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三章
ストーカー団体の存在を知ってしまった
しおりを挟むお母さんの言う「成子ちゃんストーカー団体」の正式名称は、「成子ちゃん親衛隊」らしい。つまり私のファンクラブである。ベッドの上で寝転がりつつ、「んふ~♪」と枕を抱きしめた。
ニヤニヤだ。ニヤニヤニヤニヤ。
「私のファンクラブ。私のファンクラブ。そんなのあるんだ。ゲヘヘ」
「調子いいですねえ成子ちゃん。ストーカーって犯罪行為ですよ。すなわち犯されてるんですよ成子ちゃん」「それはロンリがヒヤクしてない?」
「私は飛べますからね。くだらない論理や証明など飛ばします」
「くっ。私も飛びたくなってきた」
数学のテストで「証明略 □」って書いてハナマルもらいたい。
「ここが……成子ちゃんのおへや……っ!」
床に正座する佐伯さんが、キョロキョロと辺りを見回す。アイドルゆかりの場所に行って喜ぶファンさながら。かっこよく、普通にしてたら社会的地位も高そうなお姉さんの一挙動一挙動に、心からムフフとならざるを得ない。私って罪なアイドル。
脳みそが気持ちいい。
「お母さんが、今日は泊まっていきなって。床にその布団しいて寝てください」
「それ私の布団ですよ」「メロウは物置で雑魚寝しといて」
「嫌ですよ。寒いじゃないですか」「大丈夫でしょあんたなら」
「冷たいです! ひどいですひどいです!」
駄々こねられても。
だって人間の方が優先なんだもん。
「成子ちゃんのベッドで成子ちゃんと添い寝を要求します!」
「いーやーだー汚らわしい」「汚らわしくないです!」
「お前みたいな変態のボケナスが、かわいい成子ちゃんと寝床をともにしようとするなど、なんて破廉恥で烏滸がましいのだ。恥を知れ。ところで成子ちゃん」
「はい。どしたのでしょ」
「あの、隅っこで佇んでる女の子。成子ちゃんの友達で、なんかすんごいお金持ちの子だよね?」
沐美のことだ。さすがストーカー。ちゃんと調べてる。
彼女は現在、メロウの性奴隷だ。ありのままの表現では間違いなく警察沙汰である。どう誤魔化そう。
「お金持ちの道楽ってヤツ? ここで召使いとして働いてるんです」
「……なる、ほど…………」
うーん、やっぱりこの言い訳じゃあ苦しいかな。
「成子ちゃんと一緒にいると、成子ちゃんに仕えたくなる。神気に当てられて。わかるよその気持ち。とってもよくわかる」
うんうんと頷いた。
そんなバカなリクツがあるのか。いや。沐美は私のこと好きだって言ってたし、もしかしたらあるのかも。うん。なんかそんな気がしてきた。
「ケタケタ。なに言ってんですかこの女。バカですねえ」
「ううん。沐美ちゃんは私が改心させたの。で、私にチューセイをちかった」
「は?」「私すごい!」「成子ちゃんはすごくてかわいい!」
鼻を高くする。唖然とするメロウ。
「こうやって功績って奪われていくんですね」
「話変わるけど。『成子ちゃん親衛隊』って何人くらいいるの?」
「一万人くらいいるよ」「いちまんっ!?」
「ネット会員含めるとだけど。定食屋『まだい』がニュースになってからすごい増えたよね。ライトなファンが。黒装束着てサバトに来る初期からのヘヴィーなファンは、私含めて五十人くらい」
「黒装束着てサバト???」
怪しい団体感がやばい。とんでもなく変な奴らに好かれてる気がする。
でも私のファンならオーケー! 親衛隊のウェブサイトを見せてもらった。写真とか肖像画とかはなく、ただ、なぜか「未韋成子」を表していると分かる抽象的な絵が、トップページに載っている。
インフォメーションページには、無意味な記号の列がズラズラ並んでた。それもなぜか、「未韋成子」の私生活を記していると分かる(一応、定食屋「まだい」のツ◯ッターアカウント、Y◯utubeなどの「まだい」関連動画のURLも貼っつけられてはいる)。
「なんか、ぱないね」
「趣味の悪いロリコン電波集団です。警察に通報した方がいいですよ」
「ロリコン認定されるのはしゃあないけど、趣味悪いとか言うな」
「閉鎖させた方がいいですよ。ホントに。誰が始めたのか知りませんけれど、マジヤバですよこれ。洗脳魔法と大差ありません。波長が合う人は一瞬で成子ちゃんの虜になっちゃいますよ」
「そうなの? へえ。じゃあむしろどんどんやってこう! はー。ファン数一万かー。百万くらいにならんかなぁ」
「顔出しすればもっといくと思うよ成子ちゃん」
「うーん。もうテレビ出てるしね。うんとかわいく撮ってくれるならいーよ!」
「よしキタ! スタジオ押さえとこう。いつがいい?」
「一月五日より後がいいけど。でも、シフトもめっちゃ入ってるし」
「いつでもいいからね!」「うん。イェーイ!」
「あーあ。後悔しても知りませんよ」
佐伯さんとファン数増加計画を練る。高校生になったら定食屋の後継者兼ユ◯チューバーになることも視野に入れよう。播磨くんとも相談しなきゃなぁ。
充実した一日だった。あと一週間ちょいで世界滅びる可能性あるけど、気分良くぐっすり寝る。
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