覇王はトラウマごと疫病神を愛しすべてを覆す

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　あの後、時也ときやさんの肩の噛み傷に絆創膏を貼って二人でシャワーを浴び、シーツを交換して眠りについた朝。

「あのー……」

　真夜まやくんが時也さんをじとーっとした目で見つめて、宇大うたさんは苦笑いのようなものを口元に浮かべていた。

「俺たちにいかがわしいことはするなって言っておきながら二人は何なんですか？」

「ああ……真夜、悪いな。俺のハニーの可愛い声はお前には刺激が強すぎたか」

　俺はもう身を縮める思いで黙り込んでいると、真夜くんが溜め息を吐いて「聖ひじりくん……」と、同情のような視線を投げ掛けてきた。

「こんな人に捕まっちゃったのが運の尽きだね……これからも苦労するだろうけど頑張ってね？」

「おい！　誰がこんな人だ！　宇大、お前の嫁は躾がなってねぇぞ」

「躾がなってないのは時也さんの方だと思うんですけど？　まぁ、確かにハニーの声は魅力的で俺と真夜もあてられましたけど」

　宇大さんの言葉に時也さんは豪快に笑って「そうだろ、そうだろ。あっ、そうだ、見てくれ宇大。この絆創膏。俺のハニーが健気にもお前らのためを思って――」とか言い出すから。

「あー！　もう！　時也さん！　ストップ！」

　思わず大きな声で制すると、真夜くんがおもむろに俺に向かってパチッとウィンクしてみせた。

「今日、『ネロック』の再建に向けての従業員ミーティングがあるんだけど……」

「え？　そうなの？」

　時也さんと真夜くんを交互に見つめたら、時也さんが「あ、そうだった」と思い出したようにポンっと手を打った。

「時也さんの盛大な土下座、聖くんにも見せてあげたいなぁ」

「俺が辞めるなんて言ったら全員白目剥くだろうな。でも、ま。聖ちゃんのために土下座して辞めてくっから待っててくれな？」

「時也さん……本当に辞めちゃうんですか？」

　辞めると聞いて嬉しかったし安心もしていたけれど、いざ本当に〝覇王〟を降板させるのかと思うとたちまち申し訳なくなって、そんなことを確認してしまう。

「ああ、もう決めたかんな。聖ちゃんのためだけに辞めるわけじゃねぇぞ？　俺自身が聖ちゃんのそばにいたくて辞めるんだ。俺の幸せのために喜んでくれや」

「……時也さん……」

「……聖ちゃん……」

　二人の唇が重なる――。

　……わけもなく、「はいはい、待て待て。盛るのは俺たちが帰ってからにしてよね」と、真夜くんが俺と時也さんを引き剥がしたけれど。

　俺と時也さんはそっと目配せしあって、これからは本当に二人で生きていけるんだと言う幸せを互いに噛み締めた。