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今、あたし、ビッキビキにみなぎってんの

うら若き狼が裸で戦うのは如何なものかと

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 毒々しい鱗粉めいた明滅が翼からこぼれ落ちてゆく。
 赤と黒と灰色にゆらめき、おぞましくもちぎれかけた堕天の翼が、純白の武装コートを突き破って魁偉にうち広げられた。
 その表情が見る間に憎悪へとねじくれ返ってゆく。

 凄まじい羽音が耳元で渦巻いた。
 レオニスは憎悪にまみれた哄笑を放った。

「人間如きに這いつくばる愚かな負け犬が!」
「うっせえ、エリマキトカゲ! ぱたぱた飛んでんじゃねえよ!」

 ラウはレオニスの足元を思いっきり蹴り上げ、砂煙をまき散らした。ちらちら反射する雲母の煙で視界を奪い、一気に距離を詰める。
 槍の下をかいくぐり、一足飛びにレオニスの胸元へと飛び込む。

「ところでラウ、ひとつお話があります」

 アリストラムが戦闘の合間に何気なく口を挟んだ。ラウは目をそらさずに怒鳴り返す。

「へ? この状況で話しかけられても困るんだけど!」

 剣を薙ぎ払う。レオニスの胸に太刀傷が走った。
 レオニスは水銀とも腐汁ともつかぬどろりとした血を吹き出してのけぞった。
 虹彩のない、深紅に茹だる眼がぎらぎらと凶悪に燃えあがる。

「貴様、この私に傷を……!」
 レオニスは胸の傷を押さえながら、毒煙めいた荒々しい怒気を吐き散らす。

「ラスボスならそれらしい威厳のあるせりふ吐けっての。この腹黒陰険トカゲ野郎!」

 ラウはひょうひょうと笑い飛ばし、レオニスめがけてさらに打ちかかった。繰り出されるラウの斬撃に、レオニスの翼が削ぎ飛ばされる。漆黒の羽がまき散らされた。

「ぐ……!」
 レオニスは平衡感覚を失い、もんどり打って砂の上に転げ落ちた。
「で、話って何?」

 アリストラムは顔を背けたまま、神妙な面持ちで頷いた。
「人狼化したばかりでお気付きにならないのも致し方なきことかと思いますが、うら若き狼が裸で戦うのは如何なものかと……」
「はだっ!?」

 レオニスが逃がれようとして背を向けた隙を狙い、背後からさらに翼を鷲掴んで、根本へ一撃を叩き込んだ。一気に引きちぎる。

 ラウは顔を真っ赤にして振り返った。

「黙って見てないで最初から言ってよ!」
「一応、確認を取らないと」
「何のだよ!」
「ふざけるな、下僕どもが!」

 レオニスが吠える。
 ちぎり取られた羽毛が、あやしい螺旋のかがやきを放って蒸発した。はらはらとこぼれ落ちながら、青光りする魔力を帯びた幻死蝶にかたちをかえ、消えてゆく。

「ご馳走様でした」
 アリストラムはパキッと指を鳴らす。
 ひゅっと風の舞う音がして、ラウは普段通りの装い──耳当ての付いた毛皮の帽子、ゴーグル、ボタンのいっぱい付いたベストにふくらんだ胸をぴったりと包むヘソ出しのチューブトップ、ショートパンツと分厚い編み上げブーツ姿に戻った。

「私はそのままでも良かったのですが」
「良くないから!」

 ラウは笑っていなす。
 そこで、改めて表情を険しくし、後退るレオニスに向かって、怒りにきらめくくゾーイの剣をぴたりと突きつけた。

「そろそろ終いにしてやるよ、レオニス。高く付くよ、この代償はね」

 そのとき。
 古めかしい花束のような、アルカイックな香りが鼻をくすぐった。
 うっすらと立ちこめる白い霧の匂い。
 頭の中で警鐘が打ち鳴らされはじめる。

「どうしたのです、ラウ」

 アリストラムが顔色を変える。ラウはふらつく頭を押さえた。視点が定まらない。
「わかんない……何これ、どうなってんの」

 身構えようとしたラウは足をもつらせ、あえなく膝をついた。
 平衡感覚が失せる。
 まっすぐに立っていられない。
 くすくすと笑う声が、耳に突き刺さる。

 壊れた鈴を振るような声が、木霊となって、幾重にも反響していた。
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