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「お邪魔しまーす!」

 部屋に入るなり真夜まやはきょろきょろと室内を見渡して「モデルルームみたいに生活感のない部屋だね?」と言いながら俺よりも先に前進しローソファーにふんぞり返った。

「まぁ、寝に帰るだけの部屋だからな」

 俺は私服のジャケットをソファに放ると、キッチンへ行き缶ビールを二本持ってきてローテーブルの上に置いてやった。

 プルタブを開けて一口煽った真夜が店のレンタルスーツのジャケットを脱いでシャツのボタンを開けながら「宇大うたくん、シャワー貸して?」などとのたまってくるから「は?」と思わず唖然と見つめてしまう。

「さっき店で入ってただろう?」

 訊ねると、真夜はハイブランドのレザーのショルダーバッグからコンタクトケースを取り出し、ブラウンのカラーコンタクトを外した。

 裸眼の真夜は黒曜石のように吸い込まれそうな瞳をしていて、俺の個人的な意見で言わせてもらえれば、仔犬のような黒い瞳でいればいいのにと思うのだが、真夜は儚げな美青年路線を演出したいらしい。

(まぁ……俺がとやかく言うことでもないし、ビッチと称されるこの男にはチャラチャラした外見の方が似合うのかもしれんがな)

「だって……。これから宇大くんとエッチなことするんだからちゃんと洗っとかなきゃだし?」

 その言葉に俺は飲んでいたビールを盛大に吹き出した。

「な……、するか! シャワーなど入らなくていい!」

(誰と誰がエッチなことをするというんだ……。この男のペースに呑まれてはいかん……。俺は正真正銘のノンケだ。動揺するな……)

「えー! やだー! 勝手に借りるから着替え貸して? 彼シャツ♡ってやつ。興奮しない?」

 確かに身長一六〇センチ台の真夜と一八六センチの俺じゃあ彼シャツ状態にはなるかもしれないが、彼シャツの下には男のモノがぶら下がっているのだ。

(誰が興奮するか!)

「わかったわかった。出しといてやるからさっさと行ってこい。ちなみにエロいことなんかするわけがないから余計な心配はしなくていいぞ」

「とか言っちゃって! 湯上りの俺を見たらムラムラするよ? きっと。じゃ、勝手に借りまーす!」

(誰がムラムラするか!)

 俺は盛大な溜め息を吐いてビールを煽った。
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