紙芝居屋

紫 李鳥

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紙芝居屋

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陽が落ち始めている。

ここら辺は結構道に迷う冒険者も多い。暗くなれば尚更危険だ。
夜は危険なモンスターも出る危険があるからできるだけ出歩かないようにしている。
ちょっとだけ。ちょっとだけ探していなかったら帰ろう。

森の奥に進んでいく。徐々になにも見えなくなる。ここまできたんだ。これ以上先にはもういないよね。そろそろ引き返そう。

そう思って後ろを振り向く。


あれ、ここどこだっけ。

見慣れた景色のはずなのにいつも歩く場所のはずなのに目の前が真っ白な霧に囲まれている。

どっちに行けばいいのだろう。
わからない。
何かにばかされているのだろうか。こんなことなかったのに。

ぼんやりと目の前に大きな影が見える。人のシルエットではない。徐々にその何かがこちらに向かってくる。

まさか、あれは、モンスター?

大きな猪のような見た目をしたそれは鼻息荒くこちらにゆっくりとにじり寄ってくる。

どうするか、戦うか、戦えないわけではない。

戦闘スキルも持ってはいる。だけど経験が無い。この世界に来てから戦闘は避けてきた。

痛いのが嫌いだから。

逃げるか、逃げるしかない。

猪の逆方向を向いて走り出す。

ジグザグに逃げればもしかしたら着いてこれないかもしれない。

そう思い、走る。

だけど現実はそう甘くはなかった。

普段からあまり運動をしていない僕はあろうことか木の根につまづく。

「いたっ。」

走っていた勢いのまま転がる。

起き上がって振り向くとすぐ目の前に大猪の顔があった。

もうダメだ、と僕は目を瞑った。

それから時間が止まった。

ような感覚だった。

いくら待っても痛みを感じない。自分になにもぶつかってはこなかった。

恐る恐る目を開ける。

目の前には昨日出会った彼の背中が見えた。

「シュウ メイ?」

「すみません。遅くなりました。」

その目の前には大猪が横たわっている。

振り向いたシュウメイは勇者の顔をしていた。

「あ、ありがとう。」

差し伸べられた手を掴み、起き上がる。

「帰りましょう。」

「うん。帰ろっか。」
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