30 / 45
髪を切るということ
しおりを挟む婚姻関係を結んだ女性は、髪の毛を一定の長さ保つようにといわれています。
女性は10代からその髪をのばし、婚約関係が成立してから結婚までのあいだ髪を切りません。
髪の毛に宿るのは、その人との大事な想い。
それがなくならないように大切に大切にされます。
しかし、離縁した女性は髪の毛を切ります。
それは新たな出発を意味し、また愛する人が見つかるまでは髪の毛を伸ばさないのです。
しん…と部屋の中の空気が静まりかえりました。
「なんだと…?」
大きい声ではありませんが、それでも、私を震え上がらせるには十分な効果がありました。
「…離縁してください」
私は再度伝えました。
お辞儀をする私の髪の毛がシャランと鳴りました。
「…なぜ離縁しなければならない、俺はマレーネを愛しているのに」
「…私の中にいたアクラム様は死にました」
目を見張るアクラム様。
目を逸らしてはいけないとなぜか思いました。
その時
「お前…おかしいぞ」
ついに兄が言いました。
それにピクリと反応するアクラム様
「おかしと…そう言ったんだ!お前、もしマレーネがお前のことをもっと考えてほしいからと、嫉妬してほしいからと他の男と関係をもってもそれをお前は受け…」
「…殺す」
途端にアクラム様の表情が変わりました。
「マレーネが私以外とそんなことをしていたらその男を殺してやる…!!!」
「…だからあなたが同じことをしてるんです!!」
呆然としたアクラム様。
しかしそのあと…
「いやだいやだ!!いやだああああ!!マレーネ!!なぜだ!なぜ俺のところに帰ってこない!!!帰ろう?なぁここはお前の好きなものがいっぱいだからだろう?だったらおれが揃えてやるから!早く帰ろう!!!」
兄が私に下がるように促しました。
こんなに取り乱したアクラム様を見るのは初めてです。
ただただ恐怖が襲ってきます。
しばらく叫んだかと思うと、私のほうを勢いよく振り返り泣き笑いのような表現のしづらい顔をしておられました。
「そうだ!いますぐ一緒に帰るんだ!!」
ばっと私のほうに来たかと思うと、兄が私をかばってくれました。
「アクラム!!マレーネに触るな!!」
「うううううっるさい!!離せ!マレーネ!!なあ離縁なんていうな!!お願いだから帰ろう!!!」
兄の背中越しにみたアクラム様の狂気に私はめまいがしました。
アクラム様の手が私に迫ってきました。武人のアクラム様の力に兄は負けてしまいそうです。
私はもうだめだと思い、目をつぶってしまいましたが、
その時…
ゴン!!
激しく重たい音がしたかと思ったら、アクラム様が倒れていました。
「大丈夫ですか!!旦那様!奥様!!」
そこにいたのは、庭師のファビアンでした。
30
お気に入りに追加
2,502
あなたにおすすめの小説
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
平凡なる側室は陛下の愛は求めていない
かぐや
恋愛
小国の王女と帝国の主上との結婚式は恙なく終わり、王女は側室として後宮に住まうことになった。
そこで帝は言う。「俺に愛を求めるな」と。
だが側室は自他共に認める平凡で、はなからそんなものは求めていない。
側室が求めているのは、自由と安然のみであった。
そんな側室が周囲を巻き込んで自分の自由を求め、その過程でうっかり陛下にも溺愛されるお話。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。
友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。
あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。
ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。
「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」
「わかりました……」
「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」
そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。
勘違い、すれ違いな夫婦の恋。
前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。
四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。
あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?
りこりー
恋愛
公爵令嬢であるオリヴィア・ブリ―ゲルには幼い頃からずっと慕っていた婚約者がいた。
彼の名はジークヴァルト・ハイノ・ヴィルフェルト。
この国の第一王子であり、王太子。
二人は幼い頃から仲が良かった。
しかしオリヴィアは体調を崩してしまう。
過保護な両親に説得され、オリヴィアは暫くの間領地で休養を取ることになった。
ジークと会えなくなり寂しい思いをしてしまうが我慢した。
二か月後、オリヴィアは王都にあるタウンハウスに戻って来る。
学園に復帰すると、大好きだったジークの傍には男爵令嬢の姿があって……。
***** *****
短編の練習作品です。
上手く纏められるか不安ですが、読んで下さりありがとうございます!
エールありがとうございます。励みになります!
hot入り、ありがとうございます!
***** *****
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる