上 下
4 / 7
魔剣初代の章

魔剣初代──幕切

しおりを挟む

 さて、と『女鍛冶師』は改めて青年を見やる。

 彼女は言った。
 この魔剣の有する伸び代は如何程の物かは不明だと。

 なんだって花の形態を取り鋼の数百倍の硬度を持ってこの世界の自然界に生息しているのか、その根幹にあるのは本来ミスリルとは生物的可能性を秘めた無機であり有機でもあるのだと。

 それが遂に第一号として証明されたのだ。
 同時にこれは女鍛冶師の知る限り前例がないからこそ、何が起きるか分かった物ではない。

 もしかすると普通の剣として役目を終えるかもしれないし、騎士の望む通りある日突然美女の声が刀身から聞こえて来るかも知れない。

 心を覗く術があれば魔剣の胸の内を聞く事も出来るかもしれない。
 だが、それが無粋であると分かっていれば愛剣と末永くやっていけるかもしれない。

「これは始まりだよ、あの魔剣はこれから魔剣が望む成長スピードで自然に見聞きした事柄を吸収するんだ。
 さて、今回の注文に関して私は依頼人の騎士様を調べないでいたんだ。
 早期納品になったからそんな時間が無いのも当たり前だがね? それで君に聞きたいのが……例の騎士とやらはどんな人物なんだい」

「どんな……か。
 よくある話だ、依頼人は若手の騎士でな。次の冬には王都でオーク討伐隊を率いる事になっていたエリート武官だ。
 剣の腕は優秀。ウチの店の商品の卸先でもある訓練場に顔をよく出す美丈夫でもあるな」

「へぇ、イケメンじゃないか」

「だな。んで……オーク討伐隊の隊長任命式で王に掲げる自らのシンボルともなる剣が欲しかったのだと。
 それならばと例の騎士様は宮廷の魔導士とかいうのにアンタの事を聞いて、オーダーメイドを発注するに至ったってわけだ」

 赤髪を、揺らして。

「アンタが聞きたいのは結局、なぜあの魔剣を欲したのか。だろ?
 その騎士様は『女心が分かる異能』をお持ちらしくてな、どんな女も名前を呼ぶだけで虜にできるそうだ」

「……ほう?」

「アンタには不快な話だったか」

「いいや、いや! ぷ、くく……面白い相手が『最初』の使い手になったものだ。どんな運命を描くのやら!」

 青年は赤髪を揺らして、口元を抑えて笑いを堪えている様子の女鍛冶師を見た。

 名前を呼ぶ事で虜に出来る。
 なるほど、汎用にも魔剣であるならば如何な粗雑な錆びた剣であろうとこの世界では何者かが付けた名か銘がある。

 そこで人ならず自らの愛剣さえも世界で最高の味方にしようとしたのだろう。

 だが生憎それは叶わない。

「あははっ! あの魔剣に、名は無いよ! 私が文に書き記す中で最初に書いた事だ!
 なるほど自由にはならぬかと思えば、その男は嬉しそうに笑ったって? ならきっと今後彼は我が身に隕石でも降るような災難に見舞われなければ面白い未来が見られそうだ!」

「名は無いって……せっかくアンタが打った剣なのに、それで良かったのか?」

「それを言うなら、私の『造る物だけを作る』信条だって首を傾げる話だろうに。
 第一、我が子に名を与えるには私は母親として未熟だった、だからあの剣の銘は……」


 ──女鍛冶師は自身の生んだ奇異な魔剣の銘を、【無名】と呼んだ。






 ――――『とある女鍛冶師と魔剣【無名】』.終





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...