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身体中がズキズキと痛み悲鳴をあげている
ここは……?
目が覚めると、柔らかなベッドの上で寝ていた。
そうだわ、確か落ちたのだった
「気がついたか?」
耳障りの良い穏やかな声が聞こえる。
自分に向けられた声なのかと思い、ゆっくりと声のした方向へと顔を動かす。
「痛っ…」
首を少し動かしただけなのに、まるで電流が流れたような感覚が走る。
「痛むのか?」
声と共に、遠慮がちに触る手の温もりを顔に感じた。
大きな手が私の顔を優しく撫でてくれる。
その手に触れられるだけで、痛みがスーッと波が引くように消えていった。
優しい手の主は気遣わしげな表情で見つめてくる。
流れるようにサラサラとした漆黒の長い髪を、ゆるく一つに束ねた若い男性だった。
師長様と同じようなローブを身に纏っており、長いまつ毛に黒曜石のような瞳が印象的だ。
(かっこいい……)
思わず心の声が漏れる所だった。
心臓が早鐘を打っている
ばちっと目があった瞬間に、心を鷲掴みにされたようだった。
直視できないほどに綺麗な男性だったというのもある。けれど、単にその理由だけではなくて、自分でもよく分からない妙に落ち着かない感情が溢れてくる。
自分の感情も、今の状況も、全てが整理できずに言葉に詰まっていた。
「声がでないのか?
まだ痛むだろうが、じきに治まる」
『は……い……』
やっとのことで絞り出せたのは、肯定の返事のみだった。
「話せるのだな。巻き込んですまなかった」
男性はベッドの傍にある椅子に腰掛けたまま、深々と頭を下げる。
私は、何かに巻き込まれたのだろうか。
『私は、散歩していたと思うのですが…』
「こんな所に人がいるとは思わなかったのだ。この辺りは滅多に人は通らない。」
憂いを含んだ眼差しで私を見つめながら、男性は訥々と語り始めた。
どうやら男性が魔法で作った穴に、私が落ちたということ。
意識不明で酷い怪我だったので、早急に応急処置をしてくれたこと。
治療により傷は消えているが、痛みの感覚は残ってしまうということを。
命を落としていたのかもしれないという事実に、今頃になって恐怖が蘇る。
私の怪我の原因を作った人物でもあり、命の恩人でもある男性に心から感謝の気持ちを伝える。
『助けていただき、本当にありがとうございました。』
「いや、こちらの責任だ。本当にすまない。ご家族も心配されているだろう。
痛みが治まれば家まで送らせて欲しい。
ご家族にも私から説明させて欲しい」
『いえいえ大丈夫です!
家族は、いません……ここには…』
私は、しどろもどろになりながらも、強い口調で返答する。
「一人で暮らしてるのか?」
『いえ……』
気がついたら異世界に召喚されていたのです……それで
お城でお世話になっています
などと答えたら、きっと頭のおかしい人だと思われてしまう。
この方には、変な人だと思われたくない。
『お世話になってる所がありまして、そろそろ帰らないと…』
あまり詮索されないように言葉を濁して返答する。
「もう少し休んでからの方がいい。
心配せずとも私は隣の部屋にいる。後から送っていこう」
そう言うと男性は隣の部屋へと姿を消した。
誠実な人だな。
急に一人になり淋しさを感じる。
男性が入っていった部屋の扉を名残り惜しむように見てしまう。
痛みと体のだるさが酷い。
私は、もう少しだけ休ませてもらおうと思いそっと瞼を閉じた。
こちらの世界に来てからというもの、見ず知らずの方にお世話になってばかりだ。
段々と自分の警戒心がなくなっている。
優しい人達ばかりに巡り会う。
色々と勘繰り疑う自分が情けない。
いつのまにか深い眠りへと誘われて、ぐっすりと眠っていた。
どれくらいの時間がたったのだろう。
窓からの日差しが眩しい。
目を開けると、すっかりと明るくなっていた。
思いがけずに熟睡して気分もすっきりしていた。
エレナさん心配しているかもしれない。
頭がクリアになるにつれて、お城の人達に連絡していないことが気がかりになってくる。
捜索されていたらどうしよう…
ここは……?
