俺様執着男が忠犬になれと命じてくるがアンタに飼われる気などない

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「じゃあ京馬きょうまさんは遥はるかのこと亡くなった奥さんの身代わりにしようとしてたってこと？」

「そ。別に俺をどうこうしたかったわけじゃなくて、亡くなった嫁の残像――いや、嫁ですらねぇかもな。死んだ犬の残像を俺に押し付けてただけってこと。俺はアイツの道具だったんだよ。マジムカつく。二度と会わねぇ」

　瑠衣るいはまたホテルの備え付けの冷蔵庫から「はい」と、ミネラルウォーターを差し出してくれる。

　俺はキャップを開けて胸ん中のモヤモヤを拭い去りたいみたいに勢いよく水を嚥下えんかしたけれど、あまり役には立ってくれねぇようだ。

「でも……何か可哀想。確かに奥さんや犬の残像はあったかもしれないけど、遥に執着してた気持ちも本物じゃないのかな？」

「いや、ねぇだろ。俺のことが好きとかそんな気持ちが欠片かけらでもあったんなら、あんな自分本位なことばっかしねぇはずだ」

「それはそうかもしれないけど……」

「アイツは根っからの俺様塩対応野郎なんだよ。身体の相性がいいからって、少しでも絆ほだされかけてた俺が馬鹿だった。もう、しばらく『グレシア』には近付かない。オッサンの思いどおりになってたまるかよ」

　それでも、瑠衣は何か言いたそうな顔をしていたけれど、俺はベッドに寝転んでイライラを隠しもせずにそれを黙殺した。

（少しでもドキドキしていた俺が馬鹿みてぇだ）

　一時の身体の関係なんて腐るほどしてきたし、アイツもそん中の一人に過ぎなかったはずなのに。

　『犬』呼ばわりされたことに腹が立って、どっかで特別視しちまってたんだと思う。

　もう二度と会わなければ変な執着を抱かれなくて済むし、俺も気の迷いだったんだって割り切ることが出来る。

　まさか本当に忠犬になってやってもいいなんて感情が芽生える前に気付けたことが、不幸中の幸いだろう。

「でもさ……京馬さんの傷癒せるのも遥だけだったんじゃないかな……」

「何で俺があんな俺様塩男の傷癒してやんなきゃいけねぇんだよ。そんな義理ねぇよ」

（身体は惜しかったけどな……）

　こんなことを考えている俺も大概セックスに溺れていただけだと思うと、情けなくて反吐が出そうだ。

（せいぜいいい忠犬見つけろよバーカ）