1 / 2
少年との出会い
しおりを挟む私のお父さんは、個人タクシーの運転手をしています。
私たち家族を思って、ずっと朝から夕方ぐらいまでタクシーを流していましたが、もうけが少ないからと、今は夜から朝方まで流しています。
それでも、せちがらい世の中だと嘆いています。
どうか皆さん、お父さんのタクシーに乗ってください。
お父さんのタクシーの特徴は、提灯印の黄色いタクシーです。どうぞよろしくお願いします。
あ、名前は佐藤タクシーです。ドアのとこに書いてあります。
きょうは、お父さんから聞いた、印象深いエピソードの1つをご紹介します。
よろしく、おつきあいください。
では、どうぞ。
「ボク、こんな遅く、どうした?乗るの?」
「乗るから、手、上げてんだろ」
「お金は?」
「あるから、乗るんだろ?ほらっ、ナツメソーセキだよ~ん」
ピラピラ
「ったく。釣り銭あったかなぁ。どこまでだ?」
「ジョーシャキョヒかよ?うったえるぞ」
「ったく。生意気なガキだな。どうすっか……では、どうぞ」
バタン!
「早く走れよ」
「行き先が分かんなきゃ走れないだろ?」
「走りながら聞いたほうが効率的じゃん」
「ったく。じゃ、出発するぞ」
「早くしろ」
「で、どちらまで?」
「グオ~、グオ~」
「なんだ、寝たふりか?」
「グオ~、グオ~」
「……仕方ない、交番に行くか」
「そんなことしてみろ、舌かんで死ぬからな」
「じゃ、どうしたいんだ?」
「……ドライブ」
「ドライブ?」
「いいだろ?お金持ってんだから」
「……どの辺に行きたいんだ?」
「おじさんに任せる」
「……なんで、タクシーなんだ?ウチに帰んないと親が心配するだろ?」
「……いないもん」
「エッ、なんで?」
「みなしごだからさ」
「マジで?」
「ウソだびょ~ん」
「ったく。どうしようもないな。家まで送るから、住所を言いなさい」
「なんでだよ。客に命令すんのかよ」
「まいったなぁ。……じゃ、ファミレスにでも行くか?」
「なんでだよ、ドライブしたいって言ってんだろ」
「お金が勿体ないだろ?」
「いいじゃんか、自分の金をどう使おうと」
「ああ、分かったよ。もう、何も言わない」
「……何か言えよ。お客さんをタイクツさせないのも運転手のウデだろ?」
「ったく。ああ言えば、こう言う。じゃ、どんな話がいいんだ?」
「……どうして、こんな時間に、こんなとこにいるんだ?とか」
「だから、それはさっき聞いたでしょ?そしたら――」
「母さんに会いに行こうと思ったんだ……」
「!……」
「けど、やっぱ会わないほうがいいかなって思って……」
「どこにいるんだ?」
「……イカホ温泉」
「伊香保って、群馬県の?」
「ん。……母さん、そこでナカイって仕事してんだって。母さん、父さんとリコンして、一人でがんばってるんだ。父さんは、会ったらダメって言うけど、……会いたいんだ。グスッ」
「また、嘘か?」
「ウソじゃないよっ!エーン」
「……分かったから、泣くな」
「メソメソ……」
「……で、お父さんは?」
「シュッチョー中。だから、お金置いてったんだ。食事代って言って」
「あした、学校休みだから、伊香保に行こうと思ったんだ?」
「ん。電車で行こうと思ったけど、やっぱ行かないほうがいいかって思ってあきらめたけど、ヤケになって、お金使っちゃおうと思って、タクシー拾ったの……」
「じゃ、行ってみるか?」
「エッ!どこに?」
「伊香保温泉に」
「だって、ぼく、ナツメソーセキ1枚しか持ってないよ」
「おじさんのおごりだ」
「ウソ、ホントに?」
「ああ。それと、一万円札は夏目漱石じゃなくて、福沢諭吉だ」
「いいじゃんか、ソーセキが好きなんだから」
「ったく、素直じゃないな。じゃ、伊香保に行かほ!」
「早く、行けほ!」
「ッ、可愛くねぇ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
割れないしゃぼん玉
泣村健汰
現代文学
大学生の伸五は、6月のたまの晴れ間に、久々に家族水入らずで旅行に出かける事になった。
年の離れた兄と姉、そして父親と4人で、一路鬼怒川を目指す。
年を重ねすっかり丸くなった父親を中心に、過去を思い出しながら旅は続いていく。
この旅の本当の目的とは?
旅の果てに見つかる、家族のあり方とは?
愛しさと暖かさを詰め込んだ、心がじんわりと温かくなる、ホームロードストーリー。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
壊れそうで壊れない
有沢真尋
現代文学
高校生の澪は、母親が亡くなって以来、長らくシングルだった父から恋人とその娘を紹介される。
しかしその顔合わせの前に、「娘は昔から、お姉さんが欲しいと言っていて」と、あるお願い事をされていて……?
第5回ほっこりじんわり大賞「奨励賞」受賞
八月の空と、繋ぐ想い。
冴月希衣@商業BL販売中
現代文学
ふとした瞬間、それは突然やってくるのです。
あなたと別れた冬の日とは、何もかもが違う季節。八月の空に、紡ぐ言の葉――。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
◆本文・画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる