125 / 175
三章 入学旅行三日目
3-15 365ページ広場
しおりを挟む
今夜の宿に向かう24班一行は、トリフォンの案内で、まず「365ページ広場」に向かうことになった。
「365ページ広場」――その不思議な響きに、霧は誰ともなしに疑問を投げかける。
「えっ、何ページって言った?! 広場?! それ何?!」
「365ページ広場というのは、この先にある名物公園の愛称じゃ。図書塔と『繋がりの塔』を直線状に結んでいる大通りの、ちょうど真ん中辺りにあるんじゃよ。行きはちょうどその手前で、脇道に入ってしまったから通らなかったがの」
そういえば……と、霧は思い出す。昼食を摂ったあと、図書塔に向かって大通りを歩いていたとき、前方に素敵な公園が見えていたのを。
(道の真ん中に公園があるのか~って、通るのワクワクしてたら、ゲスティオールのせいで道をそれることになったんだっけ)
「まっすぐ行ってたら通ることになってたあの公園が、365ページ広場っていう公園なのね? でもなんで、365ページ?」
「あの公園の中央には、365ページもある巨大な本のオブジェの置かれた広場があっての。それにちなんで、365ページ広場と呼ばれておるんじゃ。本のオブジェは大変目立つので、待ち合わせにもよく使われておる。そこは言読町の人気スポットなんじゃ」
「へえ……。本の、巨大オブジェ? 早く見たい!」
やばいワクワクしてきた、と思いながら霧がそう叫ぶと、リリエンヌが会話に加わった。
「キリ、オブジェはただの置物じゃなくて、ちゃんと読めるんですのよ」
「えっ、すご! さすが本の町のオブジェ……! 一体、何が書いてあるの?」
「今年の作品は、有名作家の物語ですわ。見開き2ページ分が1ページとして数えられ、毎日1ページ分、めくられますの。1年の最初の日に1ページ目が開かれ、その年の最後の日に365ページ目、つまり物語の最後が読めるという、連載物ですわ。ページは毎日めくられたところで固定されてしまうので、読みにに来た人はいつも、内容を写して帰るそうですわ」
「今年の……って言うことは、毎年、内容が変わるの?!」
「変わるんじゃ。去年はこの言読町を舞台にした青春物語じゃった。その前は、複数の作家による詩で編成されておったの。そして今年は空想物語で人気のエヴァンジェリン・リナグの書き下ろし作品での、大変な人気と聞く」
「本のオブジェの物語を読むためだけに、この町に住む人もいるぐらいなんだよ。キリ、学園を卒業したら、お兄ちゃんと一緒にこの町に住んじゃう?」
「本の町に住む……それはまた何とも魅力的な……へえ……ほう……ふわぁ……」
霧が感心しているうちに、一行はその公園へと足を踏み入れた。
きれいに刈り込まれた植栽や、手入れの行き届いた花々が美しい景観を形作り、あちこちに噴水や彫刻が飾られている。曲がりくねった遊歩道をただ歩いているだけで、楽しくなってくる。しばらくすると開けた場所に辿り着き、中央に高さ5メートルはあろうかという巨大な本が現れた。
「お、おお……、これが……なるほど……壮観……」
巨大な本のオブジェは、読みやすいように傾斜をつけて置かれていた。
オブジェの周りはきれいな花壇で飾られていて、美しく整えられている。そして先程リリエンヌとトリフォンが説明してくれた通り、オブジェの前には本を書き写している人や、誰かを待っていると思われる人が、たくさん見られた。
霧がそれらの景色をポカンとして見ていると、トリフォンが一行を手招きする。
「こっちじゃ。ここから地下道に入る。言読町の地上の道は表通りから逸れると迷路のように入り組んでおるが、地下道ならまっすぐ敷かれておるから、こっちの方が早いんじゃ。つまり近道の地下道というわけじゃ」
トリフォンのダジャレにみんなが微妙な笑みを浮かべる中、霧一人が大喜びで反応した。
「ぷふっ! トリフォン、うまい! 近道の地下道、よき! まことによき!! 最高!!」
「ほっほっほっ! お粗末さまじゃて」
気を良くしたトリフォンは、笑いながらアーチ状の出入り口をくぐり、地下道への階段を下りてゆく。一行はそれに続いた。地下道の壁は発光していて、地下とは思えない明るさだった。そして地上の道と同じように、掃除が行き届き、美しく整えられている。
ほどなくして、トリフォンの導きで進む24班の面々は、件のホテルへと辿り着いた。
「365ページ広場」――その不思議な響きに、霧は誰ともなしに疑問を投げかける。
「えっ、何ページって言った?! 広場?! それ何?!」
「365ページ広場というのは、この先にある名物公園の愛称じゃ。図書塔と『繋がりの塔』を直線状に結んでいる大通りの、ちょうど真ん中辺りにあるんじゃよ。行きはちょうどその手前で、脇道に入ってしまったから通らなかったがの」