目が覚めると、柔らかなベッドの上で寝ていた。
そうだわ、確か落ちたのだった
「気がついたか?」
耳障りの良い穏やかな声が聞こえる。
自分に向けられた声なのかと思い、ゆっくりと声のした方向へと顔を動かす。
「痛っ…」
首を少し動かしただけなのに、まるで電流が流れたような感覚が走る。
「痛むのか?」
声と共に、遠慮がちに触る手の温もりを顔に感じた。
大きな手が私の顔を優しく撫でてくれる。
その手に触れられるだけで、痛みがスーッと波が引くように消えていった。
優しい手の主は気遣わしげな表情で見つめてくる。
流れるようにサラサラとした漆黒の長い髪を、ゆるく一つに束ねた若い男性だった。
師長様と同じようなローブを身に纏っており、長いまつ毛に黒曜石のような瞳が印象的だ。
(かっこいい……)
思わず心の声が漏れる所だった。
心臓が早鐘を打っている
ばちっと目があった瞬間に、心を鷲掴みにされたようだった。
直視できないほどに綺麗な男性だったというのもある。けれど、単にその理由だけではなくて、自分でもよく分からない妙に落ち着かない感情が溢れてくる。
自分の感情も、今の状況も、全てが整理できずに言葉に詰まっていた。
「声がでないのか?
まだ痛むだろうが、じきに治まる」
『は……い……』
やっとのことで絞り出せたのは、肯定の返事のみだった。
「話せるのだな。巻き込んですまなかった」
男性はベッドの傍にある椅子に腰掛けたまま、深々と頭を下げる。
私は、何かに巻き込まれたのだろうか。
『私は、散歩していたと思うのですが…』
「こんな所に人がいるとは思わなかったのだ。この辺りは滅多に人は通らない。」
憂いを含んだ眼差しで私を見つめながら、男性は訥々と語り始めた。
どうやら男性が魔法で作った穴に、私が落ちたということ。
意識不明で酷い怪我だったので、早急に応急処置をしてくれたこと。
治療により傷は消えているが、痛みの感覚は残ってしまうということを。
命を落としていたのかもしれないという事実に、今頃になって恐怖が蘇る。
私の怪我の原因を作った人物でもあり、命の恩人でもある男性に心から感謝の気持ちを伝える。
『助けていただき、本当にありがとうございました。』
「いや、こちらの責任だ。本当にすまない。ご家族も心配されているだろう。
痛みが治まれば家まで送らせて欲しい。
ご家族にも私から説明させて欲しい」
『いえいえ大丈夫です!
家族は、いません……ここには…』
私は、しどろもどろになりながらも、強い口調で返答する。
「一人で暮らしてるのか?」
『いえ……』
気がついたら異世界に召喚されていたのです……それで
お城でお世話になっています
などと答えたら、きっと頭のおかしい人だと思われてしまう。
この方には、変な人だと思われたくない。
『お世話になってる所がありまして、そろそろ帰らないと…』
あまり詮索されないように言葉を濁して返答する。
「もう少し休んでからの方がいい。
心配せずとも私は隣の部屋にいる。後から送っていこう」
そう言うと男性は隣の部屋へと姿を消した。
誠実な人だな。
急に一人になり淋しさを感じる。
男性が入っていった部屋の扉を名残り惜しむように見てしまう。
痛みと体のだるさが酷い。
私は、もう少しだけ休ませてもらおうと思いそっと瞼を閉じた。
こちらの世界に来てからというもの、見ず知らずの方にお世話になってばかりだ。
段々と自分の警戒心がなくなっている。
優しい人達ばかりに巡り会う。
色々と勘繰り疑う自分が情けない。
いつのまにか深い眠りへと誘われて、ぐっすりと眠っていた。
どれくらいの時間がたったのだろう。
窓からの日差しが眩しい。
目を開けると、すっかりと明るくなっていた。
思いがけずに熟睡して気分もすっきりしていた。
エレナさん心配しているかもしれない。
頭がクリアになるにつれて、お城の人達に連絡していないことが気がかりになってくる。
捜索されていたらどうしよう…
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