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「今はまだ美聖みさとも目覚めたばかりで気が立っているだけだ。ひじり時也ときやさんのことを諦める必要は無い。時也さんだって聖を愛してるんだろ?」

「時也さんと美聖に謝ろうって約束してたんだ。美聖に許してもらって、そこからまた始めようって……」

 力無く項垂うなだれたら父さんが俺の肩に手を置いて、「聖……」と静かに名前を呼ぶから、ぼやけかけている視界を(こんな弱気じゃ駄目だ……)と瞬きをして鮮明にさせる。

「必ず聖は幸せになれる。父さんは時也さんのことをよく知っているわけじゃないけど……ここまで色々なことがあっても聖から何一つ奪わない彼だ。きっと凄い人なんだろう?」

「……時也さんは凄い人だよ。俺の疫病神を追い払おうと全力で守ってくれてる。あんな人だから、俺は信じたいと思ったし、信じてる。時也さんが目覚めるのを。でも……何も奪わなかったけど……美聖も目が覚めたけど、あんな状態だ。時也さんとは〝恋人〟ではいられないかもしれない。時也さんの目が覚めても、俺たちの関係は継続出来ないかもしれない」

 そこで――。

 ポケットの中でスマートフォンが着信を告げるので、(誰だろう?)と思いながら取り出すと知らない番号が表示されている。

「誰だ?」

「わかんない。知らない番号からだ……」

「出てみなさい」

 父さんに言われるがまま、受話器マークをタップして「もしもし?」と応答すると、電話の向こうでクスクスと笑い声が聴こえた。

「あ、あの……どなたですか?」

 突然知らない女性の笑い声が聴こえて不気味に思いながら問うと、電話の主は一呼吸置いて快活な声を出した。

『まさか時也のハニーが男の子だったなんてね』

「……え?」
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