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番外編
エーミルの場合3
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その時彼は確かにこちらを見たんだ。
しっかりとその目に僕を焼き付けていた。
しまったと思ったけど、でも僕の口は止まらなかった。
「なんでなんですか?なんでマレーネ様を悲しませるようなことをしたんですか?あんなに優しい人を!」
静かにただ、静かにこちらを見ていた彼はしばらくしたらまた濁った目に戻り、僕のことなんか見なくなった。
なぜかそれが悔しくておもわず、椅子のハンドルに自分の拳を叩きつけていた。
彼には振動が伝わったはずなのに、彼は反応を見せなかった。
僕はあの優しくて僕たちを気にかけてくれるマレーネ様が好きなのだ…そう…好きなのだ。
だから大切にしたい。
だから、彼がしたことは僕には理解できなかった。
でも今日このことはマレーネ様に報告しなければと思いながら、彼女に嫌われたくなかった。
その日の夜。
一日の彼との報告の中に、彼に投げつけた言葉と彼の目の表情についてマレーネ様に報告した。
もしかしたもうクビになるかもしれないと思いながらも嘘はつきたくなかった。
マレーネ様は大きい目をさらに大きくして、でもそのあと穏やかにこう言ったんだ。
「私のために有難う。でもいいのよ。私は、これでよかったと思っているの」
何がどうなのか僕にはわからないけど、それでも彼とマレーネ様の間には僕なんかが立ち入ってはいけなかったんだ。
父が言った言葉を思い出す。もしかしたら僕の言葉でマレーネ様を傷つけてしまったかもしれない…
「ごめんなさい…」
彼女の前では僕は平民で子供で本来の分を間違えてたと感じた。
「いいのよ、あなたは私のために言ってくれたのでしょう?嬉しかったわ、私のために怒ってくれたのね」
そう微笑みながら言われたら、僕の胸がきゅうと鳴った気がした、いや鳴った。
顔も熱でも出たかのように熱くなってきた…
マレーネ様のせいだ…いや、せいにしちゃだめだ。
なんだか僕はわけのわからないことを考えながら、それでも彼女を安心させたいがために笑顔を見せた。
それからは彼にはマレーネ様とのことは何も追求せず、ただただ彼の世話のために過ごした。
彼は徐々に弱っていった、いくら薬を飲ませてもそれは無駄だった。
「生きることを放棄しているの」
そうマレーネ様は言っていた、そしてそれは
「私の罪でもあるの」
マレーネ様の罪?いやあなたは罪を犯していないはずだ。悪いのは彼のほうだ。
僕は叫びたかったけど、マレーネ様のあのなんとも言えない顔がそれを留めたんだ。
そうして、やせ細ったカドゥの横にマレーネ様、マレーネ様のお兄様夫妻、僕が見守る中彼は静かに息を引き取った。
最後に大きな深い呼吸をしたのちだった。
その日は、大雨で家の中の物音もかき消すほど外の音が大きかった。
だから、マレーネ様が静かに泣いていたことなんて僕は知らなかったんだ。
翌々日の静かな雨上がりの中、彼は埋葬された。
彼の身内であろう人は誰もいなかった。
死の眠りについた彼は結局マレーネ様の心を捉えて離さなかったのではないかと最近思う。
僕は知ってしまったんだ。
カドゥとは古い言葉で”贈り物”という意味だということを。
end
エーミル編完結です
次回はアクラム編です。
しっかりとその目に僕を焼き付けていた。
しまったと思ったけど、でも僕の口は止まらなかった。
「なんでなんですか?なんでマレーネ様を悲しませるようなことをしたんですか?あんなに優しい人を!」
静かにただ、静かにこちらを見ていた彼はしばらくしたらまた濁った目に戻り、僕のことなんか見なくなった。
なぜかそれが悔しくておもわず、椅子のハンドルに自分の拳を叩きつけていた。
彼には振動が伝わったはずなのに、彼は反応を見せなかった。
僕はあの優しくて僕たちを気にかけてくれるマレーネ様が好きなのだ…そう…好きなのだ。
だから大切にしたい。
だから、彼がしたことは僕には理解できなかった。
でも今日このことはマレーネ様に報告しなければと思いながら、彼女に嫌われたくなかった。
その日の夜。
一日の彼との報告の中に、彼に投げつけた言葉と彼の目の表情についてマレーネ様に報告した。
もしかしたもうクビになるかもしれないと思いながらも嘘はつきたくなかった。
マレーネ様は大きい目をさらに大きくして、でもそのあと穏やかにこう言ったんだ。
「私のために有難う。でもいいのよ。私は、これでよかったと思っているの」
何がどうなのか僕にはわからないけど、それでも彼とマレーネ様の間には僕なんかが立ち入ってはいけなかったんだ。
父が言った言葉を思い出す。もしかしたら僕の言葉でマレーネ様を傷つけてしまったかもしれない…
「ごめんなさい…」
彼女の前では僕は平民で子供で本来の分を間違えてたと感じた。
「いいのよ、あなたは私のために言ってくれたのでしょう?嬉しかったわ、私のために怒ってくれたのね」
そう微笑みながら言われたら、僕の胸がきゅうと鳴った気がした、いや鳴った。
顔も熱でも出たかのように熱くなってきた…
マレーネ様のせいだ…いや、せいにしちゃだめだ。
なんだか僕はわけのわからないことを考えながら、それでも彼女を安心させたいがために笑顔を見せた。
それからは彼にはマレーネ様とのことは何も追求せず、ただただ彼の世話のために過ごした。
彼は徐々に弱っていった、いくら薬を飲ませてもそれは無駄だった。
「生きることを放棄しているの」
そうマレーネ様は言っていた、そしてそれは
「私の罪でもあるの」
マレーネ様の罪?いやあなたは罪を犯していないはずだ。悪いのは彼のほうだ。
僕は叫びたかったけど、マレーネ様のあのなんとも言えない顔がそれを留めたんだ。
そうして、やせ細ったカドゥの横にマレーネ様、マレーネ様のお兄様夫妻、僕が見守る中彼は静かに息を引き取った。
最後に大きな深い呼吸をしたのちだった。
その日は、大雨で家の中の物音もかき消すほど外の音が大きかった。
だから、マレーネ様が静かに泣いていたことなんて僕は知らなかったんだ。
翌々日の静かな雨上がりの中、彼は埋葬された。
彼の身内であろう人は誰もいなかった。
死の眠りについた彼は結局マレーネ様の心を捉えて離さなかったのではないかと最近思う。
僕は知ってしまったんだ。
カドゥとは古い言葉で”贈り物”という意味だということを。
end
エーミル編完結です
次回はアクラム編です。
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