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どう考えても、そのおっぱいの大きさは間違っている。

第3話

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 僕は、ミコに視線を遣った。

「ネットだと、たとえ広告だとしても、基本的にはプル型になっちゃうんだよね。強制的にポップアップさせても、見ている人がクリックしてくれなければ先に進まない」
「でも」ミコが言った。「ネットは、現実世界とは違って、その広告に興味がある人だけに表示できるじゃん」
「そうだけどね」僕が言った。「ボカロ、ではターゲットが広すぎるし、変拍子、では狭すぎるんだよね。こういったニッチなニーズは潜在化しているから、リターゲティング広告ではなかなか対応できない。だったら、M3みたいにその分野の人が集まる所で、こちらから声かけとかでプッシュしてやって、ニーズを顕在化させてやる方が効率的だよ」
「でも、リアルだと届く人数に限界があるよ?」
「M3だと、マックスでも15,000人くらいかな」僕の言葉に、ミコが頷いた。「でも、その人数に対して100枚が売れる。CVRコンバージョンレートにして、約0.7%」
「こんばーじょん?」
 僕は心の中で、解ってる癖に訊いてくるんだな、と返した。
「母数から最終的に販売につながる率だよ。WEBで広告を打つ場合は、ターゲットの母数に対して、インプレッション数(リーチ数)、PVページビュー数、UUユニークユーザ数、CTRクリックスルーレート、CVRコンバージョンレート、CPAコストパーアクション(1件販売にかかった広告費用)なんかを気にしたりするよね」
「そんな事気にしてやってるの?」
 僕は首肯した。
「例えば、前回のM3の時に、Facebookで4,000円使って広告を打ったよ。広告用の動画を作ってね」
「それで?」
「インプレッション数が8,700、広告動画の再生回数が3,000回」
「凄い! 4,000円でそんなに?」
 僕は得意げに頷いた。
「でも、詳細サイトへのクリック数はたったの90回(CTR約1%)。損益分岐点は、広告起因で13枚のCDを売る事。これは、CVRで0.15%必要。これ以上売れれば、CPAはどんどん下がっていき、広告価値が上がっていく」
「それで、13枚売れたの?」
 僕はかぶりを振った。
「多分売れてないね」
「多分? 解らないの?」
「効果測定の仕組みを考えなかったんだ。例えば、Facebookを見て買いました、って言ってくれたらオマケをあげる、とかね」
 ミコは、ほえ~、と力ない声を漏らした。
「そこだけ原始的なんだね」
 僕は苦笑した。
「最後までネットで販売すれば、精確に測定できるんだけれどね。リアルだとそれは無理だね」
「新聞チラシとか、全部リアルだもんね」
「そうそう。あれは本当に効果測定が難しいね。新聞を取っている世帯にしか届かないし、チラシ見るのは主婦ばかりだったりするし」
「じゃあ、なんで皆チラシをやるの?」
「チラシをやるのとやらないのとで、トータルで儲かっているっていう経験則があるんじゃないかな。それに、スーパーとかなら、メインの主婦層に読んで貰えるのはかなり確かだろうしね。でも、殆どの人は、紙媒体のプロモーションの最も効果的な方法について、きちんと解っていないんじゃないかと思うよ」
「QRコードは? あれなら、紙媒体でも効果測定できるよ」
 僕は笑った。
「やってみると良いよ。殆どの人がQRなんて読み込まないし、今時QRコードを律儀に読む人は年齢層とかのクラスタが偏ってるだろうしね」
「ネットだって、おじいさんおばあさんはやってないんじゃないの?」
「勿論。それはWEBマーケティングの弱みだね。でも、僕が販売する商材は明らかにネットリテラシの高い層だ」
 ミコは、なるほどね~、と呟いた。
「そこまで偉そうに嘯いたんだから、当然キミは売りまくってるんだよね」
 僕は、意地悪そうに目を細めるミコに、わざとらしく奥歯を噛みしめた。
「結論として」僕が言った。「どんなに頭で考えても、成功しないやつは成功しない」
 ミコが笑った。
「自分のことだね」
 そう。
「サムネとかタイトルは、無料で出来るプロモーション材料だから、本当はABテストなんかやって、どういうパターンが一番効果的なのかの方法論を確立させたい」
「やれば?」
「同じ内容のコンテンツを、タイトルとサムネとアップ曜日と時間帯を変えて何個もアップしたら、ネットから干されちゃうよ」
「大丈夫だよ」ミコが、キシシと笑いながら言った。「誰もキミの作品なんて見てないから」
 真理だ…。反論できないのが悔しい。
「どんなサムネがいいの?」
 ミコが言った。
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