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第5話

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 布団がある程度出来上がると、クトーは「絶対外に出んじゃねぇぞ?」と冬樹に念を押して出て行った。
 右も左もわからない状況で外に出たら間違いなく遭難するのが目に見えていたので、冬樹は大人しくクトーの帰りを待った。
 小一時間程すると、大きな怪鳥を引き摺ってクトーが戻ってきた。「よさげな鳥を見つけんのに苦労したぜ」などと言いつつ、手袋を嵌めた手で羽を毟っていく。肉は晩飯のメインに、羽根は布団に入れるらしい。
 クトーの体から剥がれた鱗は若干の熱を持つがほんのり温かい程度で、断熱効果もあるので袋状にして中に何かを入れる分にはクトーの熱で中身が発火することは無い。それでも保険の為に布団はなめした鱗を三重にして作られていた。
 出来上がった布団を満足そうに眺めてからベッドに敷くと、クトーは手袋を外し肉に触れる。それだけで香ばしい匂いがあたりにたち込め、冬樹はやっとクトーの体温が馬鹿みたいに高いことを実感した。
 肉だけの食事を済ませると、冬樹はクトーに手を引かれてベッドに入る。
 うっかり伴侶になることに頷いてしまったので何かされるだろうかと思ったが、クトーは冬樹の体をまさぐるだけでそれ以上のことはしてこなかった。
 クトーは見かけに反して純情なのかもしれない。と内心で笑い、冬樹は眠りに落ちていった。


 そして、そんな日が十日程過ぎた。
 石だけの家は、かなりの快適空間へと変貌を遂げている。扉が存在しなかった入り口には、木板を鱗で覆ったドア。床にもなめした鱗を敷き詰め、床に座っても痛くないようにとクッションまであった。
 前は明かりも存在しなかったのだが、今では壁三面に凝ったデザインのランタンが釣られている。光源は灯草とうそうと言う花の部分が仄かに光る植物だそうで、摘んで一ヶ月は光り続ける優れものだった。もちろん、灯りを消すことは出来ないので、夜寝るときはランタンにカバーをかける。
 前は存在しなかったテーブルも作られた。石を切り出して作った机に、作り直した二脚の椅子。こちらも中々凝ったデザインになっている。
 家の傍には不自然に作られた小川の流れ。元々近くを川が流れていたのだが、冬樹がもよおした時にクトーが付いてこようとするせいで一悶着起こった。解決策を図った結果、川から水をひいてかわやを作ってしまおうと言うことになった。家から歩いて十歩程の位置に、石で作られた簡易トイレがお目見えしたわけだ。
 それと家の裏側、小川の上流部には小さな温泉も作られた。普段は水を堰き止め、夜お風呂に入る前に水を入れる。湯を沸かすのはクトーが手を水面に突っ込むだけなので楽だった。
 クトーが水に入るだけでそこが温泉化してしまうなら、湖で冬樹が這いつくばっていた時に同じ手段を取ってくれれば良かったじゃないか、そう言うと「あっこにゃ魚が棲んでんだろ」と言われた。冬樹を助ける手段として考えはしたらしいのだが、食べる目的以外で命を奪うような真似はしたくない。そう言われて、クトーは見た目の割りにとても優しい性格なのだと思った。それにそんな手段を取っても冬樹に触ることは出来ないと考えていた為、溺れても助けることは不可能だと思っていたそうだ。だから冬樹が自力で渡り切るのをヤキモキしながら見ていたらしい。
 そんな訳で快適は快適だが、食事の面では不便を強いられていた。毎日、肉、肉、肉ではうんざりするのも当たり前だが、五日過ぎた頃にぼそりと野菜が食べたい、と呟いた冬樹の声が聞こえていたらしく、翌日にはどっさり野菜を持ってきた。
 冬樹がどこから盗って来たのかと聞けば、「お前今、とったのニュアンスが…まぁいいや」なんていいつつ、きちんと仕事をしてその報酬として物々交換してきたのだという。
 仕立て屋なのか家具職人なのか悩んで聞いてみると、クトーは鍋やらフライパンやら包丁を作りつつ、鍛冶屋だと言う。納得出来るような出来ないような、曖昧に冬樹が頷くと「つっても、俺の鱗とか牙は使ってねぇ」と、聞いてもいない補足をし始めた。
 竜の部位はどれも大きな力を秘めているので、かなり優れた武器になるらしく、それを悪用されては世界の秩序が乱れかねないらしい。と、ほぼ全ての物品がクトーの一部で出来たワインレッドの部屋で言われた。
 冬樹が興味無げに「ふぅん」と相槌を打つと、「今度、街につれてってやるよ」とクトーが言う。
 てっきり囲い込んで外に出したくないのだと思っていたのだが、そうでも無かったらしいことに冬樹は驚いた。


 そうして、十日目。
 街に出かける準備を済ませて、いざ玄関へと向かおうとした矢先、ノックの音が響いた。

 「訪問者?なんているんだ?」

 不思議に思って横に居るクトーに聞くと、険しい顔をして冬樹を背中に庇うようにする。

 「この家知ってる奴なんざいねぇはずだぞ」

 警戒を露にするクトーに、冬樹は不安が駆り立てられる。そのまま二人黙っていると、またもノックの音。

 「冬樹ー?そこに居ますよねー?冬樹ー?」

 聞こえてきた声に、冬樹は駆け出すようにしてドアを開いた。
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