そういえば……と、霧は思い出す。昼食を摂ったあと、図書塔に向かって大通りを歩いていたとき、前方に素敵な公園が見えていたのを。
(道の真ん中に公園があるのか~って、通るのワクワクしてたら、ゲスティオールのせいで道をそれることになったんだっけ)
「まっすぐ行ってたら通ることになってたあの公園が、365ページ広場っていう公園なのね? でもなんで、365ページ?」
「あの公園の中央には、365ページもある巨大な本のオブジェの置かれた広場があっての。それにちなんで、365ページ広場と呼ばれておるんじゃ。本のオブジェは大変目立つので、待ち合わせにもよく使われておる。そこは言読町の人気スポットなんじゃ」
「へえ……。本の、巨大オブジェ? 早く見たい!」
やばいワクワクしてきた、と思いながら霧がそう叫ぶと、リリエンヌが会話に加わった。
「キリ、オブジェはただの置物じゃなくて、ちゃんと読めるんですのよ」
「えっ、すご! さすが本の町のオブジェ……! 一体、何が書いてあるの?」
「今年の作品は、有名作家の物語ですわ。見開き2ページ分が1ページとして数えられ、毎日1ページ分、めくられますの。1年の最初の日に1ページ目が開かれ、その年の最後の日に365ページ目、つまり物語の最後が読めるという、連載物ですわ。ページは毎日めくられたところで固定されてしまうので、読みにに来た人はいつも、内容を写して帰るそうですわ」
「今年の……って言うことは、毎年、内容が変わるの?!」
「変わるんじゃ。去年はこの言読町を舞台にした青春物語じゃった。その前は、複数の作家による詩で編成されておったの。そして今年は空想物語で人気のエヴァンジェリン・リナグの書き下ろし作品での、大変な人気と聞く」
「本のオブジェの物語を読むためだけに、この町に住む人もいるぐらいなんだよ。キリ、学園を卒業したら、お兄ちゃんと一緒にこの町に住んじゃう?」
「本の町に住む……それはまた何とも魅力的な……へえ……ほう……ふわぁ……」
霧が感心しているうちに、一行はその公園へと足を踏み入れた。
きれいに刈り込まれた植栽や、手入れの行き届いた花々が美しい景観を形作り、あちこちに噴水や彫刻が飾られている。曲がりくねった遊歩道をただ歩いているだけで、楽しくなってくる。しばらくすると開けた場所に辿り着き、中央に高さ5メートルはあろうかという巨大な本が現れた。
「お、おお……、これが……なるほど……壮観……」
巨大な本のオブジェは、読みやすいように傾斜をつけて置かれていた。
オブジェの周りはきれいな花壇で飾られていて、美しく整えられている。そして先程リリエンヌとトリフォンが説明してくれた通り、オブジェの前には本を書き写している人や、誰かを待っていると思われる人が、たくさん見られた。
霧がそれらの景色をポカンとして見ていると、トリフォンが一行を手招きする。
「こっちじゃ。ここから地下道に入る。言読町の地上の道は表通りから逸れると迷路のように入り組んでおるが、地下道ならまっすぐ敷かれておるから、こっちの方が早いんじゃ。つまり近道の地下道というわけじゃ」
トリフォンのダジャレにみんなが微妙な笑みを浮かべる中、霧一人が大喜びで反応した。
「ぷふっ! トリフォン、うまい! 近道の地下道、よき! まことによき!! 最高!!」
「ほっほっほっ! お粗末さまじゃて」
気を良くしたトリフォンは、笑いながらアーチ状の出入り口をくぐり、地下道への階段を下りてゆく。一行はそれに続いた。地下道の壁は発光していて、地下とは思えない明るさだった。そして地上の道と同じように、掃除が行き届き、美しく整えられている。
ほどなくして、トリフォンの導きで進む24班の面々は、件のホテルへと辿り着いた。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
外れスキルで異世界版リハビリの先生としてスローライフをしたいです。〜戦闘でも使えるとわかったのでチーム医療でざまぁすることになりました〜
k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
使い方がわからないスキルは外れスキルと言われているこの世界で、俺はスキルのせいで家族に売られて奴隷となった。
そんな奴隷生活でも俺の面倒を見てくれる第二の父親と言える男に出会った。
やっと家族と思える人と出会ったのにその男も俺が住んでいる街の領主に殺されてしまう。
領主に復讐心を抱きながらも、徐々に体力が落ち、気づいた頃に俺は十歳という若さで亡くなった。
しかし、偶然にも外れスキルを知っている男が俺の体に転生したのだ。
これでやっと復讐ができる……。
そう思った矢先、転生者はまさかのスローライフを望んでいた。
外れスキル【理学療法】で本職の理学療法士がスローライフを目指すと、いつのまにか俺の周りには外れスキルが集まっていた。
あれ?
