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三章

後頭部を殴られてしまった

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 この街にも大きな神社がある。そりゃあ、春日大社とか出雲大社みたいな有名どころと比べられちゃうとスケール感は小さいのだけど、初もうでするくらいならまったく問題ない。夏には縁日とかもやる。
 その神社に、メロウと二人で向かっている。おひさま傾き、黄色くなってきた空の下、走って。大通りまでやってきた。

「あっ、あの子可愛くておっぱいがデカいですね!」

 トツジョとして足を止めたメロウにぶつかる。ドムンとはね返され、背中から転倒。思わず「ぎゃっ」と叫ぶ。

「痛いっ! でけえんだよシリが! ケバブ式に肉そぎ落としてやろーか!?」
「ごめんなさい。でも成子ちゃんも軽過ぎですよ」

 のばされる手を取った。周りを眺める。老いも若いも、人がそれなりに多い。
 神社の辺りにはもっといるだろう。走ってたらメーワクだ。歩く。

「無宗教国家日本で、最も信仰心に溢れる日はいつだと思いますか?」「ん?」

 問題が出された。テストとか苦手なのに。ちょっと考えてから、答える。

「ちょうど今あたりじゃないの?」
「正解です。そして、大衆の信仰による魔術的なエネルギーはバカに出来ないのです。みんなで祈りを捧げると、良いことがある可能性が上がります」
「歯切れの悪い言い方だね。ゼッタイじゃないんだ」
「術式を書かなければ、せっかくエネルギーがあったとしても、その流れを操り結果を確定させることは出来ませんからねえ。良い目が出るかどうかは偶然が決めます」

 結局は偶然なのか。まあ、祈れば必ず良い目が出るなら、カガクギジュツの発展した現代においても、みんなもっと神様をあがめたてまつってるはずか。
 メロウは続ける。

「ナンシーは悪魔を使って、日本人の行き場なき信仰エネルギーを抽出、利用し、ウイルスを強化する材料にする計画を立てたのでしょう」

 人がどんどん多くなってきた。今日は特に寒いのに。一月一日ってこんなに人来るんだ。ウチは毎年、学校が始まって以降最初の土曜日に初もうでに行くから、知らなかった。日本がむしゅーきょー国家だと信じられなくなりそう。
 手を差し出す。

「手を舐めろってことですか?」
「違うわ。はぐれそうだから手ぇつなご」「はい」

 整備された丘をのぼる。このあと三つの分かれ道があり、真ん中を進めばオオヤシロだ。オオヤシロの前には、かなり急でキツい階段がある。さっき走ったのに。明日は筋肉痛かもしれない。
 メロウがささやいてくる。

「悪魔は、親衛隊の誰かに取り憑いている可能性が高いです」「っ」

 キョロキョロ辺りを見回し、すぐにあきらめた。「成子ちゃん親衛隊」メンバーは、佐伯さんと、ショッピングセンターで会った二人のおっさんしか知らない。人数がいるようだし、知ってる三人のうち誰かに悪魔がとりついてる可能性は高くない、と思う。
 コメカミを押さえる。

「中心メンバーの顔写真とか、見せてもらっとけば良かったかも」

 NRK48の実態ハアクを、ちゃんとしておくべきだったかも。
 と悔やんだのと同時に、メロウの手がスポンと抜けた。

「「え?」」

 後ろを歩いていた集団の足が、急に速くなったのだ。芸能人でもいたのだろうか。逆らえないまま、人波にのまれてく。
 メロウとは別方向に、流されていく。つぶされそう。呼吸するのがせいいっぱい。「あーっ」と叫ぶも、足音にかき消される。

「ちょっとちょっとちょっと!? ラッシュ時の新宿駅!?」

 東京行ったことないけど、毎朝こんな感じなのかな。一分ほどもみくちゃにされたのち、ペイッと吐き出された。ゴロゴロと転がり、小さなオヤシロにぶつかって止まる。フラフラと立ち上がった。ケガはなさそう。さすが私。
 メロウとはぐれてしまった。

「ここ……確か、カグラ殿?」

 小さい頃に一度、みこさんと演奏隊による舞を見にきたことがある。オオヤシロ前にある三本道の、右を行った先にある建物だ。今も、おごそかな音楽が聞こえてくる。
 なつかしい。
 近くにある階段の下をのぞき込んだ。車がいっぱい。駐車場、こんなところにあったのか。いつも徒歩で来るから気づかなかった。ウチは車を持ってない。お母さんはペーパードライバーで、お父さんはそもそも運転免許を持ってない。
 フグの調理師免許は持ってるのに。
 タン、と軽い音がはじけた。奥のセダン車からだ。人が降りてきた。
 ピ、と鍵をかける。

「! あれ……」

 見覚えのある女性だった。親衛隊メンバーの佐伯さん。カグラ殿ではなく、林の方に向かう。スマホの時計を見ると、四時。暗くなるまでまだ時間がある。
 いける。階段を通って、彼女のあとを追いかけた。気配を消す。
 なんのために林に入ったのか。神社の林になにがあるのか。ひょっとすると、悪魔にとりつかれた上での行動かもしれない。
 自分のストーカーをストーキングする。おもしろい構図だった。木の裏から、キョーミシンシンで佐伯さんの背中を眺める。
 その時だった。
 ゴン、と後頭部に強いショーゲキが走る。上手い一撃。クラリとした。倒れる。
 ヤバい。意識が――。
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