上 下
14 / 15

第13話 キアヌと国王様

しおりを挟む
「いよいよ城に着いたな……」

 アリアンロッド王国の城は、純白の城で、いかにも女神を祀ってますという感じだ。
 悪魔の俺は完全に場違いだ。

 キアヌがジェミニから魔法の杖を授かる儀式を行うときに、この城には訪れたことがあるのだが、2度目でもやはり緊張はするもんだ。

「キアヌ様、よくお越しくださいました」

 門の前には、案内人が待っていた。

「どうぞお入りください」

 俺たちは門を抜け、城の中に入った。
 城の中には、12人の女神を描いた壁画とステンドグラスが飾られている。
 白い階段を上っていくと、大きな白い扉があった。

 白い扉の先には、王の玉座があった。
 その後ろに、豪華な祭壇と、天井まで届きそうなほど大きな鏡が置かれている。この鏡は、女神が作った鏡で、女神の姿を映し出し、お告げを聞くことができる。

 玉座には、白い髭を生やした王が座っていて、その周りには、大臣や武器を持つ側近たちが控えていた。

「はるばるよくいらした。アーノルド殿」

 国王が玉座から声をかける。
 すごいヨボヨボの爺さんだが、大丈夫なのか?

「お目にかかれて光栄です、国王陛下」

 アーノルドは丁寧に頭を下げた。

「まずは、手土産をお持ちしましたので、国王陛下ならびに女神様に……」

「要らぬ」

 はっきりとそう告げられ、アーノルドは一瞬固まった。

「なぜですか。我が国名産のアップルパイなのに……。甘くて美味しいアップルパイなのに……」

「アップルパイなど要らぬ」

 アーノルドの大好物のアップルパイを初っ端から否定されるなんて、いきなりハードすぎる……。アーノルド、心折れるんじゃねーか……?

「今回の同盟の件じゃが、お断りするためにそなたをここに呼んだのじゃ」

「待ってください……我が国には、たくさんの特産品があります。魔法使いの権利を認め、我が国と同盟を結んでくだされば、必ず貿易でアリアンロッド王国へ利益をもたらしてみせます」

「いや、生まれたときから人ならざる力を手にしている連中と手を組む気はない。我が国は歴史ある王国じゃ。魔法使いの国なんぞに、我が国の歴史は汚させぬ」

 アーノルドの後ろに控えていたヒューがわずかに殺気をまとう。
 アーノルドはそっとそれを制した。

「この国では、昔から、魔法使いは汚れた存在として差別されていますが、それは間違っています。魔法は、人々のために役に立てることができる力です。アリアンロッド王国の格差をなくし、真の平和をもたらすために、魔法使いが生きていく権利を認めていただきたいのです」

 そう言うと、アーノルドは床に膝をついた。

「どうか、よろしくお願いします」

 嘘だろ……。アーノルドが、最強の魔王が、ジャパニーズ土下座だと……!?

 プライドを一切捨てた行動に、キアヌとヒューも衝撃を受けているようだった。

 その場がシンと静まり返った。

「……捕らえろ」

 国王が低い声で命じた。

「元からそのつもりじゃった。今回、そなたをここに呼んだのは、我が国に侵攻するりんご帝国の君主を処刑し、同盟の話をなかったことにするためじゃ」

「なっ……!!」

 なんだと……!?アーノルドを処刑……!?
 そんなことをしたら、りんご帝国はどうなっちまうんだ!?きっとアリアンロッド王国とりんご帝国で、戦争が起こるぞ!?

 国王の側近たちが武器を突きつけ、アーノルドの身体を押さえつける。

「そんなの……僕が許さない……」

 キアヌが魔法の杖を握りしめる。

「兄さまは、僕が守る。貴様ら全員、僕が処す」

 キアヌが杖を振るおうとすると、

「待て、キアヌ!」

と玉座の後ろから声がした。
 見ると、女神の鏡に、ジェミニの姿が大きく映し出されていた。

「国王よ。アーノルドの処刑はいささか早計ではないか?」

「ジェミニ様……なぜ、そうお思いなのじゃ」

「このアリアンロッド王国も、本来、魔法使いの国だからだ」

 その一言に、その場にいた全員が顔を上げ、鏡を見た。

「この国は、長年、王室の後継者で揉めている……。国王に子供がいないと『されてきた』からだ。だが、この国には、実は正統な後継者がいる」

「なっ、何を仰っているのか……」

「その後継者は、今、この場にいる!」

 ジェミニは祈るように唱えた。

「月と星の12女神、ジェミニより命ず。今、真実を白日のもとに……!」

 すると、鏡から白い光が放たれ、部屋中を包み込んだ。

 やがて、光が止んだ。

 俺は何か力が吸い取られていくような感じがして、その場に座り込んだ。

「何なんだ、この光は……」

 周りを見渡すが、特に異変はないようだ。

 ……みんなの視線が、俺に注がれているということ以外は。

「え、何……?どういうこと……?」

 ジェミニは自信満々の笑顔で言った。

「彼が、国王陛下の一人息子、ウィル王子だ!!」

「は!?俺!?」

「ウィル……人間になってる……」

 キアヌがポカンとして呟く。
 俺は自分の背中に触れてみた。

「ほんとだ!?羽根がねえ!!」

「彼は、少年の姿をしているが、数十年前に生まれた国王の息子だ。呪いで悪魔に変えられてしまったせいで、体の成長が遅くなっていたんだ」

「呪い……!?」

「彼には生まれつき、魔法使いの紋章が刻まれていた。魔法使いの子供がいることを知られてはならないと思った国王は、呪い屋に頼んで彼を人間には見えない悪魔にし、城から追い出してしまったんだ。……そうだろう?国王よ」

「な、なぜ、ジェミニ様がそのことを……」

「私は女神だからな!全てお見通しなのだ!」

 名探偵のように語るジェミニを前に、国王は狼狽え始めた。

「私が魔眼を持つキアヌを勇者に任命したのは、この国の腐った仕組みを変え、ウィルを正統な王位継承者として迎えるためだ」

 そうだったのかよ……。

「王子が呪われて、誰にも見えない悪魔にされてしまうなんてことが許されていいだろうか!罰せられるべきは、己のために我が子を呪った父親ではないのか?」

 アーノルドを取り押さえていた国王の側近たちが、困ったように武器を下ろした。

「ま、待ってくれ……!ワシはただ、この国の伝統を守るために……」

 キアヌが杖を振り下ろした。
 床にビシビシと氷が一直線に走り、国王を一瞬にして氷漬けにした。

「そういう言い訳なら聞かないよ。国王様」

「お、おい、キアヌ……ちょっとやりすぎじゃねーか?一応この爺さん国王だぞ?」

 俺が囁くと、キアヌは悪びれもせず、

「兄さまを殺そうとした罪は重い」

と言い切る。
 ブラコンは怒らせないに限るな……。



 数ヶ月後。
 俺は12人の女神から正式に冠を授けられ、新しい国王として迎えられた。

 魔法使いである俺が王となることに反対する女神もいたようだが、そこはジェミニが上手いこと説得してくれたみたいだ。
 国民も、12人の女神が決めたことであれば、反対する者はいなかった。
 新聞では、前国王の退位と、王室の隠し子である俺の即位を大々的に報じていた。

 そして、ここ最近、俺は国王として、勉強と公務に明け暮れる日々を送っている。
 正直、悪魔として気ままに旅をしてるときの方が気楽でよかった。
 でも、魔法が使える人も使えない人も幸せに暮らせる国を作るには、俺が頑張るしかない。

