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第一部
エミリオ
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はぁ…今日も疲れた
あれから隣街へと交渉へ向かうメンバーが発表された。サラお嬢様、ルーカス、アーノルドさん、そして、お嬢様の世話役として私。
従業員の間で恰好の噂のネタとなった。
ルーカスに付き纏うリナ、
3角関係だとか、
サラお嬢様は騙されているんだとか、
周囲は執拗に私を悪者に仕立てていく。
私は、一緒に行くことを望んでもいないのに。
このまま真っ直ぐに帰りたくなくて、
行くあてもなく、ただ遠回りをして歩いていた。
「リナ?」
この声はもしかして……。
振り返ると、そこにはこちらへ向かって歩いてくる笑顔の青年の姿があった。
「━━エミリオ」
今、一番会いたくない人。
ルーカスと別れることになった原因の人。
こんな言い方は、失礼ね。
エミリオは、何も悪くないのに。自分の性格の悪さに嫌気がさす。
「あれ、リナの家ってこの辺りなの?」
エミリオは、戸惑う私を気にすることなく、気軽に話しかけてくれる。
「ううん、ちょっと歩きたくて。」
「何かあった?」
「…」
お願い
優しくしないで。
今、優しくされると、あなたに縋ってしまう。そんなことしたくない。
「あ、そうだ、この辺りによく行く店があるんだけど、良ければ一緒にご飯どう?
何か元気ないし、そういう時は美味しいものを食べると元気でるから。あれ、単純かな俺」
屈託のない笑顔が眩しい。エミリオは取引先のお店に勤める従業員だ。うちの商会へ品物を届けてくれたり、新商品の営業に来たりと何かと顔を合わせる機会が多い。
こんな風に帰り道に会うこともあって、
取引先の方だし、何度か食事の誘いを受けたことがある。
今までは……。
でも、ルーカスに誤解されたこともあるし、
さすがにもう断わろう。
「エミリオ、私━━」
「荷物重そうだね? 持つよ、さぁ行こう、ね?」
野菜などを購入していた私は、買い物袋を持っていた。エミリオはヒョイッと私の手から買い物袋を取ると、先に歩きだす。
断るつもりだったのに、買い物袋を持つエミリオを追いかける形となり、結局お店まで一緒に来てしまった。
窓辺の席に案内されて、私達は隣り合わせで座った。
どうして来てしまったのだろう……。
こういう曖昧な態度が、ルーカスに誤解されてしまったのに。
そもそもエミリオは、私をどう思っているのだろう。
「リナは、何食べる?」
「えっと、じゃあ、エミリオと同じもので」
「そっか、分かった」
注文を終えて食事を待つ間、居心地が悪くて窓の外を眺めていた。
別に何も悪いことをしていないのに、なんだか落ち着かない。
通り過ぎる人達を見ていると、自分のことを考えずにすむ。
これから帰るのかな、誰か待っているのかな、とか、一人空想の世界へと入っていた。
そんな私を、じっとエミリオが見つめていたことも気づかないくらいに。
食事が運ばれてくると、食欲はないと思っていたのに、一口食べると美味しくて、結局完食してしまった。落ち込んでいる時でも、食事が喉を通るのが不思議だ。
「どう? 少しは、元気なった?」
エミリオは、私を元気づけようと明るく声をかけてくれる。食事中も、他愛もない話題を提供してくれた。
エミリオは優しい。
それはまるで、私に好意があるのではないか、と勘違いするほどに。
私の曖昧な態度も、エミリオへ勘違いさせてしまうものなのかもしれない。
「エミリオ、あの……、もしも、
勘違いだったらごめんなさい。
こんな事言うなんて、私なんかが自惚れた発言するようで、心苦しいんだけど……。
私ね、好きな人がいるの。
その人とは付き合ってたんだけど……。
だから、もう、こんな風に2人で食事したりすることは遠慮したいの。
あの、エミリオがそんなつもりで誘ってくれたなんて、思っているわけじゃないんだけど!
もしそうだったら、その、エミリオを傷つけてしまう?じゃないかと思って…」
店内は食事を楽しむ人が多く、賑わっていた。人々のざわめきが聞こえているのに、返事を待つ間は、2人だけの空間のようにも感じられた。
なんだか居づらくて、もしも勘違いだった場合は、自分の発言が恥ずかしくて、とにかく逃げ出したくなった。
「エミリオ、私、そろそろ帰るね。」
「勘違いじゃないよ」
「━━え?」
「その、俺さ、
付き合っていたってことなら、今は
別れたってことだよね?言葉のあやをとるようで悪いけど。
俺だって、そんな時につけ込むようなことはしたくない。
だから、別にそんなに深く考えないでほしい。
リナが迷惑じゃなければ、
友人として、こうして時々一緒に会ってもらえたら…嬉しいかな、なんて。
はは、都合が良すぎるかな?やっぱり……」
エミリオは、私の気持ちを知ってもそれでも友人としてあろうとしてくれる。
職場で孤立している私にとって、その言葉は荒んだ心にじわじわと滲み入るものだった。
エミリオは優しい。
だから、甘えてしまう自分がいた
「友人…としてなら」
「じゃあ、また誘うね。友人として」
ニコッと私に笑いかけてくれるエミリオ。
最近はいつも気が張っていることが多くて、知らず無表情になっていた。
職場では、誰にも弱い所を見せたくなかったから。
エミリオの笑顔につられて、私も顔が綻ぶ。
エミリオの優しさのおかげで、少し元気になった気がした。
あれから隣街へと交渉へ向かうメンバーが発表された。サラお嬢様、ルーカス、アーノルドさん、そして、お嬢様の世話役として私。
従業員の間で恰好の噂のネタとなった。
ルーカスに付き纏うリナ、
3角関係だとか、
サラお嬢様は騙されているんだとか、
周囲は執拗に私を悪者に仕立てていく。
私は、一緒に行くことを望んでもいないのに。
このまま真っ直ぐに帰りたくなくて、
行くあてもなく、ただ遠回りをして歩いていた。
「リナ?」
この声はもしかして……。
振り返ると、そこにはこちらへ向かって歩いてくる笑顔の青年の姿があった。
「━━エミリオ」
今、一番会いたくない人。
ルーカスと別れることになった原因の人。
こんな言い方は、失礼ね。
エミリオは、何も悪くないのに。自分の性格の悪さに嫌気がさす。
「あれ、リナの家ってこの辺りなの?」
エミリオは、戸惑う私を気にすることなく、気軽に話しかけてくれる。
「ううん、ちょっと歩きたくて。」
「何かあった?」
「…」
お願い
優しくしないで。
今、優しくされると、あなたに縋ってしまう。そんなことしたくない。
「あ、そうだ、この辺りによく行く店があるんだけど、良ければ一緒にご飯どう?
