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3章-新たな発見と長期休暇-

69話 フォーグランド邸 その2

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最初から最後まで大絶賛と驚愕の嵐が吹き荒れていた昼食を終え、食休みとして近況についての雑談が始まっている。

「そうか、もう中級に挑んでいるのか。
 騎士団の話を聞いているとレイラにはまだ厳しいと思っていたが…」
「確かにユリス様に連れていってもらっているだけのようなものですけども…ですが私もしっかりと成長しているのですよ?」
「ああ、そこを疑っているわけではない。
 だが、どうにも中級以降は心得系の紋章では厳しそうな印象なのでな。
 ユリスくん、そのあたりはどう思う?」

レイラから修行をつけてもらっているという話を聞いたダレンがユリスへ意見を求める。

「そうですね…確かに厳しくなってくると思います。
 中級以降は遠距離攻撃や状態異常、トラップなど対応する事項が増えてきますから、心得系だけで進みたければ役割を明確にするか何度も付け替える事を考えないと」
「やはりか。
 ならばレイラの紋章もそのままではいけないな」
「そうですね。
 一応このスキルが入っている紋章が向いているのではという考えはあるのですが、見つからないのですよね」
「ふむ、何というスキルだ?
 王城で鑑定業務をしていた関係で人よりは紋章に詳しいから分かるかもしれん」
「『魔弾』というスキルなのですがありますかね?もしあれば銃系の武器やスキルもあるといいのですが」
「おや、銃か。それなら私が使っているから同じタイプでよければ用意するのは問題ない。
 だが『魔弾』の方は覚えが…いや待て、確か昔宝物庫リストの紋章のページでその単語を見た覚えがある気がするな」
「本当ですかお父様!?
 それは何という紋章なのですか?」
「確か『魔弾の射手』だったはずだ。
 ただしリストで名称を見ただけだから実際にスキルがあるかは分からん」
「なるほど…その名前なら可能性はかなり高そうですね。
 レイラ、第1種の褒賞として宝物庫から何か1つ貰えたはずだから今度聞きにいってみようか。僕もそろそろ決めないといけないから丁度いいし」
「はい!」
「ふふふ、レイラさんったら楽しそうねぇ~」

ユリスが探していた紋章が王城の宝物庫にあるかもしれないという事で確認しにいく事が決定したようだ。ユリスも早く決めてくれと催促されていたので一緒に決めにいくつもりだ。

「それで、レイラさん?そろそろどうかしら?
 私先程からティータイムが楽しみで仕方ないのよ」
「あ、そうですね。でしたら今から用意しますね」

話が一段落したのを見計らってかエルシィがティータイムを提案。レイラがテキパキと準備を進めていく。

「む…?レイラ、その手に持っている物は何だ?」
「これはユリス様から頂いた魔道具ですよ。
 何でもお茶を淹れるのに最適な状態のお湯を生み出すケトルだそうです」
「ユリスくん?」
「あれは水道と湯沸かし器を組み合わせて更に長持ちするようにアレンジしただけの物です。
 個人的には便利だと思ってますが…需要あります?」
「自分で茶を淹れる貴族はそう多くないからそこまででもないか…平民や使用人に価格次第では売れるといったところだろう。後は屋台も含めた飲食店だな」
「思ってたよりありますね…ならこれを自分で設計出来るようにする事を初めの題材にしましょうか」
「はぁ…まあいいか。
 悪いが、他に自分だけで使う以外の魔道具があったら後で教えてくれ。面倒を見る上で知っておきたい。
 題材については君のやりやすいようにしてくれて構わん」

悪びれもせずに返すユリスの姿にダレンは早々に諦める。実際に聞けばケトルや魔力ペン以外にも色々とでてくるのだから、心の安寧という意味では賢明な判断と言えるだろう。

「お待たせしました!」
「いい香りね~♪レイラさんったらお茶を淹れるのもこんなに上手くなっちゃって…手放したくなくなってきますね。
 …どうでしょうか?ユリスくんがうちに来るというのは」
「その辺はまだ決めるなとの上からのお達しですので…」
「エルシィ、その辺にしておきなさい。
 せっかくレイラが振舞ってくれているのだ。今はただ楽しもうではないか」
「それもそうですね…ではレイラさんおすすめのこの料理?を頂きましょうか」
「スプーンで掬って召し上がってください!下の方にほろ苦いソースがあるので途中からは一緒に食べると美味しいですよ」

レイラの指示に従って2人は恐る恐るプリンを口に入れる。

「まあ…!これはお菓子なのですかレイラさん!?
 とっても美味しいわ!」
「確かにこれは美味しいな…ふむ、下のソースと一緒に食べた方が私は好みだな。
 それにしても作ったと言っていたが、菓子とは作れるものだったのか…?」
「あなた、これは革命ですよ!
 今までお菓子といえばシュガル領でドロップする物のみで、日持ちしないからと直接訪れなければ口にする事すら叶いませんでした。
 何とか機会に漕ぎ着けてもこれ程の美味しさはありません!」
「私はあれはあれで好きなのだがな。だが一般的にそう言われているのも確かか。
 レイラ、材料はダンジョン産か?」
「はい、ユリス様が発見した生成ダンジョンでドロップするものです」
「やはり生成ダンジョン…!
 これが広まってしまったらシュガル領の存続すら危ういな。あそこは上級ダンジョンなせいでその菓子とレア物以外だと利益の出しづらい茶葉か変わった小麦が採取出来るくらいだぞ…」
「ですが、これを広めないというのはあまりにも勿体なさすぎます!」
「まあ落ち着きなさい。
 ダンジョンも料理もレシピの権利はユリスくんが持っている。彼の意思は尊重しないといかん」

