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三章

お母さんの黒歴史を聞いてしまった

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「ん」「なんですかその手は」
「お年玉ちょーだい」「イッパツヤらせてくれるなら良いですよ」

 援交じゃねえか。
 正月がやってきた。お父さんとお母さんからお年玉をもらう。フクロを開けると、なんと五万も入っていた。去年の二千円(正確には二千円札)とはウンデイの差。
 定食屋「まだい」の景気がいかに良くなったかを思い知らされる。まさに経済力。自分たちで用意した豪勢なおせち料理に舌鼓を打ち(沐美とメロウがいるので作りがいがあった)、テキトーな雑談をしてから自室に戻る。

「ケチだなあ」「等価交換の法則です」
「ホムンクルスなんだから乗りこえてみせなよ。はあ。格◯け始まるまで休んどこっかな」

 ベッドにゴロリと寝転んだ。夜にきっちり熟睡するタイプの私、うっかりゲームで夜更かししちゃった翌日とかならいざ知らず、昼寝はあまり得意じゃないのだ。ゴロゴロするだけ。
 の◯太パイセンのようにはいかない。すぐにあきた。ベッドから降りて、本だなのマンガに手をのばす。
 やめた。勉強机に向かい、宿題ノートを開く。数学の問題集に手をつける。簡単な問題から。

「わお。どういう心境の変化ですか?」

 驚きながらも茶化してくるメロウに対して、逆に問いかける。

「昨日、なに調べてたの?」「悪魔の痕跡です」

 私のベッドに収まるメロウ。「成子ちゃんの香りと温もりですう」などとほざく。あとで消臭スプレーをかけておく必要がありそうだ。

「痕跡なんてあるの?」
「悪魔という存在は、呼び出されなければこっちに来れません。魔界と現世の分厚い壁を越えられないのです。悪魔によるナンシー・レイチェルへの協力がほぼ確実である以上、少なくとも誰かしらから召喚されています」
「つまりメロウは、悪魔の召喚儀式がどこで行われたかを調べてたわけ?」
「いいえ違います。儀式自体の痕跡は、召喚された悪魔が消してしまうんです。エクソシストみたいな連中に嗅ぎ付けられないように。私が調べてるのは、儀式準備・・の痕跡です。それなりのセットがいるんですよ、あれには。とりあえず、開いてる店を探し回って、召喚の儀式に使えそうな物品が売ってるかどうか見て回り、それを購入した客がいるかどうかを聞き回りました」

 エクソシストとかいるんだ。自称聖女を眺めていると、こういうのを退治しようとする輩がいても、不思議じゃあないように思われる。個人的な興味はおいといて、メロウの話に耳を傾ける。

「召喚儀式の場から離れ過ぎると、悪魔は魔界に連れ戻されます。召喚陣が描かれたのは、この街か、せいぜい隣街かってところでしょう。しかし道具の準備にネット通販が使われた可能性は十分にある。調査が無意味に終わることも想定してました。が、目撃証言が出るわ出るわ。私の書いたリストの物品をまとめ買いしていく客が頻繁に現れるらしいです。それも、数年に亘って。悪魔崇拝団体でもいるのでしょうか」
「ナンシー・レイチェルに協力してる悪魔は、そこ経由でこの世にやってきた奴ってこと?」「その可能性が高いです」

 メーワクな連中がいるものだ。「あら、厨二談義かしら? 面白そうねえ」、と第三者の声が聞こえてきた。バッと振り向く。
 お母さんだ。部屋に入ってきてたらしい。ノックくらいしてよ、と文句を言おうとした。両手に、二つのいちごパフェが乗ったおボンを持ってる。
 おいしそう。エサ乞う犬のように舌を出した。許してつかわす。

「悪魔とか召喚とか。私も昔やってたなあ。悪魔貴族ごっこ。地獄の卑しき亡者どもを支配するのよ~。私は侯爵だったわ」
「意外とえらかったんだね。パフェちょーだい」

 食べる。ムースはトロン、ゼリーはトゥルン、クリームはジュワッと濃い。おいしすぎる。ヒトミにハートと星マークが浮かび上がりそう。
 こりゃあ地獄の亡者も従っちゃうね。

「エンマ大王とかいたの?」「いたわ。プ◯キュアやミュ◯ツーもいたわ」
「世界観がムチャクチャじゃん。ス◯ブラ?」
「転生者にチートを与える女神さまもいたけど、肝心の転生者がいなかった」
「なにその、市民の声にこたえてせっかく設置したのに誰にも使ってもらえない行政相談窓口の受付スタッフみたいな存在」

 しかもあとになって「税金ドロボウ」って陰口叩かれるヤツじゃん。あ、舞台は地獄なのか。死んで地獄に落ちるならともかく、あえて地獄に転生してやろうなどという好き者がいるはずもない。
 スプーンについたクリームをペロリと舐める。

 地獄とか天国とか。死後の世界って考え、大キライ。

「っ…………」「? どうしたの、お母さん?」
「えっと。成子ちゃん、今すごく怖かったなあって」「へ?」
「ゴホン。私の黒歴史は置いといて。中学生が夢見がちなのは仕方ないにしても、大人になっても厨二ぃな奴ってけっこーいるのよね。イタいのが」
「何才の人がなにを好きになっても別にいいでしょ。百才がプ◯キュアやミュ◯ツー好きでも、追っかけ愛して幸せなのがサイコーだよ」
「成子ちゃんはサバサバしてるわねえ。でも、いい大人たちがわんさか集まって、好きな女子中学生のために怪しげな儀式してても、同じこと言える?」

 イタズラっぽく嘲り笑う、性格の悪いお母さんに、パフェを食べる手が止まる。黙って聞いてたメロウも同じく。

「儀式?」
「ええ。『成子ちゃん親衛隊』の、夜会の通例行事なんだけど」
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