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四章 入学旅行四日目

4-01b 二人の主 2

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 レイが去った後、霧は辞典妖精のミミを呼び出した。すぐに姿を現したミミは、なんと猫耳と長い尾を付けている。その姿を見て霧は奇声を上げた。

「うぎょあごぼぼぼぶへぁ!! 良いですぞ、良いですぞミミ!! 猫コス最高ぉっ!!」

【喜んでもらえて良かったニャン!】

 ミミの語尾を聞いて、霧は言葉も無く頭を抱えて感動に打ち震えた。そしてハッと我に返る。

「萌えてる場合じゃなかった。ね、ミミはソイフラージュの片割れのレイって知ってる?」

【レイフラージュ、のことなら。ソイフラージュの双子、レイフラージュ……わたしの、かつてのあるじの一人】

「りゅ……いや、その……ミミには、あるじが二人いたの?」

 霧は『竜辞典』と発音するのをためらった。このホテルはトリフォンの馴染みのホテルだし、セキュリティも整っていると案内係から説明を受けたが、用心するに越したことはない。『辞典妖精』の声は辞典主にしか聞こえないが、霧の声は誰にでも聞こえるのだから。
 一方、ミミは霧の言いたいことを正確に理解して、答えた。

【光と虹の竜辞典。今、霧という新たなあるじを得たこの辞典は、かつてソイフラージュとレイフラージュの双子が、共有していたの】

 霧はそれを聞き、驚いた。
 チェカの書いた『クク・アキ』で語られる『光と虹の竜辞典』の持ち主は、ソイフラージュだけだ。一冊の『辞典』を双子で共有していた、というのは初めて聞く。

「『辞典』って、共有できるの?!」

【普通はできない。同じ血を持つ双子でも、辞典の共有に失敗することが大半だった。ソイフラージュとレイフラージュの双子は、とても珍しい成功例。奇跡的に二人の主を持つことになったこの辞典は、大きな力を得た。最強、と言ってもいいほど。でもそのせいで……邪悪な王に目を付けられて……】

 ミミはそこまで言って、一旦口を閉じた。そして悲し気に、再び口を開く。

【…………レイの方は、まだ14歳という若さで、失われた……】

「え……」

(……14歳……。あの子、そんな若いうちに亡くなっていたとは……。邪悪な王って、誰?! まさか、殺されたの?)

 心が痛むのと同時に、霧の心中に様々な疑問が湧く。なぜ霧の前に現れるレイは、14歳の姿ではなく、子供の姿をしているのだろう、と。

(そういえば、ソイフラージュもだ。二人とも、5~6歳ぐらいの、小さな子供の姿。どうして……? ソイフラージュの方は確か、革命後も長生きして、生き残った仲間と共に世界の再建に力を尽くしたはず)

 『クク・アキ』の物語の中で語られる歴史では、ソイフラージュはダリアと共に革命を成功させた立役者だ。革命時は10代半ばでとても若かったらしいが、ソイフラージュが亡くなって『辞典』に魂を宿す秘術が実行されたのは、彼女が年老いたあとだ。

 霧はそれを思い出し、ミミに訊いてみた。

「あの、彼女たちが幼い子供の姿をしているのは……どうして?」

 霧の問いかけに、ミミは一瞬首を傾げた後、答えた。

【彼女……? ソイの、こと? ソイは、人生で一番幸福だった頃の姿を取ってるの。そばにはいつもレイがいて、疑うことを知らず、満たされていた、いつも二人が一緒にいられた、あの頃の姿を】

「ああ……そうなのか……そうか……もう魂だけだもんね、好きな姿を……取れるのか……。じゃあ、二人とも、5歳か6歳ぐらいのときが一番幸せだったのか」

【二人とも……? どうして? 霧、まるでレイフラージュにも会ったことがあるみたい】

 その問いかけに答えようとした時、セットしておいた目覚まし時計がメロディを奏で出す。霧はそれを止めると、ミミに向かって言った。

「ごめん、ミミ。また今度説明する。もう用意して、課題に行かなきゃいけないんだ」

 ミミは一瞬だけ戸惑うような表情を見せたが、すぐに【図書塔の課題、楽しんでニャン!】と明るく言うと、『辞典』の中に戻って行った。
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