外れスキルって意外にも戦闘で使えちゃう?
スローライフを望んでいる俺が外れスキルの集まり(チーム医療)でざまぁしていく物語だ。
※ダークファンタジー要素あり
※わずかに医療の話あり
※ 【side:〇〇】は三人称になります
手軽に読めるように1話が短めになっています。
コメント、誤字報告を頂けるととても嬉しいです!
更新時間 8:10頃
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!
ree
ファンタジー
波乱万丈な人生を送ってきたアラフォー主婦の檜山梨沙。
生活費を切り詰めつつ、細々と趣味を矜持し、細やかなに愉しみながら過ごしていた彼女だったが、突然余命宣告を受ける。
夫や娘は全く関心を示さず、心配もされず、ヤケになった彼女は家を飛び出す。
神様の力でいつの間にか目の前に中世のような風景が広がっていて、そこには普通の人間の他に、二足歩行の耳や尻尾が生えている兎人間?鱗の生えたトカゲ人間?3メートルを超えるでかい人間?その逆の1メートルでずんぐりとした人間?達が暮らしていた。
これは不遇な境遇ながらも健気に生きてきた彼女に与えられたご褒美であり、この世界に齎された奇跡でもある。
ハンドメイドの趣味を超えて、世界に認められるアクセサリー屋になった彼女の軌跡。
1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
水川サキ
恋愛
「僕には他に愛する人がいるんだ。だから、君を愛することはできない」
伯爵令嬢アリアは政略結婚で結ばれた侯爵に1年だけでいいから妻のふりをしてほしいと頼まれる。
そのあいだ、何でも好きなものを与えてくれるし、いくらでも贅沢していいと言う。
アリアは喜んでその条件を受け入れる。
たった1年だけど、美味しいものを食べて素敵なドレスや宝石を身につけて、いっぱい楽しいことしちゃおっ!
などと気楽に考えていたのに、なぜか侯爵さまが夜の生活を求めてきて……。
いやいや、あなた私のこと好きじゃないですよね?
ふりですよね? ふり!!
なぜか侯爵さまが離してくれません。
※設定ゆるゆるご都合主義
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします
ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、
王太子からは拒絶されてしまった。
欲情しない?
ならば白い結婚で。
同伴公務も拒否します。
だけど王太子が何故か付き纏い出す。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
婚約者と兄、そして親友だと思っていた令嬢に嫌われていたようですが、運命の人に溺愛されて幸せです
珠宮さくら
恋愛
侯爵家の次女として生まれたエリシュカ・ベンディーク。彼女は見目麗しい家族に囲まれて育ったが、その中で彼女らしさを損なうことなく、実に真っ直ぐに育っていた。
だが、それが気に入らない者も中にはいたようだ。一番身近なところに彼女のことを嫌う者がいたことに彼女だけが、長らく気づいていなかった。
嫌うというのには色々と酷すぎる部分が多々あったが、エリシュカはそれでも彼女らしさを損なうことなく、運命の人と出会うことになり、幸せになっていく。
彼だけでなくて、色んな人たちに溺愛されているのだが、その全てに気づくことは彼女には難しそうだ。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
【5/22 書籍1巻発売中!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる