42 / 175
一章 入学旅行一日目
1-21b 勝敗の行方 2
しおりを挟む
霧は答えの出ない問題と格闘するのを諦めて、表現バトルに意識を戻した。ちょうどレフリーの合図で、アデルが表現を始めたところだ。彼女は息を吸い込むと、透き通った声で歌うように表現を奏でた。
「楽しい今日の思い出を、封じ込めたガラスの向こう。巧みな複製、見事な再現、華麗な造形。さざめく声すら聞こえてきそう、笑顔も花咲くセセラムの集い」
アデルが表現を終えると、ややあってワッと拍手と喝采が沸き起こった。
霧もまた、両手を打ち鳴らしアデルを褒め称える。
「いいぞぉ、アデル! さすがだ、アデル! 好き! 最高! 素晴らしい!! その調子で最後までぶちかませぇ~!」
アデルは後方に控えている霧を振り返り、「ちょっとキリ、うるさいわよ! 下品な応援やめてよね!」と口をぱくぱくさせている。声を出せばコート内に拡声されてしまうからだ。言葉でこそ霧を叱咤してはいるが、しかしそのアデルの表情には怒りの影はなく、むしろ嬉しそうだ。誇らしげに頬を紅潮させ、凛々しく胸を張る彼女の姿に、霧は心打たれていた。
「素敵ぃ……アデル! 恰好可愛い! 最高!! 尊い!! よきよきよき!!」
霧が目を潤ませ小声ながら力強くそう呟いていると、審判妖精がアデルの得点を表示させた。同時にレフリーの声が上がる。
「おお、なんと、301点です!! 素晴らしい高得点です!! さすがは魔法士学園の新入生!!」
おおっ!と、コート内が再び歓声に包まれる。
続けて観客の配点が加わり、アデルは圧倒的な差をつけてガスティオールに勝利した。
「ちっくしょおぉっ! 覚えてろ、エセダリアのアデルめ! おまえらのインチキなんぞ、すぐに暴いてやるからな!」
コート中に拡声されたガスティオールの罵声を聞いて、「インチキはてめぇだろ……」と霧が呟くと、隣に座ったリューエストも真剣な顔でうなずいた。それを見て霧は彼に声をかける。
「あ、やっぱり、リューエストもおかしいって思う?」
「うん。変だね。表現バトルで55点しか取れない者が、正規の辞典魔法士を育てる魔法士学園に、入学できるのはおかしい。表現が不得手だとしても、ある程度は『辞典』の力で点数が取れるはずだからね」
「だよね、だよね」
リューエストの同意を得てホッとした霧が、他のツアーメイトに視線を送ると、みんな黙ってはいるが神妙な雰囲気で考え込んでいる。霧は、賢者のような風貌のトリフォンあたりに意見を伺いたくなったが、二回戦目が始まったので口を閉ざした。
次のアデルの対戦相手は、見るからに賢そうな雰囲気の、若い女性だった。アデルより5つか6つぐらい年上だろうか。
1班の面々を改めて観察すると、いずれも優秀そうなオーラがにじみ出ていて、ガスティオール以外はみな冷静な態度だ。アデルに負けたガスティオールが怒りに染まって吠えているのを、静かにいさめている。その様子はまるで、粗暴でわがままな子供をあやす、困り切った大人の図そのものだ。
その後、着々と競技は進行し、第二試合もアデルが勝利を得る。総点は僅差で、アデルはもちろんのこと、対戦相手の1班の女性もなかなか強かった。
アデルは善戦し、3人目まで勝ち抜いた。しかし4人目で敗退し、続けてアルビレオが対戦者としてコートに上がる。1班4人目の男性はなかなか強く、アルビレオも敗退、続けてリリエンヌも敗退。次にコートに上がったトリフォンが、4人目の男性に勝利。
新入生の決勝バトルは白熱化の様相を呈してきた。観覧席はかなり盛り上がって、成り行きを見守っている。
やがて5人目の男性に惜しくも僅差で敗れたトリフォンに代わって、リューエストがコート入りした。彼が5人目の男性に勝利すると、コート内に歓声が沸き起こる。リューエストはノリノリで拍手喝采に応えたのち、後方で控えている霧に向かって、いい笑顔で手を振った。霧はそれに応え、リューエストに声援を送る。
「いいぞ~いいぞ~、お兄ちゃん、頑張れぇ~! そのまま6人目もやっつけてぇ! 絶対絶対勝ってよ~!」
――あたしの出番が来ないように。という言葉を霧は心の中で付け加えた。こんな大群衆の中でバトルするなんて、とんでもない、絶対やりたくない!と思いながら。
しかし、霧のそんな期待は打ち砕かれた。
「楽しい今日の思い出を、封じ込めたガラスの向こう。巧みな複製、見事な再現、華麗な造形。さざめく声すら聞こえてきそう、笑顔も花咲くセセラムの集い」
アデルが表現を終えると、ややあってワッと拍手と喝采が沸き起こった。
霧もまた、両手を打ち鳴らしアデルを褒め称える。
「いいぞぉ、アデル! さすがだ、アデル! 好き! 最高! 素晴らしい!! その調子で最後までぶちかませぇ~!」
アデルは後方に控えている霧を振り返り、「ちょっとキリ、うるさいわよ! 下品な応援やめてよね!」と口をぱくぱくさせている。声を出せばコート内に拡声されてしまうからだ。言葉でこそ霧を叱咤してはいるが、しかしそのアデルの表情には怒りの影はなく、むしろ嬉しそうだ。誇らしげに頬を紅潮させ、凛々しく胸を張る彼女の姿に、霧は心打たれていた。
「素敵ぃ……アデル! 恰好可愛い! 最高!! 尊い!! よきよきよき!!」
