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一章 入学旅行一日目

1-12a 課題2――競技見学

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 セセラム競技場に辿り着いた一行は、受付を済ませると、さっそく課題2に取り組むため辞典競技の見学に向かった。

 セセラム競技場には大小様々な競技用コートがある。
 中心部分にはメインコートと呼ばれる一際ひときわ大きな丸いコートが一つあり、その周りを囲むように、中小ちゅうしょうのサブコートがたくさん並んでいる。サブコートはいずれも花びらのような丸い形をしていて、これらを上から見ると、メインコートは花芯、サブコートは花びらに見え、全体像は開花した花のように見えるらしい。
 そして各コートはチューブのような通路や昇格筒しょうかくとうで繋がっていて、スムーズに移動できるようになっている。そのさまはまるで、SF映画に出てくる未来の建造物のようだ。霧はここでもいちいち感動しながら、目の前に繰り広げられる景色を記憶に焼き付けようと躍起やっきになった。

 霧たち24班が見学に選んだのは、エントランスから近い「サブコート2」で開催されている「プロポーズバトル」だ。
 「サブコート2」は直径50mくらい、300人くらいが座って観覧できるようになっている。
 観覧を希望する者は有料の観覧チケットを見せて入場する必要があるが、霧たち新入生はどのコートもフリーパスだ。学園規定の紺色のショートケープが身分証明代わりで、それさえ身につけていればどのコートも入場可能となっている。
 入学旅行中の生徒がこのショートケープの着用を義務付けられているのは、今回のケースのように、各地において便宜べんぎを図ってもらうためだ。一方で、素行の悪い生徒がいれば学園にすぐさま連絡してもらえる意図も含まれている。このケープを身に着けることで、新入生たちは学園の一員であることを誇りに思い、それに相応ふさわしい礼節を持ち行動することを求められるのだ。

「ようこそ、魔法士学園の新入生の皆様。どうぞ、お好きな席にお座りください。まもなく競技が始まります」

 入口でスタッフから歓迎の言葉をもらった霧は、自分が栄えある魔法士学園の生徒として存在していることを、しみじみ実感し、嬉しくなった。誇らしい気持ちと、これから始まる競技への関心で、胸が躍る。

 コート内部に入ると、中央に競技者用の円形フロアがあるのが見えた。それをぐるりと取り巻くように、階段状の客席が並んでいる。サブコートの設計は、基本的にみな同じ仕様となってるらしい。また、各コートにはクリア素材で作られたドーム型の屋根が備え付けられていて、悪天候でも競技を楽しめるようになっている。

 プロポーズバトルと呼ばれる表現バトルは個人競技者によるバトルで、そこそこ人気があるようだ。観覧席は8割ほどが埋まっている。それを見て霧は感心した。

(へえ……一般人の公開バトルでも、こんなに人が見に来るのか。まあ、どこの世界でも恋愛事情って興味深いもんだよね。やたらと知りたがる人もいるぐらいだし。職場でも女子連はやたらと恋愛がらみの話題が多かったもんな)

 霧たちが適当な場所に座ったとき、ちょうどバトルが始まった。
 コートの中央――表現対象が置かれる場所には一人の若い男性がたたずみ、競技者の立ち位置に二人の女性が現れる。どうやら今回のプロポーズバトルでは、真ん中のイケメン男性をり合って、二人の女性がバトルするようだ。彼女たちは目の前の台座に自分の辞典を置き、レフリーの合図で競技を始めた。

「私の愛は、海を渡る風! 順風満帆にあなたの人生を運んであげる!」

 先行の女性がそう「表現」すると、その言葉は光る文字となって彼女の『辞典』から飛び出した。それらの文字は帯状に一列に並び、観覧席からも見えるようにくるくると踊るようにコート内を巡る。

「うわぁ……」

 霧は感動して小さく声を上げた。
 この物語、『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』略して『クク・アキ』の、アニメで見た競技場シーンより、輪をかけて美しく、躍動感やくどうかんに満ちている。まるで動く立体ホログラムのようだ、と霧は思った。
 文字が現れるのとほぼ同時に、台座から小さな妖精が一人現れ、光る文字と共に飛び回り始めた。それを見た霧が、興奮して独り言を放つ。

「出た~っ、審判妖精しんぱんようせい! すっご、なま審判妖精!! 超かわゆす!」

 リューエストがにこにこして「うんうん、可愛いよね。キリは審判妖精を気に入ると思ったよ」と呑気な感想を口走ると、アデルが「ちょっと、審判妖精じゃなくて、ここは競技者の技術を参考にして、どんなふうに競技が運ばれていくか学ぶところじゃないの?!」と口をはさむ。
 アデルの説教に霧は笑顔を引っ込めると、真面目な表情を顔に張り付かせ、「そうでした、ごめんなさい」とうなずいた。しかし霧のその顔には、笑顔の片鱗へんりんがひくひくと頬を緩ませている。
 霧は楽しくて、たまらなかった。

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