お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩

文字の大きさ
上 下
25 / 45

情報屋と対価

しおりを挟む
兄から紹介された情報屋は、ナルサスという男性でした。どこにでもいそうな目立たない男性…
情報屋としては優秀な腕を持ち、相手に警戒心を抱かせない方だそうです。
そして、それ相応の対価の要る情報屋だと。


目立たない男性ではありますが、その所作は洗練された動きでした。


「今は、貴族様のお屋敷にいますからね。これくらいできないと忍び込めないんですよ。色々ね」

ニコッと張り付いた笑顔でした。


「して、お嬢様…いえ…ノルトハイム侯爵夫人。今日はどんな情報をお望みですか?」

カチャとソーサーの音が静かに鳴る。
私は緊張していました。
知りたいと思いながらも、やはり怖いのです。

「侯爵夫人?」


ナルサスさんは訝しむように見たと思ったら、合点がいったように一つ大きな息をはきました。

「ノルトハイム侯爵のことでしょうか?」


この人はなぜわかってしまうんでしょうか?



「いえ、わかったわけではありませんが、大体、夫人から頼まれることといえば、大方が旦那の浮気調査などですからねぇ。いえ、別に馬鹿にしてるわけではありません。財産分与などもありますから把握しておきたいというかたもいらっしゃいますが、奥様は違いますね?」

確信のように話すナルサスさんに思わずコクコクとうなづいてしまいました。


「私は…」

「はい」

「私は、彼のこと…アクラム様のことを何も知らずに婚姻関係を継続してきました。」

「そうなんですね」

「お屋敷では知った顔もいず独りぼっちで、”お飾りの侯爵夫人”と使用人たちに馬鹿にされ、でも旦那様は帰ってこないし、学生時代の恋人?みたいな人との噂は全然消えないし、むしろ先日、体の関係が発覚しまして、それが今でも継続されてるのか、他人の目から見たアクラム様を知りたいのです」


「他人の目?」


「そうです、私は昔自分がイメージした勝手に作り上げたフィルターの優しくて誠実な人というアクラム様しか知りませんでした。でも、実際は違うんじゃないかと、それを知りたいのです。」


「なるほどです、いいですね。実に面白い…いや失礼。あなたのその自我の芽生えのお手伝いをさせていただきましょう。私は何であれ真実しか集めてまいりません。もしかしたら目を背けたくなるような事実を持ってくるかもしれませんよ。それでもいいですか?」


私は知りたいのです。アクラム様のことを。
なので、決心はついてます。

「はい、私は知りたいです。あなたの情報は確かなものだと兄に伺いました。それを見込んでお願いしたいです。」


ナルサスはニッコリと先ほどと違う笑みを浮かべました。


「いいでしょう!契約をいたしましょう!してノルトハイム侯爵夫人…あなたの対価をいただきましょう。何を提示してくださいますか?」



私は決めていました。
今私の手の中にあるのは

一振りの短刀でした。


しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

平凡なる側室は陛下の愛は求めていない

かぐや
恋愛
小国の王女と帝国の主上との結婚式は恙なく終わり、王女は側室として後宮に住まうことになった。 そこで帝は言う。「俺に愛を求めるな」と。 だが側室は自他共に認める平凡で、はなからそんなものは求めていない。 側室が求めているのは、自由と安然のみであった。 そんな側室が周囲を巻き込んで自分の自由を求め、その過程でうっかり陛下にも溺愛されるお話。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...