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「フィオーリ様、少しよろしいでしょうか」

しおらしい態度で、メアリーがフィオナに話しかける。

「後にしてくれ」


「旦那様、フィオーリ様にお客様ですので、お手を離されては?」

アランは渋々フィオナの手を放した。

「フィオーリ嬢の客人に私も挨拶をしよう」


アランがフィオナをエスコートしようと進み出る。

「旦那様! フィオーリ様のたーいせつなお客様のようですわ。なんでも二人きりで外でお会いしたいとか。さ、さ、フィオーリ様、このまままっすぐ行かれて、階段を降りて外に行かれてくださいませ、ささっ」

「えぇ? ちょっと押さないでください」

口調こそ丁寧だが、有無を言わせぬ物言いでメアリーはフィオナの背中を押して外へと誘導した。



アランと二人きりになると、メアリーはすかさずアランに擦り寄る。

「旦那さまぁ、どうやら、フィオーリ様にはたーいせつな殿方がいらっしゃるようですよー」


「本当にフィオーリ嬢の客人なのか? 」


「さーあ、でも、どーしても二人で話したいことがあるそうですよ。帽子を目深に被っていましたけれど、綺麗なあごのラインが見えました。旦那様がいながら、隅におけませんねー、ねぇ旦那様、あんな浮気女のことは放っておいて、私と、これから━━


「メアリーと言ったな」

「嬉しいですわ、やっと名前を覚えてくださったのですね」


「私の婚約者であるフィオーリ嬢のことを軽んじてはいけない。それに、来客の取次はまず私に確認がするのが先だ。 フィオーリ嬢に何かったらどうするのだ。とにかく一人で行かせるわけにはいかない。そこをどいてくれ」


「待ってください、旦那さまぁ。フィオーリ様とのことは白紙に戻すのでしょう?放っておけばいいではないですかー」


メアリーはアランの行く手を身を挺して阻む。

「なんだと? 誰にきいた?」

アランに射抜くような視線を向けられたメアリーは、バツの悪そうな顔をする。


「答えろ!」


「こわいですわぁ旦那様、フィオーリ様のことは私が付き添いますので!」


メアリーは、慌ててフィオナの後を追いかけて行った。
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