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 朝十時、まだ眠っている時也ときやさんの腕の中から抜け出すと、そっと見下ろした寝顔までもが恐ろしく整っていて、けれど俺のせいで苦しめているのかと思うと胸が痛む。

 このままずっと時也さんが目覚めるまでそばにいたいけれど、(昼から撮影が入っていたか……)と溜め息が出た。


 ***


 都内の病院を訪ねたのは撮影が終わった十五時過ぎだ。

 時也さんから聞いていた個室を開けると「早く家に帰りたーい!」と言う真夜まやくんの叫びが聞こえたと同時、「ガキみたいなことを言うな」と知らない男性の声が聞こえてくる。

 静かに部屋に足を踏み入れて「あの、真夜くん。こんにちは」と声を掛けると、真夜くんはパッと明るい顔を見せて「ひじりくん!」と笑った。

 そばの丸椅子に座っていた、精悍な面差しをした多分時也さんよりも年上だろう男性がぺこりと会釈してくるので俺も頭を下げると、彼は少しだけ訝しんだ瞳を向けてくるからそわそわしてしまう。

「真夜、彼は?」

「あ、宇大うたくん妬いたー? 心配しなくても俺は浮気しないよ? ほら、この子がこの間話した時也さんのかわい子ちゃん」

 その言葉に弾かれたように俺を見つめた宇大さん、という方は安心した表情で「ああ。キミが時也さんの……。話は聞いている。俺は真夜の恋人の宇大。今は店を経営しているけど、前は『ネロック』でホストやってたんだ。時也さんとは旧知の仲なんだが、男に走ったって聞いて驚いたけど……なるほど、かわい子ちゃんだ」と真顔で言うので、何だか照れくさい。

「初めまして。神谷かみや ひじりです。真夜くんとはこの間会って……怪我をしたって聞いたのでお見舞いに来ました。――真夜くん、大丈夫?」

「俺なら全然平気だよ! 一週間で退院出来るみたいだから! ただ宇大くんが欲求不満みたいでさぁ。――ね? 宇大くん?」

「それはお前だろう。もう少し恥じらいを覚えろ。じゃあ俺はもう出勤しなきゃいけないから行くぞ? 聖くん、ゆっくりしていってくれ。コイツ退屈で仕方がないみたいだから。じゃあな真夜」

 ひらひらと手を振って丸椅子から立ち上がった宇大さんに、真夜くんは「絶対に浮気しないでよね!」と唇を尖らせれば、宇大さんは慈愛に満ちた瞳で「バカか。俺は一筋だ。じゃあな?」と立ち去っていく様をぽーっと見つめてしまう。

(一筋……か。同じ夜の世界の人同士でも、こんなに時也さんとは違うのか……)

 なんて考えたら、酷く二人が羨ましくなったと共に、自分には叶わない幸せに悲しくもなった。
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