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31 最終話

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「突入しろ!」

「拘束しろ!」


「な、なにごとだ⁉︎」
「騎士団だ‼︎ 騎士団が突入してきた‼︎」


神殿内には、大勢の騎士が押し寄せてきていた。

普段通りに作業をする神官達は、日常を打ち破る騒々しさにあわてふためく。


「皆さん、お騒がせして申し訳ありません。

神殿が、多額の賄賂を受け取っていたようです。

勿論、証拠がありますよ。

余罪含めて、神官長を拘束致します。

皆さんに危害は加えるつもりはありません。

抵抗などせずに、

しばらく、そのまま待機なさってください」


混乱する神官達に、ビルは冷静に説明をして回る。


「一体何の証拠があってこんなことを!ニコライ!ニコライを呼べ‼︎」

「詳しくは王城で伺いますよ。神官長。連れて行け!」

「はっ」


暴れるのも虚しく、神官長は騎士団によって呆気なく連行された。

「女神像は‼︎、ワシの、ワシの女神像には、絶対に誰も手をだすな!」

最後まで、喚きながら連れて行かれた。

煌びやかな女神像は、証拠品として押収撤去された。

宝石は適正価格で引き取り、孤児院へ寄付。


神殿と繋がりのあった貴族達にも捜査の手は及んだ。

そんな捕物騒ぎがあった頃、

私はその場に居合せなかった。


何故かその日は、急遽予定が変更された。

私は、ニコライ様と共に孤児院へ訪問することになった。


マリーベルは、自分で刺繍を施したハンカチや、枕カバーや、食材などをニコライと共に届けるように頼まれたのだ。


急な予定変更に驚いたけれど、ニコライ様と一緒に活動できることが嬉しかった。


喜びマリーベルと対照的に、ニコライはどこか落ち着きがない様子だ。


孤児院の訪問を終えて戻ると、神殿内は騒然としていた。

「これは……何があったのでしょうか? ニコライさま」

ニコライは拳を握りしめ、思い詰めた表情でマリーベルを見つめる。

「ニコライさま?」

「マリーベル様、お話ししなければならないことが…」

「ニコライ殿!こちらにいましたか。マリーベルさまも。さぞ驚かれたでしょう。どうぞお二人ともこちらへ」

「ビル様?」

もしかして、神殿にまた侵入者でもあったのかしら、と心配するマリーベル。

マリーベルとニコライはお互いに顔を見合わせると、ビルと共に神官長の部屋へと向かった。


室内に入ると、ビルはニコライ達に座るように促す。

「ニコライ殿、マリーベル様。
実は、神官長を拘束しました。」

「ええっ⁉︎」

予想外の事実に、私は驚きのあまり言葉を失う。

ニコライの表情は強張る。

「それで、ニコライ殿。アーサー様よりあなたに言伝です。

神殿の不正を正すことに尽力してくれたことに感謝し、次の神官長を命ずる」


「━━━━は?」


ニコライは混乱していた。

「まぁ、ニコライ様が神官長さまに?
おめでとうございます。」

マリーベルは、心からお祝いの言葉を伝える。

「ビル殿、それは何かの間違いでは?私は━━」

「ニコライ殿、それ以上の言葉はあなたの胸の内に留めなさい。アーサー様は、寛大なお方です。ですが、私もそうとは限りません。

殿下が、神官長を任命することは異例のことです。

今後の神殿の在り方を良い方向に変えて行けるかどうかは、あなたにかかっていますよ。

では、私はこれで。今後は王城へも定期的に報告に来るように。それでは、マリーベルさま、また近いうちに」


ビルは用件を端的に伝えると、そのまま帰っていかれた。

「ニコライさま‼︎ こちらにいらっしゃいましたか。神官長が!神官長が連れて行かれました!ど、どういうことなのですか?」



神官達が部屋へと押し寄せる。

「━━あぁ、皆に集まるように伝えてくれ」



ニコライは、決意を固めて指示を出すとマリーベルに向き合う。

その瞳の中から陰りは消えていた。

「マリーベルさま、聞いての通り、どうやら私が神官長になったようです。」


「うふふ。さすがニコライ様ですわ。ニコライ様。ニコライ様がよろしければ、私もこちらに勤めることは可能でしょうか」




「マリーベル様…」

「ニコライさま、こちらでの経験は私にとって、とても興味深いものばかりです。

私は、もうしばらくこちらで働かせていただきたいと存じます。

きっと両親も、いいえ、必ず説得してみせます」

「マリーベル様。」

「それに、私が……ニコライ様のお側にいたいのです。
も、もちろん、ご、ご迷惑でなければですけれど……」

マリーベルは終始真っ赤な顔をして、ニコライへ想いを告げる。

「私は、自分に都合の良い夢を見ているのでしょうか。

なんだか、とても信じられないことばかりが起こっていて……。」

ニコライは、マリーベルの手を取り片膝をつく。


「マリーベル様、どんなことがあってもあなたを守ると誓います。

あなたの隣にずっと一緒にいさせてください。

あなたの一番近くにいたいのです。

どうか、あなたのお側にいる事を許可してしていただけますか。」

「ニ、ニコライ様、そ、それはっ、つ、つまり……?」

あまりにも突然の告白に、混乱するマリーベル。

「マリーベル様、愛しています。
あなたに婚約の申し入れをしているのです。
私のこの想いを、受け入れてくださると嬉しいのですが……」

見上げるニコライの瞳の中に、マリーベルの姿が映っている。

あぁ、こんな風に、ずっとニコライ様に見つめられていたい。

もっと、近くで……


マリーベルは、ニコライの瞳の中に自分をもっと映してもらいたい欲望に駆られる。

もっと、近くに。

気がつくとマリーベルは、両膝をつく姿勢になっていた。

ニコライと同じ視線の高さで、二人は見つめ合う。

「ニコライ様」


ニコライの瞳の奥では、獣のような感情が見え隠れする。

情欲的な目を絡ませるうちに、ニコライもマリーベルへ近づく。

マリーベルの頬へ手を添えると、そっとその唇に触れた。


その一瞬触れた柔らかな唇の感覚がとても嬉しくて、

幸せを感じる。

もっと、触れてほしいと望んでしまう。

「んんっ」

軽く唇に触れるだけの口づけから、舌を絡ませるようにお互いを求める。

これ以上はまずいと、ニコライはマリーベルを抱きしめる。



「と、とりあえず皆に説明が先でしょうね。参りましょう。マリーベルさま。」

「は、はい」


気持ちを落ち着けると、ニコライはマリーベルへと手を差し伸べる。

マリーベルはその手を取り立ち上がると、そのまま一緒に部屋を後にした。

幸せを噛み締めるように、繋がれた手をギュッとにぎりしめながら━━








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