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「よいか、マリーベル。期間は三ヶ月だ。

三ヶ月が期限だ。その間に聖人君子になれ

とは言わない。せめて人並みで

いい。普通になれ。

いいな、分かったな?」

恒例となっているお茶会の席で、アーサー殿下は、眉間に皺を寄せてこう述べた。 怒りを抑えきれてないのが私にも分かる。

『三ヶ月ですか?そんな……無理です』

だって、もう随分前から私に関する噂は流れている。それを三ヶ月で消すことなんて出来るのかしら。

お父様が本気になれば可能でしょう。でも、人の本質を見極める良い機会だと放置していらっしゃるし。

それに、私にはやはり荷が重すぎる。
私に将来この国の王妃が務まるとは到底思えない。

幼い頃から婚約者候補の一人として、様々な教育を受けてきた。けれど、どんなに頑張っても能力の限界を感じている。

教師達も「伸び代がありますな」
「マリーベル様の勉強に取り組む姿勢には、可能性を感じます」

などなど、口を濁す言葉ばかり。
可もなく不可もなく……つまり人並み、それこそ普通だ。

それに、人前で話すことも苦手だし、会話を広げることもできない。極度の緊張から体調不良になるし。

なんとかごまかせたとしても、外国の客人を招待した時に顔をださない訳にはいかない。
その時にボロが出る。

あまり人前に出る必要のない、引きこもり生活。

そんな夢のような生活を送る方法がないかしら。



「何の努力もせずに即答するとは、お前は預言者か。未来でも見えるのか?どうなんだ?答えてみろマリーベル!」



アーサー様はテーブルにドンッと拳を叩きつけた。

「ひぃっ」

その音で一気に現実に引き戻された。


私を睨むアーサー様の視線が痛い。


とても婚約者候補に対する態度に見えない。

「お前が世間に何と言われてるのか分かってるのか? 悪女だ。
よもや知らぬとはいうまいな?
先日も夜会で取り巻きを奴隷のように扱っていたそうではないか。」

『と、取り巻き?奴隷?
アーサー様、取り巻きだなんてそんな言い方はおやめくださいませ』

そもそも私はいつも壁の花。
つまり一人でいる。
 
先日がんばって参加した夜会では、案の定気分が悪くなり、侍女達に手を貸してもらいながら帰路についた。
その時のことだろう。


このままでは家の役にも立てない

お荷物令嬢である。

まだ悪女と言われてる方が、少し出来る人みたいかも……

だめだ、もう耐えられない


これ以上ここにいたら、胃に穴があきそう

「私に口答えするのか?いい度胸だな。
3ヶ月後の私の誕生日パーティーで、お前との正式な婚約発表を行う。

これ以上私の顔に泥を塗るような行動は慎め。
行動を改めておくように」



『ア、ア、アーサー様、
で、ですから、何度も申し上げておりますように、私との婚約を考え直してくださいませ。
他の婚約者候補の方に━━」

刺すような視線を向けられて、言葉を飲み込む。

まるで雪国にいるように、一瞬にして空気が凍りついたように感じた。

冷気なのか殺気なのか、ぞわぞわと全身に鳥肌が立つ。

恐る恐るアーサー様を見ると、鬼のような形相で私を睨んでいる。

こわい、こわい、こわい、

「それが出来たら苦労しない。
とにかく用件は以上だ。」

そう言って立ち上がり去って行かれた。

『それができたらって……

どうしてできないのですか」

張り詰めた空気から解放されて、はぁと安堵の溜め息をつく。

私は侯爵家の令嬢として、両親の愛情を一身に受けて、それはそれは大事に育てられた。

金髪の波打つ髪に透き通る肌、両親譲りの容姿にも恵まれている。

何不自由なく過ごしたおかげで、家から出たいと思わず、外の世界に興味もなく、交流もしない、友達もいない、いわゆる引きこもり気味になってしまった。

常に数人の侍女が控えて、全く乱れてもない髪を整えたり、扇子で仰いでくれたり、

勉強は難しいといえば、
ならば代わりに勉強しますのでお嬢様は横で見ていてくださいと言われ、
ちょっとでも体調が優れない時は、スプーンなど重いでしょうと、食べさせてくれたりする。

その様子を見て、私が使用人をこき使っていると思われている。


我が侯爵家は、父の人望もあり、王家への忠誠心もある。なので、婚約者として我が家は都合が良いのだ。

婚約者候補は私を含めて四人。
幼い頃より候補者は、王家から派遣される教師達によって様々な教育を受けてきた。


両親は王家に嫁ぐのは私の幸せだと思っている。



アーサー様は容姿端麗、王立学園を主席で卒業されていて、剣の腕も立つ人気のある方だ。

だけど、私に対してはかなり威圧的だ。
初めての顔合わせのお茶会で、思わず泣いてしまったほどに。

それから何度も婚約をお断りしているのだけど、両親もアーサー様も私の気持ちなど聞いてくれない…。

婚約者にほぼ内定した状態だ。

『はぁ…どうしよう』

私はため息をつきながら帰宅した。


 



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