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第ニ部
治療 ①
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治安隊が到着すると、スタッフの方達によってルーカスは馬車へと運ばれた。
私も後に続いて乗り込む。
この馬車は治安隊所有のものらしく御者も騎士服を身に纏っていた。
緊急を要すると察して周囲が避けてくれるので、怪我人の運搬にも使われる。
車内に一緒に乗り込んで来たのは、中年の精悍な顔立ちの男性だった。
鍛えられた体格の男性は威圧感があり、やましいことがある人であれば、一緒の空間にいるだけで萎縮してしまうだろう。
「宜しくお願いします。」
「あぁ」
寡黙な方なのか、もしくは事件性があるということで私も疑われているのか、それ以上その時は言葉を交わすことはなかった。
御者の男性の掛け声と共に馬車は動き出す。徐々にスピードを上げて。
診療所の先生は私を信じて話してくれたので、私もその信用に応えるべく、身元を明らかに伝えた。やましいことなどないから。
そして図々しいお願いになることを謝罪して、エミリオへの言伝を頼んだ。
エミリオはまたきっと誤解するわね…
逢引していたのだと…
はぁ
先生から紹介されたのは王都の治療院だった。
王都までの道のりはどれくらいだろう
「ルーカス…」
スタッフの方に持たせてもらった水を含んだタオルで、ルーカスの汗ばむ顔を拭う。
ぽた、ぽた、とルーカスの頬に私の涙が落ちる。
慌てて涙を拭うと、ルーカスが瞼を開ける
何か言いたそうだけど、言葉にする気力がないようだ。
ただ黙って私の目を捉えると、すぐに瞼を閉じる。ルーカスは口角をあげていた。
あぁルーカス…
私は、声を押し殺して泣いていた。
声をかけられるまで、私達以外の同行者の存在のことが頭から抜け落ちていた。
横たわるルーカスしか目に入っていなかったから。
「心配だな」
「え?」
「このスピードなら速く到着する。恋人ならさぞ辛いだろう」
「恋人に見えますか?」
隊員は怪訝な顔をする。
心配で気持ちのやり場にどうしようもなくて、見ず知らずの人に自分の立場を吐露する
「だとしたら問題ですね……
私……別の男性と、彼の知っている人と、
結婚してるのに」
返答に困っているのだろう、黙っている隊員に向かって、ポツポツと私は自分の過去の出来事を話していた。
ルーカスとは幼馴染だと
どうしようもない理由で別れてしまったこと
結婚して大切な家族がいるのに
偶然再会して
苦しむ彼を放っておけなかったこと
「誰も傷つけることなんてしたくないのに、私の行動はいつも誰かを傷つけてしまう…
ずっと忘れられなくて
過去に囚われたままで…
前に進んでいかないといけないのに」
俯いてぎゅっと自分の掌を握りしめる。
よく知らない相手だからこそ素直にきもちを話せるのかもしれない
「あなたは過去に囚われているのですか」
「え?」
「私にはあなたが自ら望んでいるように思えます。
囚われているということは、少なくとも逃れたいという気持ちがあるはずです。
それなのに放っておけずに、自ら招いた行動に思えますが」
「そんなことっ、分かっています!」
「あぁ、あなたはまだ若い。
今まで生きてきた時間よりも、これから先の人生の方が恐らく長いだろう。
多くのことを経験するだろう。
どんな事があっても、誰かや何かのせいにしないことだ。逃げるのは簡単だ。
立ち向かうことよりも。
その時の自分の最善を尽くしてから後悔することだ
他人の私が分かったようなことを言って…
突然すまない
後輩からも説教くさいとよく指摘される…」
騎士様は最後の言葉はモゴモゴと口籠もりながら話すと、それ以上言葉を続けることはなかった。
私も見ず知らずの方に身の上話を聞かせたことに恥ずかしくなり、謝罪する
「いえ…こちらこそ…すみません」
私も後に続いて乗り込む。
この馬車は治安隊所有のものらしく御者も騎士服を身に纏っていた。
緊急を要すると察して周囲が避けてくれるので、怪我人の運搬にも使われる。
車内に一緒に乗り込んで来たのは、中年の精悍な顔立ちの男性だった。
鍛えられた体格の男性は威圧感があり、やましいことがある人であれば、一緒の空間にいるだけで萎縮してしまうだろう。
「宜しくお願いします。」
「あぁ」
寡黙な方なのか、もしくは事件性があるということで私も疑われているのか、それ以上その時は言葉を交わすことはなかった。
御者の男性の掛け声と共に馬車は動き出す。徐々にスピードを上げて。
診療所の先生は私を信じて話してくれたので、私もその信用に応えるべく、身元を明らかに伝えた。やましいことなどないから。
そして図々しいお願いになることを謝罪して、エミリオへの言伝を頼んだ。
エミリオはまたきっと誤解するわね…
逢引していたのだと…
はぁ
先生から紹介されたのは王都の治療院だった。
王都までの道のりはどれくらいだろう
「ルーカス…」
スタッフの方に持たせてもらった水を含んだタオルで、ルーカスの汗ばむ顔を拭う。
ぽた、ぽた、とルーカスの頬に私の涙が落ちる。
慌てて涙を拭うと、ルーカスが瞼を開ける
何か言いたそうだけど、言葉にする気力がないようだ。
ただ黙って私の目を捉えると、すぐに瞼を閉じる。ルーカスは口角をあげていた。
あぁルーカス…
私は、声を押し殺して泣いていた。
声をかけられるまで、私達以外の同行者の存在のことが頭から抜け落ちていた。
横たわるルーカスしか目に入っていなかったから。
「心配だな」
「え?」
「このスピードなら速く到着する。恋人ならさぞ辛いだろう」
「恋人に見えますか?」
隊員は怪訝な顔をする。
心配で気持ちのやり場にどうしようもなくて、見ず知らずの人に自分の立場を吐露する
「だとしたら問題ですね……
私……別の男性と、彼の知っている人と、
結婚してるのに」
返答に困っているのだろう、黙っている隊員に向かって、ポツポツと私は自分の過去の出来事を話していた。
ルーカスとは幼馴染だと
どうしようもない理由で別れてしまったこと
結婚して大切な家族がいるのに
偶然再会して
苦しむ彼を放っておけなかったこと
「誰も傷つけることなんてしたくないのに、私の行動はいつも誰かを傷つけてしまう…
ずっと忘れられなくて
過去に囚われたままで…
前に進んでいかないといけないのに」
俯いてぎゅっと自分の掌を握りしめる。
よく知らない相手だからこそ素直にきもちを話せるのかもしれない
「あなたは過去に囚われているのですか」
「え?」
「私にはあなたが自ら望んでいるように思えます。
囚われているということは、少なくとも逃れたいという気持ちがあるはずです。
それなのに放っておけずに、自ら招いた行動に思えますが」
「そんなことっ、分かっています!」
「あぁ、あなたはまだ若い。
今まで生きてきた時間よりも、これから先の人生の方が恐らく長いだろう。
多くのことを経験するだろう。
どんな事があっても、誰かや何かのせいにしないことだ。逃げるのは簡単だ。
立ち向かうことよりも。
その時の自分の最善を尽くしてから後悔することだ
他人の私が分かったようなことを言って…
突然すまない
後輩からも説教くさいとよく指摘される…」
騎士様は最後の言葉はモゴモゴと口籠もりながら話すと、それ以上言葉を続けることはなかった。
私も見ず知らずの方に身の上話を聞かせたことに恥ずかしくなり、謝罪する
「いえ…こちらこそ…すみません」
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