お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩

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髪を切るということ

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婚姻関係を結んだ女性は、髪の毛を一定の長さ保つようにといわれています。

女性は10代からその髪をのばし、婚約関係が成立してから結婚までのあいだ髪を切りません。

髪の毛に宿るのは、その人との大事な想い。
それがなくならないように大切に大切にされます。


しかし、離縁した女性は髪の毛を切ります。


それは新たな出発を意味し、また愛する人が見つかるまでは髪の毛を伸ばさないのです。















しん…と部屋の中の空気が静まりかえりました。







「なんだと…?」




大きい声ではありませんが、それでも、私を震え上がらせるには十分な効果がありました。




「…離縁してください」


私は再度伝えました。

お辞儀をする私の髪の毛がシャランと鳴りました。






「…なぜ離縁しなければならない、俺はマレーネを愛しているのに」




「…私の中にいたアクラム様は死にました」




目を見張るアクラム様。
目を逸らしてはいけないとなぜか思いました。


その時




「お前…おかしいぞ」


ついに兄が言いました。


それにピクリと反応するアクラム様


「おかしと…そう言ったんだ!お前、もしマレーネがお前のことをもっと考えてほしいからと、嫉妬してほしいからと他の男と関係をもってもそれをお前は受け…」


「…殺す」

途端にアクラム様の表情が変わりました。


「マレーネが私以外とそんなことをしていたらその男を殺してやる…!!!」


「…だからあなたが同じことをしてるんです!!」




呆然としたアクラム様。
しかしそのあと…



「いやだいやだ!!いやだああああ!!マレーネ!!なぜだ!なぜ俺のところに帰ってこない!!!帰ろう?なぁここはお前の好きなものがいっぱいだからだろう?だったらおれが揃えてやるから!早く帰ろう!!!」





兄が私に下がるように促しました。
こんなに取り乱したアクラム様を見るのは初めてです。

ただただ恐怖が襲ってきます。





しばらく叫んだかと思うと、私のほうを勢いよく振り返り泣き笑いのような表現のしづらい顔をしておられました。




「そうだ!いますぐ一緒に帰るんだ!!」



ばっと私のほうに来たかと思うと、兄が私をかばってくれました。



「アクラム!!マレーネに触るな!!」




「うううううっるさい!!離せ!マレーネ!!なあ離縁なんていうな!!お願いだから帰ろう!!!」



兄の背中越しにみたアクラム様の狂気に私はめまいがしました。
アクラム様の手が私に迫ってきました。武人のアクラム様の力に兄は負けてしまいそうです。
私はもうだめだと思い、目をつぶってしまいましたが、




その時…





ゴン!!


激しく重たい音がしたかと思ったら、アクラム様が倒れていました。






「大丈夫ですか!!旦那様!奥様!!」



そこにいたのは、庭師のファビアンでした。







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