ただプリンを作っただけなのに予想外の大事に発展していく様相をみせる。感動も相まってテンションが上がってしまっているダレンとエルシィの論戦が止まらない一方で、その様子を傍観しているユリスの思考はダレンがふとこぼしたとある1点に集約されていた。

(そういえばシュガル領のダンジョンで手に入る素材ってどんなんだろう?一般受けしないお菓子、変わった小麦…気になるな)

「…そうですね。ユリスさん、いかかでしょうか?」
「えっ?ああ、そうですね…それよりもまず気になっている事があるのですが、シュガル領のお菓子や小麦ってどんな物なんですか?」
「シュガル領のお菓子か…見た目は黒っぽく板状だな。通常は固体なのだが体温程度でも溶けてしまう程温度上昇に弱い」
「でも口の中で溶けるから滑らかな口当たりと広がる香りは良いのですよね。苦いのだけれども」
「この苦さが不評というわけだ。微かに甘味はあるのだが、いかんせん苦味が圧倒的に勝つ。だがごく稀にドロップする白いタイプのものはとても甘い。故に商品としてはこちらが主力となっているな」

(それって多分ハイカカオチョコレートじゃ?白いのはまんまホワイトチョコだろうし)

「小麦の方は何というか…風味や味は大きくは変わらないのだが、パンを作ろうとすると膨らまずに硬くなってしまうのだ。後は水と混ぜる時にダマになってしまって使いづらいとも言っていたな。それ故にこの小麦粉を使っているのは回転焼きの屋台などのごく一部になる」

(回転焼きってあれだよな、タコの無いたこ焼き…それにパンを作る時に出る特徴…もしかしてその小麦粉って薄力粉じゃないのか!?
 こんなところにヒントがあったとは…!
 ってかパウンドケーキの方を広めればシュガル領も大丈夫じゃないか?あれはバルクリーム製のバターとリッチエッグの組み合わせが悪さをしてるだけみたいだったし、普通の材料で作れば問題ない。チョコの方も甘さを足すか他のお菓子に混ぜたりとかすれば普通に使えるだろうし)

若干聞き流し始めていたユリスは突如振られた驚き、思わず考えていた事を口にしてしまう。が、それによって得られた答えに望外の喜びを覚えることに。

「なるほど…そういう訳でしたらこのプリンの方はまだ広めない方がいいかもしれません」
「でもね、ユリスさん?この「ですが」…?」
「まだ他にお菓子のレシピがあるのでそちらを広めるのはどうでしょうか?」
「ユリス様、よろしいのですか?」
「うん、この間普通の材料で作り直してみたら普通のものが出来たから大丈夫だよ」
「あら、まだ他にもあるのですか?
 …ちなみにそれはレイラさんに作ってもらうことは?」
「一応レイラにも教えてはありますから材料さえあれば大丈夫で…」
「でしたら夕食後のティータイムで出せるかしら、レイラさん?」
「材料を確認してきます!」

食い気味に発せられたエルシィの有無を言わせないお願いにレイラが速攻で食糧庫に向かっていってしまう。

「エルシィ…いや何でもない。
 ユリスくん、そのレシピなら先ほど言った懸念点はクリアできるのか?」
「おそらくと言ったところでしょうか。
 先程教えていただいた小麦粉は特徴を聞いた限りではパンではなくお菓子に向いている種類だと思うのです。であれば、その小麦粉を使ったお菓子ならば共に需要も高まるかと。
 それと、苦いお菓子の方は一度溶かしてから蜜やミルクを足してから冷やし固めれば美味しくなると思いますね。
 というか聞いた限りではシュガル領のダンジョンでは製菓用素材が手に入る感じなのでしょうか」
「そうか、そういうことか…!
 素材をそのまま食べていたと考えれば味が微妙だというのにも納得がいく。あのダンジョンは菓子が入手できるのではなく菓子を作るための材料が入手できるのか」
「ですが、あそこは上級ダンジョンですよ?探索者のレベルが上がらなければ手に入る素材は増えません。
 そうなるとお菓子の決め手である蜜だけはユリスさんが発見した生成ダンジョンに頼る必要が出てきます。というかこれだけでも革命と言えるのですが」
「やはり我々では手に余るか…王家の方々に動いてもらうしかあるまい。エルシィ、シャルティア王妃に頼んでくれるか?この件はあの方に動いてもらった方がいいだろう」
「ええ、勿論です。出来るだけ早くお伝えしておきましょう。
 ユリスさんもそれでいいかしら?」
「はい問題ありません…」

話の最中に何度も置いてけぼりにされているユリス。
おそらくシャルティアの前でも似たような展開になりそうだと内心溜息をつきつつ、レイラにプリンを作る許可を出した事を今更ながら若干後悔し始めるのであった。
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