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第3章/幻想物語 魔女の夢(過去の記憶)

第23話/忘れじの記憶 03-守護神[ライメル]

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「ああ、ごめん。自己紹介がまだだった。
 私はフォルトゥーナだ。
 人間の様に見えて、実は守護神なんだ。」

と、その女性は言った。

女性の見た目は10代後半と言ったあたり
だろうか。髪の色は金髪で、身長はやや
高め、目の色は澄んだ青色で、顔がとても
美しかった。

僕はこの状況が、あまり理解出来なかった。

この人は、本当に守護神なのか。
もしこの人が本当に守護神だとして、なんで
こんな所にいるのか。

僕には全く分からなかった。
だから最初は、この人のことを”怪しい”と
思ったが、その心配はすぐに消えた。

それは、彼女が神だと言う証拠を見せて
くれたからだ。

「君が私のことを信じられないなら、特別
 に見せてあげるよ…
 私が神だっていう証拠をね。」

そう言って彼女は、僕のことを抱きしめた。
お母さんとイリナ以外の女性に抱きしめ
られた事はなかったから、結構恥ずかしい
思いをした。

「あ、あの…長くないですか…?」

もう、かれこれ10秒以上僕はこの女性の
腕の中に居る。
そろそろ顔が赤くなってきた。
恥ずかしすぎてヤバい。でも、その時彼女は
僕のことを放した。
はあ…恥ずかしくて死ぬとこだった…

「僕に何をしたんですか?」

僕がそう質問すると、思ってもいない答えが
返ってきたのだ。

「何って、契約だけど?」

…ん?契約ってことは、このフォルトゥーナ
って神様が、僕の守護神になったの…?

「なんでいきなり契約なんて…?」

僕がそう言ったら、彼女は笑って答えて
くれたんだ。

「君が、寂しそうだったから?
 んじゃ、そう言う事だから、私のことは
 これから”フォルトゥーナ”って呼んで。
 “さん”とか付けなくて良いからね?」

そう言って、フォルトゥーナはどこかに
消えてしまった。
僕、まだ自己紹介してないのに…
なんですぐ消えたの?てか、呼んだら
出てきてくれるのかな…

「フ、フォルトゥーナ…?
 これで出てこなかったら、どうすれば
 良いんだろう…」

そう思いながらも、僕はフォルトゥーナを
呼んでみた。するといきなり、僕の近くに
大きな魔法陣の様なモノが現れた。
もしかして、これから出てくるのか…?

キラーンと魔法陣が光って、そこから金色の
髪が現れた。

「って事は、本当にフォルトゥーナ?」

徐々に顔も見え始めた。
するとフォルトゥーナの声も聞こえる様に
なってくる。
そして、地面に落ちた。頭から。

「おーい、そう言えば、君の名前をまだ
 聞いてなかっ…ふぎゃっ!」

神様でも、頭から落ちたら痛いのかな。
なんか変な声も出してたし…

「あの、大丈夫…?」

「…ん、ああ、全然大丈夫!」

本当に大丈夫なのかな…
なんだか急に、守護神がショボく見えてきた
んだけど…。あ、そうだ!僕の名前。

「僕はライメル…です。
 これから、よろしくお願いします。」

「もう、敬語なんて要らないってば!
 友達みたいな関係になりたいしぃ~
 もうちょっと甘えてくれても、良いよ♡」

なんでちょっと誘ってくるんだろう…
まあ、僕に悪い印象は抱いていない様だから
ひとまず安心だ。

「あのさ、隣の国まで行きたいんだけど。」

「甘えてはくれないのね… 
 ちょっとは可愛いところ見せてもいい 
 のにさ!」

そう言われたが、気にせず行こう。
好きになったら、また失った時、すごく辛い
思いをすると思うから。

*   *   *

もう、日が沈みかけている。
歩き始めて、どれくらい経過したのだろう。
多分、歩き始めたのは午前中だから、6時間
以上は経過したはずだ。
でも、隣の国までの距離の半分も移動して
いない。今日はどうやって寝ようか…

*   *   *

どうしよう、隣の国に行くためには、ここの
ものすごく怖い森を抜けないといけない。
かなり高い木々があって、月明かりすら
この森に入る事は許されない暗黒の世界だ。

マズイ、今にも泣き出しそうだ…

「グスッ…」

僕の瞼から、一粒だけ涙が溢れた。
でも、泣くのはもう最後にしないと。
もう居ないから、イリナもお母さんも。

その時突然、ガサッ…ガサッ…と言う音が
どこからか聞こえてきた。

「なんの音だ…?」

そして僕は、その音の正体を知った。
大きな翼や爪、日本の曲がったツノ…
ライオンの様な見た目…
間違いない、マンティコアだ。

その時僕は、死の危険を感じた。
思い出したんだ。マンティコアは群れで
生活することを。
つまり、マンティコアは一体じゃない。
ここら周辺には、この化け物がうろうろ
しているかもしれない。

ここは、音を立てずに逃げるのが1番
良いだろう。

でも、そう思った時には、もう遅かった。

既にマンティコアは、僕の目の前まで来て
いたのだ。恐怖で足が動かない。
体が言う事を聞かない。魔力解放をしようと
思っても、魔力が出せない。

今度こそ、本当に死ぬのかな…

「ねえ、せっかく君と契約したんだしさ。
 少しくらい、私を頼ってほしいな…」

フォルトゥーナの声?
僕は呼んでないのに、なんでいきなり
出てきたんだ…?

「な、なんでいきなり出てくるのさ…!
 僕はもう、1人で生きれる…だから…!」

そうだよ、1人でなんとかしないと
いけないんだよ、僕1人で。
フォルトゥーナに頼ってばかりじゃ、何も
成長出来ない。

「口ではそう言えるかもね。
 ライメル、気づいてないでしょ…

 ライメル今、泣いてるよ…?」

その瞬間、堪えていたつもりだった涙が
一斉に顔から吹き出した。
変な声も出た、今までずっと、僕は1人が
怖かったのかな…
弱虫な性格は、まだ治っていないんだな。

「いっぱい泣きなよ…私が居るから。」

フォルトゥーナがそう言った時には、既に
マンティコアはどこにも居なかった。
多分、フォルトゥーナが追い払ってくれた
のだろう…

*   *   *

「ここからも、1人で歩ける?」

僕はフォルトゥーナにそう質問された。
1人で歩ける、そう言おうと思った。
でも、もう一度だけ、人に甘えても…

「2人で歩きたい…」

「やっと、甘えてくれたね…
 分かった、私が隣に居てあげる。
 じゃ、一緒に歩こっか!」

その時僕は、フォルトゥーナの胸の中に
居た。でも今回は、恥ずかしくなんてない。

「これからも、いっぱい甘えて良いから。
 今日はここで、一緒に居よう…?
 怖かったんでしょ、初めての暗い森。」

「…うん、怖かった。ありがとう…」

僕はまた、涙が溢れた。

神様、どうかお願いします。
この夜だけは、甘えさせてほしい…

そして僕は、いつの間にか眠りに着いた。

第23話/忘れじの記憶 03-守護神[ライメル]













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