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41.船を見に行きました
しおりを挟む教えてもらった宿屋は公園のすぐ裏手にあった。
空きもあり、すぐに二人用の部屋を借りられた。
荷物も預けられたので、今は船着き場へ向かっている。
そこに大型客船の発着場もあり、船の予定や料金もそこで調べられると宿の主人が教えてくれた。
頑張って稼いだので、手持ちの金で行けない国はないだろう。
まだ見ぬ世界への期待は膨らむばかりだ。
「おぉー!船、船、おっきい船だらけですね」
海が近づくと、人の賑わいも増していった。
道の先には船着き場が見える。
たくさんの荷物を載せているであろう大型船。
まるで動く城のような豪華客船。
それに数えきれないほどの小型船。
昼間の港はとても騒がしい。
下船した観光客らしき人々に流されてしまう。
日本人のような顔立ちのおばちゃん集団だ。
着ている物はどこか前世のチャイナ服っぽい。
そして、みんなすごく派手な柄や色だ。
「おい、どっち行くんだよ。 人に流されてんじゃねーよ」
グッと腰に手を回され、そのまま子どものように抱えられると道の端へ避難した。
人目は引いているし、ジルコと密着しすぎて思考停止する。
(イケメンエルフに ツカマッタ ドウスル? ▶ニゲル ザンネン!逞シイ腕カラはニゲラレナイ)
頭の中で謎の声が意味の分からないことを言っているほどだ。
地面に降ろされてからも通常運転に戻るのに少し時間がかかった。
「ここには大陸語が通じないやつらも来る。 何か問題になってからじゃ遅いんだ。 気を付けて歩けよ」
そう言って歩き出そうとするジルコの腕をつかんだ。
また人混みへ紛れそうになって、抱きかかえられたら叶わない。
「待って!こんなに人が多いところ歩きなれていないので、手もしくは腕をつかんでもいいでしょうか」
「……好きにしろ」
こっちを見もせずぶっきらぼうにそう言うが、長い耳が赤くなっている。
そんな分かりやすく照れられると、こちらも同じ気持ちになってしまう。
そっと手に触れると、一瞬たじろぐように指を動かした。
嫌がってるかと思って手を引こうとしたら、逆に手をつかまれた。
「行くぞ」
手を引かれて歩くのは初めてじゃないのに、何だか今日は今まで以上にジルコを近くに感じた。
彼が寄せてくれたこの信頼を絶対裏切らない。
「はい!今度は絶対流されません」
ジルコの手をぎゅっと握る。
すぐに同じくらいの強さで握り返してくれた。
大型客船の発着場に着いた。
海に面する方が全部ガラス張りになっている、とても大きな建物だ。
ガラス窓の向こうにはいくつもの船が泊まっている。
大型船は近くで見ると迫力が違う。
城以外の人工物でこんな大きなものを見たことがない。
前世のコンテナ船レベルの大きさの船もあれば、遊覧船程度の大きさの船もある。
海賊船のような船、豪華客船だとすぐにわかる豪奢な船、見ていて全然飽きない。
「エリアーナ」
ジルコに名前を呼ばれて振り返った。
今だに突然だとドキッとしてしまう。
もちろん、嬉しくてだ。
「なんでしょう、ジルコさん」
案内板とにらめっこをしていたジルコがこちらを向いている。
何か発見したようだ。
「この建物は上の階に各国の本が置いてある図書館が入ってるみたいだ。 行ってみるか?」
なんだ、その楽しそうな場所は!
と前のめりになりながら頷いた。
上下左右に動く魔導具の床に乗ってたどり着いた先は前世の本屋さんのような香りがした。
うっかり深呼吸したらジルコに怪訝な顔をされてしまったが、気にしないこととしよう。
想像以上にちゃんとした図書館だ。
国別に色んな本が置かれ、翻訳本だけでなく原本もある。
「ジルコさん……」
ジルコのすぐ隣に移動する。
声を抑えつま先立ちになると、肩につかまりできるだけ近づいた。
とがった耳がぴくりと動いてちょっとおもしろい。
「言葉に困らない国へ行きたいんですけど、私だけじゃなくてジルコさんの意見も取り入れたいので、大陸語以外で話せる言葉があったら教えてもらえますか」
少し赤くなった耳が遠ざかる。
ジルコが一歩下がったようだ。
「さっき、図書館の入り口でこの防音の魔導具借りた。 そんな小声にならんでも、近くにいれば会話できるぞ」
そんな便利な道具を貸し出してくれるなんて、この世界の図書館は気前がいい。
これなら気兼ねなく相談しながらいろんな国の事を調べられる。
「で、大陸語以外の言葉か。 親父が『共心語』が母国語の国出身だから、それなら話せるぞ」
それはエリアーナも話せる言語だ。
苦い思い出とともに習得した言語だが、行ける国が増えるなら彼女との出会いも無駄ではなかった。
「共心語なら私も話せます! では、共心語を使っている国に行きましょうか。 海の向こう、船だと1週間くらいかかる先の国々で使われているんでしたよね。 ちなみに、ジルコさんのお父様の母国はどちらなんですか?」
「親父は……たぶん――」
―― カーンカーンカーンッ! カーンカーンカーンッ!
建物の中にいても聞こえる甲高い鐘の音。
これは町の住民に緊急事態を知らせるものだ。
「あ、これは……」
どこから入ってきたのか、赤い紙飛行機が2つやってきた。
飛紙だ。
エリアーナとジルコ各々の手に着地する。
「最悪だな。 これはダンジョンが魔物の氾濫起こしたときに冒険者ギルドから付近の冒険者へ一斉に送られる『緊急招集』の飛紙だ」
冒険者証を作るときに緊急招集についても聞いた。
滅多にないと聞いたが、その滅多が起きたことになる。
『戦時下やスタンピートが起こった際は、登録冒険者は冒険者ギルドの指示に従わなければならない。拒否した場合、冒険者証は取り消される』
今冒険者証がなくなったら、外国への船に乗ることは叶わない。
それは絶対に避けたかった。
「何が起きたのかここにいてもわかりませんし、冒険者ギルドへ向かいましょう」
「そうだな。 行先選びは諸々片付いてからだ」
朝一度寄った冒険者ギルドへ急ぎ足で向かう。
町の中はずっと鐘の音が鳴り響いていた。
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