魔法俳優

オッコー勝森

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精密演技

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 頭の中がゴチャゴチャしたまま、何も掴めた気がしないまま、ついに一般塾生との合流の日がやってきた。サージェント先生もメルも最初よりずっと良くなったとは言ってくれたけど、成長速度が遅く感じられて、自分がすげーイヤになる。身体強化も魔法も教えてもらってすぐ出来たのに、ちっとも進んだ気がしない。粘ついた泥の中で泳いでる感覚。
 モヤモヤする。
 朝は座学、昼は歌のレッスン。ようやく音程の概念が掴めてきた。童謡ですらまだ取れてないっぽいが。道のりは長い。午後四時二十分過ぎ、メルとともに、二階の広い演技指導室に向かう。

「あの、わたしは、隅っこの方でうずくまっていますので」
「いつも?」「はい……人混みが苦手なのです。もう吐きそう」
「ああ。それでたくさんエチケット袋を持ってるわけね」

 胃液無尽蔵か?
 ひっそり植木鉢と同化する(妖精たちにはドン引きされている)メルから目を離し、他の塾生たちがやってるように、テキトーな位置に座る。

「あれ。新顔だな。俺はシャビオ」「オレはラキってんだ」
「よろしくな」「こちらこそ。シャビオはいつ塾に入ったんだ?」
「三年前」

 大ベテランに見えてきた。教室には、すでに二十人ほど集まっている。ライバルは多い。プレッシャーを感じてしまう。弱気になってるのは間違いない。
 少しでも情報を聞き出して、心に武装しとこう。

「シャビオ。演技の先生はどんな感じの人だ?」
「それが、新しく着任したばかりの先生でさ。チラ見だけはした。賢そうな外見の、若い男だった。眼光が鋭かったぜ。ギラギラしてた。あと身長も高かった。ラキくらいあったな」

 優しい先生ではなさそうだ。大人でオレ程度の高さというのは、ぶち抜けて高くはなくとも、かなり大きい方だと言っていい。

「あれ。ラキじゃない」「……やあ。フレアさん」

 弱々しく手を上げる。父親がとてもめんどくさい系女子。にもかかわらず外見がオレのタイプだから、強く出て追い払うことが出来ない。
 当然のように隣に座ってくる。距離が近い。
 シャビオが冷やかしてくる。

「フレア・クラッセルさんだったっけ? 二人は付き合ってるのかい?」
「まだだけど、その予定かしら」「勝手に予定に組み込まれてる」
「そうね。二人が永遠を誓い合うには、まずお父様を倒さなくっちゃ」
「倒すって、どういう概念の『倒す』なんですか?」

 そう尋ねてみたが、イタズラっぽい微笑みを返されただけだった。ヤバいな、顔が好き過ぎる。春を彩る花のよう。満面の笑顔が見たい。過去一週間の演技練習を通じて、メルみたいな儚げな少女の魅力も理解してしまったけど、やはり一番の好みは変わってないようだ。

「最近お父様ったら、毎晩ラキに軽い呪いをかけてて。止めてるのだけど」
「マジで? 道理で寝る前に足が冷えると思ったぜ。呪い返しの術式書いとくか」
「お喋りはもうやめとこうぜ。新しい先生がおいでなすったようだ」

 おいでなすったって。なんだその古風な言い回し。
 細長い手足を上品に揺らして、演技の先生が入ってきた。靴底が固いのか、彼の足音はコツコツと小気味良い。シャビオの評価通り、眼力が強いし身長もオレくらいある。根拠のある自信も感じた。場数踏んでそう。

「初めまして。アイザック・ジャクソンと申します。南部のホロルナ生まれ。年は二十五。ミナスのとあるシンクタンクで『精密演技』の研究を行っています。教師をするのは初めてですが、よろしくお願いします」

 南部ということは海の近くか。顎を撫でた。戦争は、北部の境で接する国との間で起きる。魔脈の太い場所があり、そこの領有権で揉めているのだ。オレの出身地も北部。海に行った経験は一度しかない。
 ホロルナという地名にも聞き覚えはなかった。

「教師が初めてって。大丈夫かしらね」

 フレアが小声で話しかけてきた。小声で返す。

「オレより初心者ってこたぁねえだろ」
「僕の指導方法は、かなりシンプルです」

 前のボードに板書を始める。ペンとメモを取り出した。シャビオとフレア両名から、ギョッとした目を向けられる。

「図体の割に勉強家なんだな」「図体は関係ねーだろ」
「凶悪な面のドラゴンが律儀に列で並んで待ってるような意外さ」
「うるせえ」

「一口に演技と言っても、そのやり方は様々です。すなわち、一つのシーンを演技するにも、無数の方法が考えられます。その中からベストな、もしくなベストに近い動きを、作品のシチュエーションと過去の映像データを用いて見つけ出す魔法術式の研究が、ここ十年盛んに行われてきました。現在最も使われているのは『シャドーメソッド』と呼ばれる方法で、演技の情報を影に落とし込みます。導き出された最適な影と、実際の演技によって作られる影との誤差を比較することで、演技の精密さを評価します。わざわざ『影』という二次元的情報を用いるのは、三次元空間の情報から導き出された最適な演技と、実際に良いとされる演技の乖離が激しかったためです」

 ……ん? メモ帳から顔を上げる。

「しかし我がシンクタンクは、およそ一年半前に、その乖離の問題を解決し、空間最適な演技の導出に成功いたしました。皆さんはこれから、新しく開発された魔法術式のアウトカムに従って、演技の練習をしていただきます」

 周りを見る。誰もがポカンとしていた。内実をよく理解していないらしい。
 オレは違った。もちろん理論の中身はまるでちんぷんかんぷんだけど、同じような手法を使った武芸訓練を、傭兵団副団長から受けていたからだ。
 客観的に「素晴らしい」とされる動作を、魔法が勝手に計算してくれる。
 命の懸かった戦場では、常に精密な動きが求められる。実際役に立ったと思う。
 でも。口元が引き攣った。
 演技でそれ、ありなの?
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