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一章 入学旅行一日目

1-20   決勝バトル

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 課題4が無事に「完了」になったため、霧はすぐにでもこの競技場を後にして次の課題に向かいたかったが、そうはいかなかった。誰もが予想した通り、霧たち24班は余興の決勝バトルへと進むことになったのである。

 決勝バトルが行われるメインコートは、6万人ほどが収容可能な大規模なもので、霧たちが到着したときにはすでに観客で埋め尽くされていた。
 対戦相手は1班。どんな連中かと思いきや……、霧たちがコート中央に辿り着くと、聞き覚えのある声が飛んできた。

「いよぉ、エセダリアとインチキじゃねぇか。ケッ、胸糞悪むなくそわりぃな!」

「ガスティオール……!」

 アデルの顔が怒りに染まる。
 霧たちの対戦相手は、ガスティオールの所属する班だったのである。

(うげぇ……よりにもよって、あの男かよ)

 霧は顔をしかめた。
 今日学園から降り立ったばかりの時、草原で出会ったあの性格の悪い男、ガスティオール。彼の外見はまるでおとぎ話に出てきそうな金髪碧眼の王子様のようだが、常にあざけりの表情を浮かべ醜く顔をゆがめているせいで、せっかくの美貌がかなり減点されている。
 ガスティオールは相変わらずの下卑げびた表情でアデルと霧をねめつけながら、吐き捨てるように言った。

「1万点取っただとぉ? いったいどんなズルい手を使ってやがる、インチキおばはんめ。おまえもだ、エセダリアのアデル。ちょっといい点取ったからってドヤりやがって、おまえらなんか俺様の班の実力にかなうわけねぇってのによ、ヘッ!」

 どうやらガスティオールは、霧たち24班のバトル成績に関する情報を、どこかで入手したらしい。噂というものは瞬く間に広がるものだ。これだけの観客がメインコートに集まったということは、すでに話題になっているのだろう。偶然耳にした可能性もあるし、1班の面々が、対戦相手の情報を積極的に集めたのかもしれない。
 しかし霧にとって、そんなことはどうでもよかった。更に、「インチキおばはん」などという幼稚な侮辱ぶじょくを投げつけられたこともどうでもよく、それより、リューエストの怒りが気になった。しかしかたわらのリューエストはすました顔をしている。霧は驚いて声をかけた。

「リューエスト、大丈夫? 息してる? ハッ、もしかして、怒りが沸点を越えて一周回って平常運転に切り替わったとか?!」

「ん? ……え? 何?」

 リューエストの戸惑うような返答をそばで聞いていたアデルが、怒りのこもった声で言い放つ。

「ちょっとリューエスト、あなたの大事な大事な妹さんが、なんていう、不名誉ふめいよきわまりない侮辱的なニックネームを付けられたのに、平気なの?!」

「えっ……えっ……それ、キリのことだったのか?! 嘘だぁ……あり得ない……」

 リューエストは更に戸惑いの表情を浮かべ、ポカンとしている。どうやら彼はあまりのショックに現状把握を拒否していいるようだ。そんなリューエストを放っておき、アデルは24班のみんなに言った。

「この決勝戦は昔のトーナメント方式の名残なごりで、班対抗の勝ち抜き戦よ。班から一人ずつ出してバトルして、勝った方が残って次の対戦相手と闘うの。最後までメンバーの残った班が勝ち。あのガスティオールというゲスは、絶対一番に出てくる。自分が対戦相手全員に勝つと思ってるバカだからね。だから最初に私が潰してやりたい。みんな、それでいい?」

 24班の面々はうなずき、対戦順を決めた。1番目がアデル、2番アルビレオ、3番リリエンヌ、4番トリフォン、5番リューエスト、そして最後は霧になった。霧は最後になって嬉しかった。自分の出番がなくアデルが全員コテンパンにしてくれるだろうとホッとしている。

 ほどなくして班対抗の決勝バトルは、レフリーの開催の挨拶で華々しく始まった。巨大なメインコートは満場で、立ち見客も出ている。
 霧は『クク・アキ』の物語の中に出てきた、入学旅行初日の描写を思い出した。物語の主人公チェカもまた、決勝バトルに進み、大勢の観客のいる中、余興の表現バトルを繰り広げ喝采かっさいを受けていたのを。今、まさに、そのシーンと同じような体験の真っ只中なのだ。

(すごいなぁ……臨場感りんじょうかんパネェ……。夢……だとは思えない……)

 夢じゃない、と、どこからか響いた声を、霧は思い出す。あの声が真実を告げていたのか、あるいは自分の願望が夢の中で虚言きょげんを作り出しただけなのか、霧にはまだ判断が付かなかった。

「ご来場の皆様、お待たせいたしました! これより魔法士学園1540年度新入生による決勝バトルを開始します! 第一試合、1班ガスティオール・カワードゥ、対するは24班アデル・ダリアリーデレ!」

 競技の始まりを告げる声に、コート中からワッと歓声が上がる。
 アデルの予想通り、1班最初の対戦者はガスティオールだった。

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