世界と世界の狭間で

さうす

文字の大きさ
上 下
18 / 47
第7話

しおりを挟む
 夕食の後、僕は一人でパソコンの画面とにらめっこしていた。
 魔法屋のブログを更新するためだ。

「誠に勝手ながら、今週は休業させていただきます」……と。

 ユートピア魔法軍を本格的に調査するために、少し店を閉めることにしたのだ。
 まあ、もともと客足の少ない店だし、こんな報告をわざわざ見てる人なんてそんなにいないだろうけど。

 何となくブログに書き込まれていたコメントを見ていると、『店員さんがいい子』とか、『店員さんが可愛い』とか、僕を褒めてくれてる人たちがいた。
 もちろん悪い気はしない。
 毎日毎日愛想良く営業スマイルを振り撒いている甲斐がある。
 さらに画面をスクロールしていくと、他の書き込みも目に入ってきた。

『滅多に姿を見せない店主。実はめちゃくちゃ美人らしい』
『店主、すごい綺麗な人だった!』
『店主のミステリアス感がたまらない』

 ……。は?

「なんでいつも地下室に籠もってるルシフの方が僕より人気あんだよ。たまにしか会えないレア感があるから?それともやっぱり外見?顔?たしかに顔だけは綺麗だもんね。ふん、なーにがミステリアスだ、無愛想なだけだろ!ルシフはあんたらが思ってるような男じゃねーし!ルシフとまともに話したらあんたらも絶対うんざりするからな!」

「おい。俺の悪口、全部聞こえてるぞ」

 突然耳元で聞こえたその声に僕は思わずビクンッとしてしまった。
 見ると、風呂上がりのルシフが僕の後ろからパソコンを覗き込んでいた。

「……ルシフに聞こえるようにわざと大声で叫んでたんです」

「相変わらずタチが悪いな」

「うるさい。その光源氏みたいな顔面ぶん殴りますよ?」

「ヒカルゲンジ……?誰だそれ」

「知らないなら別にいいです」

 僕は素っ気なくそう言ってパソコンに目を戻した。
 すると、ちょうど、新たに投稿されたコメントが表示された。
 何の備えもなしにそれを見て、僕とルシフは固まってしまった。


『魔法屋のファンの者です。お二人を影ながら応援しています。今は、お二人で暮らしているんですか?男二人暮らしってぶっちゃけどんな感じですか?一緒の部屋で寝てるんですか?妄想が止まりません。

 と、いうのは置いといて。

 あなたたちが契約して境界まで逃げていたとは知りませんでした。
 もう、逃げても無駄です。
 私が捕まえに行きます。
 そして、たっぷり遊んであげます。

 覚悟して、待っていてくださいね』


「何これ……?脅迫?」

「文面からして、投稿者は魔法軍の奴かもしれないな」

「というかこの人、間違いなく変態ですよね。通報した方がいいんじゃないですか……?」

 そんなことを言っていると、今度はいきなりルシフの携帯が鳴った。

「ベル……。なんか、嫌な予感がするんだが……」

「ルシフの携帯なんだからルシフがなんとかしてください」

 僕は当然冷たく突き放す。
 ルシフは軽く舌打ちして

「……んだよ、薄情だな」

とぼやきながら電話に出た。

「もしもし」

「ああ、ルシフか?俺だ」

「あ?誰だ。……詐欺師か?」

「ちげーよ。シェムだ。なんでわかんねーんだよ。携帯の画面に俺の名前、表示されてるだろ」

「ほんとだ」

「で、お前らに連絡だ。明日、境界軍と俺たち第ニ部隊で昼から作戦会議をすることになったんだ。場所は境界教会前だ。来られるならお前らも来て欲しい」

「了解、大丈夫だ。今週は店を休みにするつもりだったからな。……ところで、お前、俺たちに脅迫メッセージを送るような奴に心当たりはないか?」

「急に何の話だ」

「さっき俺たち宛に『逃げても無駄です』とかいう意味深なメッセージが届いてな。魔法軍の脅しかと思ったんだが……」

「さあな。でも、確かにお前の言う通り、魔法軍の誰かの仕業かもしれないから、くれぐれも気をつけな。何かあったら俺に連絡してく……
《シェムさま、どなたとお電話されておられるのですか!?》
《まさか、あのクソガキですか!?》
《えっ、あのロン毛のクソガキですか!?》
《あの無礼極まりないクソガキですか!?》
 ああもう、うるせえ!俺がどんなクソガキと電話しようが勝手だろ!お前らは黙ってろ!!
 すまない、ルシフ。周りがうるさくなってきたから切るぞ」

 ……。

「散々クソガキ呼ばわりされてましたね……」

と僕が言うと、

「心外だな」

とルシフは不満げな顔をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

【第一章完結】戦いのできない底辺冒険者ですが、拾った男は最強だったようです(※ただし訳アリ)

中島とととき
ファンタジー
採集専門のC級冒険者リリエリは、戦いができない冒険者だ。他人とパーティを組むこともできず、細々と採集依頼で食いつなぐ日々を送っていた。 ある時リリエリは森の中で行倒れている男ヨシュアを助け、その成り行きでパーティを組むことになる。これで憧れの冒険者ライフが始まる、はずだった。 ……ヨシュアが大いに訳アリの最強等級冒険者でさえなければ。 戦い以外はだいたいこなせるソロ活特化冒険者リリエリと、戦うこと以外だいたいできない男ヨシュア。 凸凹だけれどどこか相性の良い二人は、互いの尖った得意分野を活かしながら依頼をこなしていく。 その中でリリエリはヨシュアの抱える厄介事に巻き込まれていくのだった。 ※血や暴力の表現があります。 ※他サイトでも掲載しています。

処理中です...