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3章

19. 憧れの人工呼吸――なるか?!

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「ローズ様! ローズ様っ!!」

 シュリの必死の呼び声に、ローズは徐々に意識が浮上してゆくのを感じたが、瞼が重くて開けられなかった。

「ローズ様、息をしています? 人工呼吸を……」

 シャーロットのうろたえた声が聞こえ、ローズは目をつぶったまま胸をときめかせた。

(何ですって、人工呼吸?! シュリの?! シュリの?! どどどどどうしよう、取りあえず、まだ死んでるフリ!! きゃーーーーっ! ドキドキバクバクして、余計死にそうですわ!)

 ローズがそう心の中で叫んでいると、ギルバートの声がした。

「人工呼吸なら、俺に任せろ! 騎士団の講習を受けたからバッチリだ!」

 パチ。
 ローズはすぐに目を開けた。

「ローズ様!!」

 シュリの泣きそうな顔が目の前にあり、ローズは思わずまた、千宮司さん、と声をかけそうになった。

「せ…………シュリ、し、心配かけて……」

 ごめんなさい、と言おうとして言えなかった。なぜならローズは突然、シュリに強く抱きしめられたから。

「ローズ様、あと何回、俺を殺す気ですか?! これでは心臓がいくつあっても足りない!」

 悲痛なその叫びを聞きながら、ローズは愛する人の腕の中にいる幸福に、うっとりと目を閉じた。――死にかけるのも悪くない……などと不謹慎なことを思いながら。
 
「シュリさん、ごめんなさい! 私が、私がドジだから、またローズ様を巻き込んで……!! 本当に、ごめんなさい!」

 シャーロットの涙混じりの声を聞いて、ローズは慌てて言った。

「違うわ、ロッティは何も悪くないの! 私がふざけてコチョコチョなんかしたから……」

「まあまあ、二人とも、あちらにテントを張りましたから、中で濡れた服を脱いでください。そのまま帰路についたら風邪をひいてしまうでしょう」

 ギルバートが指さす方向を見ると、ぐるりと布で覆われ、上部が尖がったテントが出現している。ギルバートの背負ってる荷物が大きいな、と思っていたら、テントまで準備していたとは。ローズは驚きの視線をギルバートに向けた。それを感じ、ギルバートが照れたように笑って言った。

「騎士団の遠征用テントです。備えあれば憂いなしってね、俺の信条なんですよ。どうです、俺もシュリくらいには使えるでしょう?」

 確かに見直した。テントの中で着替えることが出来るなんて、すごく助かる。
 ローズがそんな感謝をギルバートに伝えるより先に、シュリが対抗するように何かを差し出した。

「間に合わせですが、着替えです。万が一のときを想定して持参していました。カレンに用意してもらったものですし、俺は中を見ていないので安心してください。はい、シャーロットさんの分もあります」

 シュリから受け取った巾着袋の中を覗いてみると、肌触りの良いシャツとズボン、そして下着類が一式揃っていた。さすがだ。シュリはやっぱり……

「ドラ〇もん……」

 そう呟いたローズに、シュリの眉がピクリと反応する。
 続けて追及しようとしたローズに、シュリはすかさず言った。

「さあ、風邪をひかないうちに、早く着替えて来てください。着替えが終わったら、すぐに帰路につきます。いいですね?」

 有無を言わさずシャーロットと二人、ローズはテントに押し込まれた。

「すごいですねぇ、シュリさん。それにギルバートさんも……助かりました、ほんと」

 そう言いながらシャーロットは、濡れた服を脱いで着替え始めた。ローズも同じように着替え始めて、ポポガーディアンが全く濡れていないことに気付く。さすが魔法の防具服ね……と感心しながらも、ローズはポポリスの血の結晶でできたアクセサリーを3つとも失くしてしまったことにがっかりしていた。

「美しかったのに……ごめんね、ポポリスたち……」

 耳と胸元に手を当て、溜息と共にそう呟いたローズの言葉を聞き、シャーロットが優しく微笑んで言った。

「ポポリスたちは本望でしょう。ローズ様を守れたんですもの。あの子たちは、本当にローズ様が大好きなんです。それに、うちのポポリスが言ってました。ローズ様のポポリスたちは、特別なチームだって。結束力が半端ないって。いずれ大きな仕事をするだろうって、そう言ってましたよ。ポポリスにしか見えない何かを感じるらしいです」

「そうなの?! ……へえ……何かしら、大きな仕事って……」

「それに……」

 シャーロットは、クスリと意味深な笑いを顔に浮かべて言った。

「ローズ様の寂しい耳たぶには、じきにすごく素敵なもので飾られるはずです」

「えっ? なあに、それどういう意味なの、ロッティ!」

「まだ内緒です、うふふ、内緒です、ローズ様!」

「んもう、ロッティったら、まだコチョコチョされ足りないみたいね!」

「きゃー! だめ、ローズ様!! あははっは、あははは! もう、こっちからも逆襲しちゃうから! 私のコチョコチョ歴は長いんですよ! 弟妹達も観念するくらいですから! いきますよ~!」

「きゃああっ!! あははっは、ロッティ! やめて、やめってってばぁっ!! きゃぁ!」

 楽しい。すごく。
 ローズは胸の奥から沸き上がるその感情に、初めて味わう形容しがたいその感情に、泣きそうになった。「友達」とじゃれ合うなんて、しかもその友達がシャーロットだなんて。嬉しくて泣きそうだった。実際、ローズは笑いながら泣いていた。それは笑い過ぎによる生理的な涙のせいだけでは、なかった。
 
 やがて二人はじゃれながら着替え終わり、テントを出ようとしたとき、外の物音に気が付いた。
 金属が激しく触れあう音。
「敵襲?!こんなところで?まさか!」とローズとシャーロットは目を見交わし、慌ててテントから出た。
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