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4章

9. さようなら、悪役令嬢!

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 完成した奇跡の最強コーデ ”リライトザフェイト” を前に、8人のポポリスたちは誇らしげに胸を張り、ローズに向き合った。
 
<さあ、ローズ、この伝説のコーデを身に着けるっぽ。その後、我々が8人の力を結集して魔法を唱えるっぽ。そうしたら――>

 ポティナはローズに真剣な眼差しを向けて続きを言った。

<ローズだけが ”時の船“ の光の輪に囲まれ、時をさかのぼり始めるっぽ。ローズは、ここだ!と思ったら “時の船” から飛び出るっぽ。そこからすべてが、新しく始まるっぽ>

 すべてが、新しく始まる……。
 ローズはその言葉を噛みしめながら、ポティナに問いかけた。

「つまり、私が選んだ過去の時点から、やり直すことができるということね? ……それじゃあ、今あるこの現在は、どうなってしまうの?」

<書き換わるっぽ。運命は上書きされ、ローズの行動次第でその後の展開が現在に至るまで書き換わるっぽ>

「それじゃあ、もしシャーロットに会う前の過去まで飛んで、私がシャーロットに会うのを一切回避したとすれば――」

<シャーロットとは、今みたいな関係じゃなくなるっぽ。友達じゃ、なくなるぽ……>

 ショックを受けたローズの表情を見て、ポティナはそれ以上の言葉を呑みこんだ。
 ポティナはそのかわり、より希望に満ちた言葉をローズに伝えることにした。

<伝説級コーデは、制作例が過去に一点のみ。何が起こるか、正確なことはわからないっぽ。だからローズ、これは賭けなのっぽ。挑戦なのっぽ。より良き未来を得るための、勇気ある一歩なのっぽ。ただ一つ、過去が書き換わっても、“リライトザフェイト” を身に着けた本人である、ローズの記憶だけは必ず残されるっぽ。その記憶を武器に、新しい未来を、幸せな未来を掴むのだっぽ!!>

 より良き、幸せな未来。
 それを得るために、置いて行かなければならないものがあるのだ。
 それに気付いたローズの脳裏に、シャーロットと出会ってから経験してきた、大切な記憶の数々が甦る。

 一番の友達枠をくれたシャーロット。
 一緒に過ごした冒険の日々。
 かけがえのない、大事な友達シャーロット。
 
「ロッティ……私……私……」

 シャーロットは目に涙を浮かべながら、ギュッとローズの手を握って言った。

「ローズ、私はあなたのこと、忘れてしまったとしても、忘れないわ。ええ。きっと忘れない。記憶の深い深いところで、きっとあなたを覚えてる。だからどうか許してね。新しい過去を始めたあなたに、私が挨拶を交わさなくても、まるで他人のようにふるまっても。
 ローズ、実は私、あなたに初めて会った日から、ずっと懐かしい不思議な感覚を持っていたの。初めてじゃない、ずっとあなたを知っていたような気がするの。ずっとずっと、私を応援していてくれたって、そんな気がするの」

 ローズはハラハラと涙を零しながら、シャーロットの声に耳を傾けた。
 これが最後。きっと最後なのだ。ローズは彼女と、別れなければいけない。
 ローズのその決意を見て取ったシャーロットは、微笑みながら言った。

「ローズ……いいえ、薔薇の……蕾。シュリさんがあなたに贈ったイヤリングを見たとき、私はハッとしたの。薔薇の蕾ローズバッド。その名前は何だかすごく、ストンと心に入り込んできた。あなたを見るたび、なぜかいつも心に浮かぶ。あなたにはもう一つ名前があると、ずっと感じてた。花開く前の希望に満ちた、花の蕾……」

 ローズの目から洪水のような涙が溢れた。
 不思議な運命のいたずらなのか、シャーロットはローズの前世である「蕾」の存在を感じていたのだ。
 今このときになってローズはそれに気付き、パラレルワールド的なこのゲームの世界で、前世からずっと、時も世界も越えてシャーロットと見えない絆で繋がっていたことを確信した。

「ああ……シャーロット! そうよ、私は蕾! 言葉は違うけど、そういう意味の名前を持っていたの! どうしてわかったの?! 私はずっとあなたの、誠実な友達だった! いつもいつも、あなたの幸せを願っていた! 今までも、この先も! 会えなくても、信じてくれる?」

「ええ。信じるわ。蕾、会えなくても、私はずっとあなたの友達。だから何も恐れずに、運命を書き換えて、幸せになって!!」

「ああ、ロッティ! 私はきっとあなたを思い出して泣くわ。けれどあなたは、私無しでもやっていける。
 シャーロット・アデル・オルコット、あなたの人生に、もう悪役は必要ない! そうよ、悪役なんていらない! そんなもの無くったって、あなたは十分輝けるもの!」

 ローズがいなくても、シャーロットは自力で『奇跡の薬』を完成させ、レジナルドの愛を得て、彼の隣に座るだろう。その威光に、魔王の計画は頓挫するに違いない。

(そうだ、過去に戻ったら匿名でシャーロットに手紙を送ろう、魔王の封印をかけ直すようにと)

 ローズはそう思い、他にも何かできることはないかと考えを巡らせた。過去に飛んだら、ローズはシャーロットとは一切関わらないでおこうと決めている。けれど彼女の未来のためにできることが、きっと何かあるに違いない。
 そうして過去が変わり流れが変われば、物語もまた、変わってゆくだろう。

 ハッピーエンドはもう目の前。
 そこには悪役令嬢も、魔王も、必要ない。

(そう、悪役なんていらない。そんなもの、クソくらえよ!
 聞いてる? 世界! 
 悪役なんていらない、悪役なんていらない、悪役なんていらない! 
 悪役による不幸も、悪役を担う不幸も、そんなもの全部まとめてゴミ箱行きよ!!)
 
 ローズは心の中で繰り返し、そう叫んだ。
 まるで世界に、刻み付けようとするかのように。
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