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わたし、狼になります!
第45話 「じっとしていないで脱いでください。全部ですよ。ぜんぶ。早く」 「い、いや、でも、その」
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「もう、ルロイさんったら」
シェリーは口に手を添えてくすくす笑った。
「元気いっぱいですね?」
ルロイはきまりの悪い顔をして椅子にすとんと腰を落とした。
「ああ、そうだった。いけない。我慢だ、我慢」
キッチンから、ことこと、ことこと、沸騰したケトルの蓋が揺れる音が聞こえていた。
シェリーは可愛いキイチゴ模様のなべつかみでケトルの手をつかみ、ティーポットに湯をそそいだ。今日のお茶は、ショウガの根っこを粉にしたものとカモミールの花を乾燥させたハーブティー。さわやかな香りが鼻腔をくすぐる。
「どうぞ、ルロイさん」
シェリーはルロイの好きな甘いジャムを添え、ポットと一緒に運んだ。ことん、と音をさせてテーブルにマグカップを置く。
「ちょっとまだ熱いですから、ゆっくり、ふうふうして飲んでくださいね。あったまりますよ」
「うん分かった全然疲れてないぞ、俺は」
やはりまるで聞いていない。ルロイはマグカップを持ち、飲みながら、言われたとおりにふうふうした。
「あちち、おいしい。あちち、最高にうまい、あちち」
「そんなに褒めて頂かなくても。何だか恥ずかしくなっちゃいます」
シェリーは過分すぎるぐらいに褒めそやされて恥ずかしくなった。頬を染め、トレイを胸に抱えて、顔を隠す。
「美味いなー。あちちち。うまいなあ」
「だからふうふうしてくださいって……」
一挙手一投足を追いかけ続けて気もそぞろ、視線をシェリーにばかり集中させていたものだから、マグカップを置こうと思った場所にテーブルはなく。
マグカップは横倒しにひっくり返った。熱湯ごとルロイの膝に降りかかる。
「あちっ!」
「あら、まあ、たいへん」
シェリーはあわててキッチンへと駆けていった。冷たい水で濡らしたタオルを持って戻る。
「大丈夫ですか、ルロイさん」
傍らに屈み込み、濡れたルロイの膝を手早く拭き取る。
「火傷していませんか?」
「う、うん」
こぼれた熱いお茶を拭き、しずくの落ちるテーブルをぬぐう。
「大丈夫ですか。ほら、早く脱いでください」
「えっ」
「以前、お城のお医者様に、熱いお湯かぶっちゃったまま、ほったらかしにしたら火傷の治りが悪くなったりすると聞いたことがあります。ですから、ほら、じっとしていないで脱いでください。全部ですよ。ぜんぶ。早く」
「い、いや、でも、その……」
「だめですわ。ちゃんと冷やさないと」
なぜか躊躇しているルロイの言い訳をぴしゃんと遮る。
シェリーは半ば無理矢理、ルロイの服を引っ剥がしにかかった。
しかし、なぜかルロイは頑強に抵抗した。ウエストの穿き口を両手で掴んで引っ張り上げようとする。
「い、いや、その、待って、ズボンはいいよ、大丈夫だから」
「いいえ、だめです。早く脱がないと火傷が広がってしまいます」
シェリーは声を怒らせて、もごもご口ごもるルロイを叱った。
「もし水ぶくれにでもなったら、真っ赤になってぱんぱんに腫れ上がってしまうんですよ。はやく冷たい水で冷やさなくては。それから、ええと、裏庭に行ってアロエを取ってこなくちゃ」
「い、い、いいってば。ホント大丈夫だって」
「ルロイさん」
シェリーは、きっと眉を吊り上げた。いつに増して言い訳の多いルロイを、ぷう、と頬を膨らませて睨み付ける。
「傷跡が残ったら大変ではないですか。ただちに脱いでくださらないと困ります」
「でも、あの、いや、その」
