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25.行きたい国を考えます

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 シラディクス山の新しくできた階層の魔物討伐を依頼されたエリアーナとジルコの二人はその後、暗闇の中でひたすら魔物を狩りまくった。
 お互いが得意とする魔物をそれぞれ倒し、危なげなくを進める。
 今日はかねの日、明日は初めてのお休みだ。

「ジルコさん、明日明後日は
 ここの仕事はお休みですけど
 私たちはどうしましょうか?」

 ジルコに尋ねた。
 こちらへ向かってくる『ツヨビ』へ、滝修行のような水をお見舞いしながらである。
 ツヨビはオニビが強化されたような存在で、大きさは人間の半分程度だ。
 紫色の炎で、表情はツヨビという名前なのに悲しそうな顔をしている。
 猛烈な炎の涙を飛ばしてくるので近づくと危険だ。
 しかし、遠距離から水攻めすれば恐れることはない。
 新階層の魔物討伐を引き受けた初日に狩った魔物素材と魔石は全部で金貨10枚程度になった。
 それをつぎ込んで『トンボ』っぽくない暗視眼鏡を手に入れた。
 今のエリアーナの姿を見ても、ジルコがツボるということはないのだ。

「この仕事でも、1日金貨10枚は稼げてるから
 無理に別の依頼を引き受ける必要はない、とは思う。
 けど、アンタが行きたい国によって渡航費も変わるぞ。
 どの程度貯めたいかによって、仕事の量も変わるな」

 岩の塊でできた大男の攻撃を軽く躱しながら答えてくれた。
 あの魔物の名前は『イワオ』だ。
 魔物の名前は初めて見つけた人が付けられるらしい。
 イワオ……。
 ちなみに、女型は『イワヨ』という名だ。
 きっと発見者は日本人の転生者だろう。

「行きたい国ですか……。
 うーん、言葉で困りたくないので
 話せる言語の国がいいですね……。」

 ジルコがイワオを真っ二つにするのを見届けて、行きたい国について考えた。
 今まで外国へ行くことに興味がなかったので、すぐには思いつかない。
 友好国以外の国の情報は大まかなことしか教わらなかった。
 プレシアス王国で話されているのは『大陸語』だ。
 これはプレシアス王国の周辺国で多く使われている。
 ほかにエリアーナが話せる言語といえば、神々の言語とされるが今ではもう誰も使っていない『古代語』と海向こうの国で使われている『共心きょううしん語』くらいだ。
 
 プレシアス王国はかつて神が人と交わって作り上げた国。
 それが真実かは不明だが、そういう成り立ちだといわれている。
 そのため、王族は神の子孫なのだ(自称)。
 そこに嫁ぐということは神への嫁入りも同義なので、古代語が必須だとされた。

 共心語は亜人種やプレシャス王国とは海を隔てた先にあるたくさんの小国で使われている。
 はるか昔、亜人は本来各種族により異なる言語を用いていた。
 そこへ、海を隔てた先の国々が侵略戦争を仕掛けた。
 彼らは異なる国ながら共通言語(大陸語)を話し、力を合わせることにより、亜人たちを次々捕獲していった。
 それを阻止すべく、亜人たちと多くの小国が手を組むことになる。
 その結果、共心語は生まれた。
 共心語は魂の言語。
 普通に話す言葉がその種族の言語に翻訳され見聞きできるのだ。
 原理は不明だが、共心語を母国語として話す人と交流をもち、相手を理解したいと思うと習得できる。
 おそらく、言語の神の力では?と言われているがはっきりとは解明されていない。
 
 エリアーナにはかつて、一時犬獣人の少女が身の回りの世話をしてくれたことがある。
 彼女はエリアーナと年が近く、純朴でおだやかな少女だった。
 彼女は共心語しか話せない。
 そのため、はじめは意思の疎通が難しく、正直なぜ彼女を身近に置くよう父母が言ったのかわからなかった。
 健気にエリアーナの世話を焼き続ける彼女に、少しずつ心を開いた。
 まだ少女らしい面が残っていた当時のエリアーナは期待した。
 彼女なら『友だち』になってくれるかもしれない。
 そして、ベールを外し彼女に話しかけた。
 彼女はそれを笑顔で受け入れてくれたのだった。
 エリアーナは初めて、彼女の言葉が完全に理解できた。
 それがうれしくて、すぐに両親へ報告した。
 次の日、彼女はいなくなった。
 
「将来国母になるのだから
 蛮国で話される言語を理解できたほうがいいと
 身近においたまで。
 共心語の習得ができたなら
 もうあのような者と係る必要はない」

 そう言ったのが父だったか、母だったか……。
 もうよく覚えていない。
 共心語を習得するためだけに招かれた彼女はその後、どうなったのか。
 少しでも幸せに生きていてほしい。
 そう今でも思う。


 行きたい国は決まらぬまま、つちの日。
 シラディクス山の洞窟での仕事が休みの日になった。
 特にやりたいことはなかったのだが、1日中部屋に閉じこもっているのも嫌だったので、ぶらぶらと街中を探索することにした。
 ジルコは武器の手入れや、荷物の整理がしたいとのことだったのでお留守番だ。
 意外といっては失礼かもしれないが、ジルコは結構綺麗好きだ。
 整理整頓も勝手にやっている。
 エリアーナは結構適当なので、溜息つきつつも面倒を見てくれるジルコに感謝の念しかない。

 休日の温泉街はいつも以上に賑わうそうなので、行くのはやめておく。
 グラメンツの街はあと冒険者街と住民街がある。
 ジルコ曰く、冒険者街と住民街の中間地点には小規模ながら『神殿』もあるそうなので、そこには絶対近づかないでおこうと決めていた。
 聖女だった時も、エリアーナは基本王都の『大神殿』にしかいなかった。
 治療や討伐の依頼がある場合、転移魔法陣で現場に直行だったので、町の中を歩いたことはない。
 たしかこの町の神殿にも、大やけどを負った人を救うため、転移で来たことがあった。
 エリアーナに治せないわけもなく、手早く治し、すぐに大神殿へ帰還した記憶がある。
 もちろん素顔をさらしたわけではないので、エリアーナの姿を見て『聖女エリアーナ』だと気づく人はいないだろう。
 だとしても、危険を冒す必要はない。
 神殿からできるだけ離れた場所で、ぶらぶらすることにした。





 
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