ぼくの母さん

紫 李鳥

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 ぼくの母さんは、息子のぼくが言うのもなんですが、美人な母さんです。
 ぼくの小学校の入学式のときに、訪問着を着た母さんはとってもキレイで、一番目立っていました。ぼくは鼻高々でした。

 なのに、でも、しかし、けど、ところが、……キレイなのは外見だけなんです。グスッ……。

 せっかくキレイな着物を着ても、歩くときは男みたいに外股です。それに、言うこともひどいんです。ひどすぎるんです。




「おう、息子、まだ童貞か?」

 ぼくが学校から帰ると、“おかえり”の代わりにそれがあいさつなんです。そんなときの母さんは、きらいです。

「……ぼ、ぼく、まだ小学生だよぉ」

 顔を赤くしながら、ぼくは一生懸命、反抗しますが、母さんには効き目がありません。

「好きな子ができたら、母さんに紹介しな。母さんが見きわめてやるから。気立てのいい女か、性悪女か。けど、ソクラテスの女房も、モーツァルトの女房も悪妻だったらしいから、ま、性悪がいちがいに駄目ってわけでもないが……」

 そんな独り言をずっーとしゃべってるんです。そんなとき、ぼくは対応にくりょし、「じゃあね」って言って、離れるタイミングをのがしてしまいます。するとまた、話のつづきをします。

「ま、好みはさまざまだ。悪妻のほうが刺激があっていいわいって言う男もいるから。おまえはどっちだ。悪妻派か? 良妻派か?」

「ぼく、まだわかんないよぉ……」

 ぼくは腰を浮かせながら、テーブルに置いたランドセルの肩ベルトをにぎっています。

「ま、おまえが好きだって言うんなら、母ちゃんは我慢するよ。どんなに性悪でもさ。……グスッ」

「お母さん、泣かないで。先のことはまだわかんないもん。今から泣いたら、涙がかれちゃうよぉ」

「おまえは優しいね。別れた父さんとそっくりだ」

「……じゃ、なんで別れたの?」

「誰にでも優しかったの」

「……つまり、ウワキってこと?」

「うん。……おまえは好きな子にだけ優しい男になっておくれね」

「……先のことはわかんないよ。まだ小学生だもん」

「あっという間に大人になるさ。中学に入ったら年取るの早いからね。気がついたら、もう二十歳はたちだ」

「ハタチでやっと大人じゃないか。それからをゆっくり生きるよ」

「ばーか。二十歳を過ぎたら、あっという間に30。30過ぎたら、おっとどっこい40よ」

「……それに気づくのに、ぼくはまだまだ長ーいさいげつがかかるね?」

「だから今、教えてやってんじゃん。教訓だ、よく覚えときな。“親の説教と冷や酒は、後で効くー”だ。どうだ、分かったかぁ?」

「うん、わかった。あ、忘れないうちに日記に書いとくね。じゃあね」

 ぼくはきっかけをつかむと、ランドセルもつかんで大急ぎで自分の部屋にダッシュします。

「そうしな、そうしな。いい子だ、いい子だ」

 と、まぁ、毎日がこんな具合です。



 そんなある日、ぼくが学校から帰ると、家のようすがなんか違うんです。最初、泥棒かと思いました。

 リビングのソファーに見たことない服があったり、なんかいつもと違う匂いがしたんです。

 ぼくが不思議そうな顔をしていると、トイレの水を流す音がしたんです。母さんかと思っていると、トイレから出てきたのは、くわえタバコの、知らない若い男でした。ぼくがびっくりしていると、

「よっ! ユウダイか?」

 と、なれなれしくぼくの名前を呼んだんです。

「そ、そうですけど、あなたは誰ですか?」

 ぼくは玄関のほうに後ずさりしながら訊きました。すると、

「俺、ヒロト。よろしく」

 ヒロトと名乗る男はそう言うと、キョロキョロしながら、タバコの灰を捨てるものを探しているようでした。

 ぼくは、父さんが愛用していた灰皿をシンクの下から出して手渡しました。

「サンキュー」

 ヒロトは、ガラスのテーブルに陶器の灰皿を置くと、どっしりとソファーに座りました。

「……お母さんは?」

 訊いてみました。

「あ、スーパー。そろそろ帰る頃だろ」

「……それより、あなたは母さんのなんですか?」

 ぼくは勇気をふりしぼって訊いてみました。
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