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『あの、そろそろ失礼します。お仕事中にお邪魔しました』

私は帰ることにした。

「宿まで送ろう」
 グレッグ様は上着を羽織る為に奥へと向かう。


『え?大丈夫です。本当にありがとうございました』

一言お断りして一人で部屋を退室した。


廊下へ出て、来た道を戻る。
多分こちらの方向だったと思う。

「ソフィア」

『!』

振り返るとグレッグ様が慌てて追いかけてきた。

「きみは、せっかちなのだな。
宿まで送ろう』


それ以上断れなくて、お言葉に甘えることにして一緒に歩き出す


門を出ると、頭からすっぽりとスカーフを被った

その時ふとグレッグ様の視線を感じた。

『あの、これは。えっと知り合いに見つかりたくなくて…』


「そうか」

グレッグ様はそれ以上追求してこなかった。

何も言わなくても歩調を私に合わせてくれている。そのさり気ない気遣いが嬉しい。
横目でグレッグ様を伺う。
シルバーの髪に整った顔立ち、鍛えられた体、私なんかにも優しい。あのブルーグレーの瞳に見つめられると、誰しも魅了されるのではないだろうか。侯爵家の方だそうだし、私なんかとは違う別世界の人…。

「どうした?」

グレッグ様がこちらを向き、思わず視線が合う。

私はすぐに顔を背けた。
つい見惚れていたなど口が裂けても言えない

『すみません。』

「いや、別に謝ることではないが」

ただ見惚れているのは私だけではなかった。周囲に視線を向けると、グレッグ様を見つめて頬を紅らめる女性がいることに気づく

『グレッグ様は人気があるのですね』

とたんグレッグ様は眉をひそめる

「はぁ…人気か。
私というよりも、家名をみているのだろう」

『グレッグ様は、侯爵家の方だとか』

「ああ。確かにそうだが、私は3男で、爵位は歳の離れた兄が継いでいる。隊に所属しているし、彼女らの望むものは手に入らないと思うがな」

『彼女らの望むもの……ですか、
別に何も望んでないんじゃないですか?』

「は?」

『そんはに深く考えていないと思いますよ。グレッグ様は素敵だし、優しいから、自分が側にいられたらいいなと思ってるんじゃないでしょうか』

「ハハ」

突然笑われて少しムッとする

『何かおかしいでしょうか』

「いや、皆がソフィアのようだといいな」

『私のようですか?
私はただ、自分が思ったことを言っただけですけど』

「ソフィアが思っていることか。
そうか」

グレッグ様はかるく頷きながら優しく微笑んでいた。


楽しい時間はすぐに過ぎてしまうもので、気がついたら三日月亭にたどり着いていた

『送っていただいて、ありがとうございました。』

名残惜しいけれど別れの挨拶を言う。

「ソフィア。
何か困っていることはないか」

『え?困っていることですか』

「あぁ。まだ一人で出歩くのが不安なのではないか?」

そう言って、視線を私のスカーフへと向ける

『…』

「そうだな。私は。明後日が休みなんだが、良ければ買い物にでも行くか?」


『買い物ですか?』

私はグレッグ様の嬉しいお誘いに戸惑う。

「あぁ。何か必要なものなどあるだろう。良ければ私が護衛を引き受けよう」


護衛?
もしも義姉に見つかった時のことを考えて心配してくれているんだ。
とても嬉しい、けれどその優しさに素直に甘えてよいものか分からなかった

『護衛だなんて。グレッグ様もお忙しいでしょうし、大丈夫です』


「忙しくはないから大丈夫だ。都合が悪いか?」

『いえ』

「ならば明後日迎えにくる。」


反論する暇もないうちに、そう言い残して去って行った。

明後日?本当に?
グレッグ様にまたお会い出来る嬉しい気持ちと、困惑する気持ちが整理できずに心が混乱していた。












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