何か元気ないし、そういう時は美味しいものを食べると元気でるから。あれ、単純かな俺」
屈託のない笑顔が眩しい。エミリオは取引先のお店に勤める従業員だ。うちの商会へ品物を届けてくれたり、新商品の営業に来たりと何かと顔を合わせる機会が多い。
こんな風に帰り道に会うこともあって、
取引先の方だし、何度か食事の誘いを受けたことがある。
今までは……。
でも、ルーカスに誤解されたこともあるし、
さすがにもう断わろう。
「エミリオ、私━━」
「荷物重そうだね? 持つよ、さぁ行こう、ね?」
野菜などを購入していた私は、買い物袋を持っていた。エミリオはヒョイッと私の手から買い物袋を取ると、先に歩きだす。
断るつもりだったのに、買い物袋を持つエミリオを追いかける形となり、結局お店まで一緒に来てしまった。
窓辺の席に案内されて、私達は隣り合わせで座った。
どうして来てしまったのだろう……。
こういう曖昧な態度が、ルーカスに誤解されてしまったのに。
そもそもエミリオは、私をどう思っているのだろう。
「リナは、何食べる?」
「えっと、じゃあ、エミリオと同じもので」
「そっか、分かった」
注文を終えて食事を待つ間、居心地が悪くて窓の外を眺めていた。
別に何も悪いことをしていないのに、なんだか落ち着かない。
通り過ぎる人達を見ていると、自分のことを考えずにすむ。
これから帰るのかな、誰か待っているのかな、とか、一人空想の世界へと入っていた。
そんな私を、じっとエミリオが見つめていたことも気づかないくらいに。
食事が運ばれてくると、食欲はないと思っていたのに、一口食べると美味しくて、結局完食してしまった。落ち込んでいる時でも、食事が喉を通るのが不思議だ。
「どう? 少しは、元気なった?」
エミリオは、私を元気づけようと明るく声をかけてくれる。食事中も、他愛もない話題を提供してくれた。
エミリオは優しい。
それはまるで、私に好意があるのではないか、と勘違いするほどに。
私の曖昧な態度も、エミリオへ勘違いさせてしまうものなのかもしれない。
「エミリオ、あの……、もしも、
勘違いだったらごめんなさい。
こんな事言うなんて、私なんかが自惚れた発言するようで、心苦しいんだけど……。
私ね、好きな人がいるの。
その人とは付き合ってたんだけど……。
だから、もう、こんな風に2人で食事したりすることは遠慮したいの。
あの、エミリオがそんなつもりで誘ってくれたなんて、思っているわけじゃないんだけど!
もしそうだったら、その、エミリオを傷つけてしまう?じゃないかと思って…」
店内は食事を楽しむ人が多く、賑わっていた。人々のざわめきが聞こえているのに、返事を待つ間は、2人だけの空間のようにも感じられた。
なんだか居づらくて、もしも勘違いだった場合は、自分の発言が恥ずかしくて、とにかく逃げ出したくなった。
「エミリオ、私、そろそろ帰るね。」
「勘違いじゃないよ」
「━━え?」
「その、俺さ、
付き合っていたってことなら、今は
別れたってことだよね?言葉のあやをとるようで悪いけど。
俺だって、そんな時につけ込むようなことはしたくない。
だから、別にそんなに深く考えないでほしい。
リナが迷惑じゃなければ、
友人として、こうして時々一緒に会ってもらえたら…嬉しいかな、なんて。
はは、都合が良すぎるかな?やっぱり……」
エミリオは、私の気持ちを知ってもそれでも友人としてあろうとしてくれる。
職場で孤立している私にとって、その言葉は荒んだ心にじわじわと滲み入るものだった。
エミリオは優しい。
だから、甘えてしまう自分がいた
「友人…としてなら」
「じゃあ、また誘うね。友人として」
ニコッと私に笑いかけてくれるエミリオ。
最近はいつも気が張っていることが多くて、知らず無表情になっていた。
職場では、誰にも弱い所を見せたくなかったから。
エミリオの笑顔につられて、私も顔が綻ぶ。
エミリオの優しさのおかげで、少し元気になった気がした。
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