 玉座に座って法律の本を読んでいると、女神の鏡を介してジェミニが話しかけてきた。

「ウィル、勉強は捗っているか?」

「うーん……まあまあかな」

「アーノルドとヒューが来るのはこれからか?」

「ああ、そろそろだ」

 今日は、りんご帝国とアリアンロッド王国で今度こそ同盟を結ぶため、アーノルドとヒューがこの城を訪れることになっている。

「その前に、お前に良い知らせがあるぞ」

 ジェミニはそう言ってニヤッと笑う。

「勿体ぶらないで早く言えよ」

 俺が急かすと、扉がトントンとノックされた。

「入っていいぞー」

 ジェミニが呼びかける。
 扉が開かれると、そこには、金髪の小柄な少年が立っていた。

「キアヌ……」

「久しぶりだね、ウィル。いや、国王様?」

「ウィルでいいよ。よそよそしくなるだろ。……それよりお前、なんでここにいるんだ?俺はてっきり、りんご帝国にいるのかと……」

「そのことなんだけど、僕、この国に残ることにしたよ」

「え、アーノルドのことあんなに好きだったのに!?同じ国で暮らさなくていいのか!?」

「実は……。僕、このお城で働くことになりました。今日からめでたくウィルの側近です。わーいわーい」

「は!?」

「僕と会えなくて、ウィルが寂しい思いをしてるんじゃないかと思って……」

 俺は呆気に取られてキアヌを見ていた。

「ウィル。これからはひとりで頑張ろうとしすぎないで、僕のこと頼ってよ。友達なんだからさ」

「そっか……そうだよなぁ……」

 俺が悪魔じゃなくなったって、俺が王様になったって、キアヌと俺の関係は何も変わらなくていいんだ。俺はジーン……と感動してしまった。

「さて、そろそろ兄さまたちが来るよ」

 そのとき、扉がトントンと、叩かれた。


 ……魔王の弟、勇者キアヌ。彼はきっとこの国の未来を変えてくれるだろう。

 これからもずっと、俺の隣で。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界でみんなに溺愛されています!

さつき
ファンタジー
ダンジョンの最下層で魂の傷を癒していたレティア ある日、最下層に初めての客が? その人達に久し振りの外へ連れて行ってもらい・・・ 表紙イラストは 花兎*さんの「Magicdoll*Maker」で作成してお借りしています。↓ https://picrew.me/image_maker/1555093

気づいたら異世界ライフ、始まっちゃってました!? 

飛鳥井 真理
ファンタジー
何だか知らない間に異世界、来ちゃってました…。 どうするのこれ? 武器なしカネなし地図なし、おまけに記憶もなんですけど? 白い部屋にいた貴方っ、神だか邪神だか何だか知りませんけどクーリングオフを要求します!……ダメですかそうですか。  気づいたらエルフとなって異世界にいた女の子が、お金がないお金がないと言いながらも仲間と共に冒険者として生きていきます。  努力すれば必ず報われる優しい世界を、ほんのりコメディ風味も加えて進めていく予定です。 ※一応、R15有りとしていますが、軽度の予定です。 ※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。(第1話~第161話まで修正済)

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

パンがなければお菓子をたべればいいじゃない、と言って首チョンパされる悪役令嬢に転生してしまった件について。原作知識を活かして暗躍します

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
気がついたら転生していた。 転生先はマリー・トワネット。 飢饉で平民が苦しむ中、パンがなければお菓子をたべればいいじゃないと言って、心清き主人公に処刑された悪役令嬢だ。 もし物語通りに進むのならば、私は絶対に首をチョンパされてしまう。 それのは絶対に嫌だ。 だから私は原作知識をいかして、暗躍する。 処刑を回避するために。 ・・・あれ? なんか主人公がこっちを見ているんだけど? 頬も赤らめてるし。 こんな展開、あったっけ? 【簡単なあらすじ】首チョンパを避けるために原作知識を活かして頑張っていたら、敵のはずの主人公やその仲間達、メイドさん達から溺愛されてしまう物語です。

処理中です...