんだけれどね」僕が言った。「小さなイベントで着替える場所がないから、コスプレのまま会場に行くんだってさ」
「それが?」
「さすがに恥ずかしいから、会場まで一緒に行ってほしい、という事らしい」
ミコは声を立てて笑った。
「ボクだったら、そんな事気にしないけどな」
そりゃそうだ。
「兎に角、12月24日は先輩の家に迎えに行って、池袋の会場まで送り届けるよ」
先輩の住んでいる月島までは、京急に乗り、乗り入れで都営浅草、大門で大江戸線に乗り換える、という行き方になるのだけれど、恐らく大部分の都民がそうであるように、この大江戸線というヤツに乗るのは憂鬱な気分になる。どこの駅だったか、地上までエレベータではなく階段を使ったが為に、果てしない螺旋階段を上らされて辟易した事がある。正直、エッフェル塔の展望室まで歩いて上る方が楽じゃないかと思えたほどだ。それ以外にも、地図アプリでは歩いて移動する事になっている駅間の地下道移動が、普通に1Kmくらいあるんじゃないか、という経験をしたりと、他の都市の常識ではなかなか考えられない事が、この街では普通だったりするから、用心深く生きる必要がある。
「ボクは平気だけどね」
構内を歩きながら、ミコが言った。僕は横目で、わざと恨めしそうな表情を向けると、それはそうだろうね、と答えた。僕だって、歩くのは嫌いじゃないさ。でも、今回はちゃんとエレベータを使うよ。
「え~」ミコが言った。「階段で行こうよ。ボクがひっぱってあげるからさ」
ミコは、僕の手を取ると、強く引いた。ちゃんと、引かれる感覚があるので、稀に、このタルパは実在するのではないか、と強く錯覚する事がある。けれど、この状況、傍から見ると、意味不明に手を振り上げてつんのめってる様にしか見えないから、危険だ。
僕は、ミコの手を振りほどいてから、エレベータに向かった。
「へんっ」立ち止まって腕組みをしながら、僕の背中にミコが放った。「ボクは階段で行くからね」
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