「もう」
業を煮やしたシェリーは、無理矢理ルロイのズボンを引き下げた。
「我が儘言ってはいけませんっ」
「あうっ!」
シェリーは口に手を添えてくすくす笑った。
「元気いっぱいですね?」
ルロイはきまりの悪い顔をして椅子にすとんと腰を落とした。
「ああ、そうだった。いけない。我慢だ、我慢」
キッチンから、ことこと、ことこと、沸騰したケトルの蓋が揺れる音が聞こえていた。
シェリーは可愛いキイチゴ模様のなべつかみでケトルの手をつかみ、ティーポットに湯をそそいだ。今日のお茶は、ショウガの根っこを粉にしたものとカモミールの花を乾燥させたハーブティー。さわやかな香りが鼻腔をくすぐる。
「どうぞ、ルロイさん」
シェリーはルロイの好きな甘いジャムを添え、ポットと一緒に運んだ。ことん、と音をさせてテーブルにマグカップを置く。
「ちょっとまだ熱いですから、ゆっくり、ふうふうして飲んでくださいね。あったまりますよ」
「うん分かった全然疲れてないぞ、俺は」
やはりまるで聞いていない。ルロイはマグカップを持ち、飲みながら、言われたとおりにふうふうした。
「あちち、おいしい。あちち、最高にうまい、あちち」
「そんなに褒めて頂かなくても。何だか恥ずかしくなっちゃいます」
シェリーは過分すぎるぐらいに褒めそやされて恥ずかしくなった。頬を染め、トレイを胸に抱えて、顔を隠す。
「美味いなー。あちちち。うまいなあ」
「だからふうふうしてくださいって……」
一挙手一投足を追いかけ続けて気もそぞろ、視線をシェリーにばかり集中させていたものだから、マグカップを置こうと思った場所にテーブルはなく。
マグカップは横倒しにひっくり返った。熱湯ごとルロイの膝に降りかかる。
「あちっ!」
「あら、まあ、たいへん」
シェリーはあわててキッチンへと駆けていった。冷たい水で濡らしたタオルを持って戻る。
「大丈夫ですか、ルロイさん」
傍らに屈み込み、濡れたルロイの膝を手早く拭き取る。
「火傷していませんか?」
「う、うん」
こぼれた熱いお茶を拭き、しずくの落ちるテーブルをぬぐう。
「大丈夫ですか。ほら、早く脱いでください」
「えっ」
「以前、お城のお医者様に、熱いお湯かぶっちゃったまま、ほったらかしにしたら火傷の治りが悪くなったりすると聞いたことがあります。ですから、ほら、じっとしていないで脱いでください。全部ですよ。ぜんぶ。早く」
「い、いや、でも、その……」
「だめですわ。ちゃんと冷やさないと」
なぜか躊躇しているルロイの言い訳をぴしゃんと遮る。
シェリーは半ば無理矢理、ルロイの服を引っ剥がしにかかった。
しかし、なぜかルロイは頑強に抵抗した。ウエストの穿き口を両手で掴んで引っ張り上げようとする。
「い、いや、その、待って、ズボンはいいよ、大丈夫だから」
「いいえ、だめです。早く脱がないと火傷が広がってしまいます」
シェリーは声を怒らせて、もごもご口ごもるルロイを叱った。
「もし水ぶくれにでもなったら、真っ赤になってぱんぱんに腫れ上がってしまうんですよ。はやく冷たい水で冷やさなくては。それから、ええと、裏庭に行ってアロエを取ってこなくちゃ」
「い、い、いいってば。ホント大丈夫だって」
「ルロイさん」
シェリーは、きっと眉を吊り上げた。いつに増して言い訳の多いルロイを、ぷう、と頬を膨らませて睨み付ける。
「傷跡が残ったら大変ではないですか。ただちに脱いでくださらないと困ります」
「でも、あの、いや、その」
「もう」
業を煮やしたシェリーは、無理矢理ルロイのズボンを引き下げた。
「我が儘言ってはいけませんっ」
「あうっ!」
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