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第21話 くどくど
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「ほんとうですか?」
思わぬ答えに、つい、はしゃいだ声をあげてしまう。ルロイは相好を崩して笑った。
「雌どもが言ってたとおりだな。あ、いや、女の子、って言うんだっけ、人間の場合は」
「いえ、お気になさらないで」
「さっき、シェリーが寝てる間に、シルヴィのところへ行って話をいろいろ聞いてきた。女の子はみんなきれい好きだから、明日の朝イチにでも絶対、せっけんとタオルと着替えを持って、泉に連れて行ってやれって。あ、でも」
ルロイはふと、眉根を寄せて顔をしかめた。
「何だったっけ。あいつ、何かくどくど言ってたなあ、今夜は止めとけとか何とか……何だろ。ま、いっか。なるべく早く水浴び行きたいよな?」
「でも、こんな時間に大丈夫ですか」
シェリーは薄暗い部屋から見える窓の外を眺めた。月は出ているようだが、外の様子は何も見えない。
「俺たちは夜目が利くからな。別に夜だからどうってことはない。行きたいなら連れてってやるよ」
「行きたいです」
「よし、決まりだ」
ルロイはシェリーの手を取った。ぎゅっと握られる。
「案内してやる。行こう」
狼みたいな、大きな手だった。少々、握る力に遠慮がなさ過ぎるのも、夢の中と同じだ。
でも、とシェリーはちょっぴり不思議に思った。
男の子の手と、自分の手は、何だかちょっと違う。さらさらした薄い布と、ごわごわした強い布があるように、たぶん、男の子と女の子の手は、材質が違うんだろう。形が違うのも、きっとそのせい。
かごにタオルと着替えとせっけんを入れて、ルロイと、手をつないで。
夜の森を少しあるくと、水の流れる音が聞こえてきた。視界を遮っていた森が次第にまばらになり、左右に開ける。せせらぎの音が近づく。水面が見えた。青い月の色がゆらゆらと反射している。
「ここだ」
「……きれい」
岩場から流れ出るわき水の源流が、ちいさな泉を作っていた。こんこんとわき出る水が、薄雲に隠れた月をほのかに映している。
「じゃ、俺、薪を集めてくる。あっちで火を熾しとくよ。あと、何もないとは思うけど、何かあったらすぐに大声出して呼んでくれ」
ルロイは泉の向こう側の岩場を指差した。
「はい」
シェリーはわずかに顔を赤らめてうなずいた。
シルヴィの妹たち──もふもふとかわいらしい子狼たちだった──からもらった薄緑色のワンピースドレスを脱ぎ、きちんとたたんで、泉のふちの岩の上へと置く。
水の傍に屈み込んで、手でかるく水をすくってみる。ひやりと冷たい。
しばらく手のひらの水を見つめ、さえざえと月の映る水面と見比べる。シェリーは意を決した。ぱしゃ、と自分の肩に水をかけてみる。
「きゃ……!」
思いも寄らない冷たさに、声が裏返った。
「大丈夫か」
岩陰の向こうから、あわてたようなルロイの声が響く。シェリーは答えた。
「ちょっと冷たかっただけです。大丈夫です」
「うん」
何事もなく会話を終えようと思ったが、そこで、ふと疑問に思った。きょとんと小首をかしげる。
「ルロイさん……さっきたしか薪を拾いに行くとおっしゃってたのでは」
「え、いや、意外とたくさんあったから。大量に拾ってきたから。俺のことは気にしなくていいから」
顔を見せないまま、岩の向こう側でなぜかあたふたとルロイは答える。
「分かりました」
シェリーは納得してにこにことうなずいた。ルロイがすぐ傍にいてくれるのなら安心だ。
「ねえ、ルロイさん」
「何だ」
思わぬ答えに、つい、はしゃいだ声をあげてしまう。ルロイは相好を崩して笑った。
「雌どもが言ってたとおりだな。あ、いや、女の子、って言うんだっけ、人間の場合は」
「いえ、お気になさらないで」
「さっき、シェリーが寝てる間に、シルヴィのところへ行って話をいろいろ聞いてきた。女の子はみんなきれい好きだから、明日の朝イチにでも絶対、せっけんとタオルと着替えを持って、泉に連れて行ってやれって。あ、でも」
ルロイはふと、眉根を寄せて顔をしかめた。
「何だったっけ。あいつ、何かくどくど言ってたなあ、今夜は止めとけとか何とか……何だろ。ま、いっか。なるべく早く水浴び行きたいよな?」
「でも、こんな時間に大丈夫ですか」
シェリーは薄暗い部屋から見える窓の外を眺めた。月は出ているようだが、外の様子は何も見えない。
「俺たちは夜目が利くからな。別に夜だからどうってことはない。行きたいなら連れてってやるよ」
「行きたいです」
「よし、決まりだ」
ルロイはシェリーの手を取った。ぎゅっと握られる。
「案内してやる。行こう」
狼みたいな、大きな手だった。少々、握る力に遠慮がなさ過ぎるのも、夢の中と同じだ。
でも、とシェリーはちょっぴり不思議に思った。
男の子の手と、自分の手は、何だかちょっと違う。さらさらした薄い布と、ごわごわした強い布があるように、たぶん、男の子と女の子の手は、材質が違うんだろう。形が違うのも、きっとそのせい。
かごにタオルと着替えとせっけんを入れて、ルロイと、手をつないで。
夜の森を少しあるくと、水の流れる音が聞こえてきた。視界を遮っていた森が次第にまばらになり、左右に開ける。せせらぎの音が近づく。水面が見えた。青い月の色がゆらゆらと反射している。
「ここだ」
「……きれい」
岩場から流れ出るわき水の源流が、ちいさな泉を作っていた。こんこんとわき出る水が、薄雲に隠れた月をほのかに映している。
「じゃ、俺、薪を集めてくる。あっちで火を熾しとくよ。あと、何もないとは思うけど、何かあったらすぐに大声出して呼んでくれ」
ルロイは泉の向こう側の岩場を指差した。
「はい」
シェリーはわずかに顔を赤らめてうなずいた。
シルヴィの妹たち──もふもふとかわいらしい子狼たちだった──からもらった薄緑色のワンピースドレスを脱ぎ、きちんとたたんで、泉のふちの岩の上へと置く。
水の傍に屈み込んで、手でかるく水をすくってみる。ひやりと冷たい。
しばらく手のひらの水を見つめ、さえざえと月の映る水面と見比べる。シェリーは意を決した。ぱしゃ、と自分の肩に水をかけてみる。
「きゃ……!」
思いも寄らない冷たさに、声が裏返った。
「大丈夫か」
岩陰の向こうから、あわてたようなルロイの声が響く。シェリーは答えた。
「ちょっと冷たかっただけです。大丈夫です」
「うん」
何事もなく会話を終えようと思ったが、そこで、ふと疑問に思った。きょとんと小首をかしげる。
「ルロイさん……さっきたしか薪を拾いに行くとおっしゃってたのでは」
「え、いや、意外とたくさんあったから。大量に拾ってきたから。俺のことは気にしなくていいから」
顔を見せないまま、岩の向こう側でなぜかあたふたとルロイは答える。
「分かりました」
シェリーは納得してにこにことうなずいた。ルロイがすぐ傍にいてくれるのなら安心だ。
「ねえ、ルロイさん」
「何だ」
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