霧が目を潤ませ小声ながら力強くそう呟いていると、審判妖精がアデルの得点を表示させた。同時にレフリーの声が上がる。
「おお、なんと、301点です!! 素晴らしい高得点です!! さすがは魔法士学園の新入生!!」
おおっ!と、コート内が再び歓声に包まれる。
続けて観客の配点が加わり、アデルは圧倒的な差をつけてガスティオールに勝利した。
「ちっくしょおぉっ! 覚えてろ、エセダリアのアデルめ! おまえらのインチキなんぞ、すぐに暴いてやるからな!」
コート中に拡声されたガスティオールの罵声を聞いて、「インチキはてめぇだろ……」と霧が呟くと、隣に座ったリューエストも真剣な顔でうなずいた。それを見て霧は彼に声をかける。
「あ、やっぱり、リューエストもおかしいって思う?」
「うん。変だね。表現バトルで55点しか取れない者が、正規の辞典魔法士を育てる魔法士学園に、入学できるのはおかしい。表現が不得手だとしても、ある程度は『辞典』の力で点数が取れるはずだからね」
「だよね、だよね」
リューエストの同意を得てホッとした霧が、他のツアーメイトに視線を送ると、みんな黙ってはいるが神妙な雰囲気で考え込んでいる。霧は、賢者のような風貌のトリフォンあたりに意見を伺いたくなったが、二回戦目が始まったので口を閉ざした。
次のアデルの対戦相手は、見るからに賢そうな雰囲気の、若い女性だった。アデルより5つか6つぐらい年上だろうか。
1班の面々を改めて観察すると、いずれも優秀そうなオーラがにじみ出ていて、ガスティオール以外はみな冷静な態度だ。アデルに負けたガスティオールが怒りに染まって吠えているのを、静かにいさめている。その様子はまるで、粗暴でわがままな子供をあやす、困り切った大人の図そのものだ。
その後、着々と競技は進行し、第二試合もアデルが勝利を得る。総点は僅差で、アデルはもちろんのこと、対戦相手の1班の女性もなかなか強かった。
アデルは善戦し、3人目まで勝ち抜いた。しかし4人目で敗退し、続けてアルビレオが対戦者としてコートに上がる。1班4人目の男性はなかなか強く、アルビレオも敗退、続けてリリエンヌも敗退。次にコートに上がったトリフォンが、4人目の男性に勝利。
新入生の決勝バトルは白熱化の様相を呈してきた。観覧席はかなり盛り上がって、成り行きを見守っている。
やがて5人目の男性に惜しくも僅差で敗れたトリフォンに代わって、リューエストがコート入りした。彼が5人目の男性に勝利すると、コート内に歓声が沸き起こる。リューエストはノリノリで拍手喝采に応えたのち、後方で控えている霧に向かって、いい笑顔で手を振った。霧はそれに応え、リューエストに声援を送る。
「いいぞ~いいぞ~、お兄ちゃん、頑張れぇ~! そのまま6人目もやっつけてぇ! 絶対絶対勝ってよ~!」
――あたしの出番が来ないように。という言葉を霧は心の中で付け加えた。こんな大群衆の中でバトルするなんて、とんでもない、絶対やりたくない!と思いながら。
しかし、霧のそんな期待は打ち砕かれた。
1
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
♡してLv.Up【MR無責任種付おじさん】の加護を授かった僕は実家を追放されて無双する!戻ってこいと言われてももう遅い!
黒須
ファンタジー
これは真面目な物語です。
この世界の人間は十二歳になると誰もが天より加護を授かる。加護には様々なクラスやレアリティがあり、どの加護が発現するかは〈加護の儀〉という儀式を受けてみなければわからない。
リンダナ侯爵家嫡男の主人公も十二歳になり〈加護の儀〉を受ける。
そこで授かったのは【MR無責任種付おじさん】という加護だった。
加護のせいで実家を追放された主人公は、デーモンの加護を持つ少女と二人で冒険者になり、金を貯めて風俗店に通う日々をおくる。
そんなある日、勇者が魔王討伐に失敗する。
追い込まれた魔王は全世界に向けて最悪の大呪魔法(だいじゅまほう)ED(イーディー)を放った。
そして人類は子孫を残せなくなる。
あの男以外は!
これは【MR無責任種付おじさん】という加護を授かった男が世界を救う物語である。
妹と歩く、異世界探訪記
東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。
そんな兄妹を、数々の難題が襲う。
旅の中で増えていく仲間達。
戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。
天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。
「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」
妹が大好きで、超過保護な兄冬也。
「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」
どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく!
兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる