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本編
第二十一話
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ピピッ、という電子音が聞こえる。
「目覚ましのアラームだ」と思うのに動けない。
いつもは目覚めがよく、すぐに起き上がることができるのに今日は駄目だ。
「……まだ少し寝かせてやるか」
……うん?
誰かの声が聞こえると同時にアラームが止まった。
煩い音がなくなると、また意識が沈みそうになる。
布団はふかふかだし、背中が温かくて気持ちいい。
人肌って安心するなあ。あれ……人肌?
広いはずのベッドで身動きが取れなくておかしいし、背中から回された腕が微妙に重い。
「細え手首だな」
背中から伸びている手は僕の手首の辺りを掴んでいる。
大きな手だから、手首も手の平も丸ごと包まれているようだ。
手の方に意識がいっていたら、今度は首のあたりがおかしい。
自分のものではない髪が当たっていてくすぐったい。
我慢していると、髪だけじゃなく暖かいものが当たった。
さっきと同じようにくすぐったさを感じるが、それ以上に背中がぞくりとする。
「うーん……」
まだ寝ていたい。
身じろぎしながら前に進み、後ろの熱から離れたのだが……すぐに追いつかれた。
……と思ったら。
「!?」
首の付け根のあたりにまた暖かくて湿ったものが当たったかと思うと、チクッとした痛みが走った。
……今の何?
「あー……やっちまった」
絶望したような呟きが聞こえると、背中にあった熱はなくなった。
ベッドを降りて離れて行く。
近くに気配がなくなったところでむくりと起きた。
そうだ、ここは会長の部屋だ。
……ということは、今離れて行ったのは会長だ。
洗面所にいるようで水の音がしている。
顔でも洗っているのかな。
「首……」
なんかチクッとしたけど?
「……これもアクシデントか?」
そんな馬鹿な。
うっかり人の首に吸い付くなんて……蚊じゃあるまいし……。
いや、蚊なのか?
「き、木野宮!」
「会長、おはようございます」
「……おはよう」
やはり顔を洗っていたようで、首にタオルをかけた会長が戻ってきた。
ベッドに座ってボーッとしている僕を見て挙動不審になっている。
「アラーム止めてくれました?」
「あ、ああ、今起こそうと思ったところだ」
「「…………」」
会長の目が泳いでいる。
実は蚊でした? 疑惑を問い詰めるべきか真剣に悩む。
「あー……腹減ったな?」
「そうですね」
「何がいい? 米はあるし、味噌汁くらいならすぐ作れる。パンもある。あとカレーも残っているが……」
動き始めた会長が話し掛けてきたが、誤魔化している感が凄いです。
会長、普段そんなに早口でした?
……まあいいか。
「カレーが食べたいです」
ベッドを降りて、キッチンの方に向かっていく会長のあとに続いた。
一晩寝かせて、さらに美味しくなっているであろう会長のシーフードカレーを食べたい。
「聞いておいてなんだが、朝からカレーでいいのか?」
「背番号51の選手をリスペクトしているので。朝カレー最高です」
「なんだそれは……」
「知らないならいいです。とにかく、会長のカレーが食べたいだけなので」
「そ、そうか」
あ、会長がちょっと照れている。
カレーを温めるため、IHのスイッチを入れている表情が嬉しそうだ。
「やっぱりいい匂いだなあ」
温度が上がるにつれて広がる匂いに食欲をそそられる。
「食ってから着がえた方がいいな。カレーの匂いが付きそうだ」
「カレー臭……加齢臭? 駄洒落はやめてください」
「俺は言ってないだろう」
「くだらないことを言っていないで器にご飯を入れておけ」と叱られたので大人しく従う。
昨日は手伝えなかったので、張り切ってスプーンとお茶も用意して硝子のテーブルにセッティング。
ごはんも置いて完璧だと思ったら「カレーを入れていないのにご飯だけ持って行くな」と追加で叱られた。
本当だ……全然完璧じゃなかった……。
カレーの入っていないご飯をしょんぼりしながら持って戻ると笑われた。
「米だけ食うのか?」
「『カレーライス』を食べます!」
「くくっ」
そんなに笑わなくても……!
朝から恥をかいてしまった。
カレーがやっぱり昨日よりも美味しかったから許すけど、美味しくなかったら拗ねていたからね!
※
今日は会長と一緒に家を出て、並んで歩きながら登校した。
会長と話すのが楽しくて途中まで気がつかなかったが、秀海の生徒がちらちらとこちらを見てた。
副会長の耳に届いていたような話が、さらに広がったらまずい。
会長に不名誉な噂が広がらないように、学校ではあまり二人きりでいない方がいいのかもしれないと思った。
会長と別れ、一年のホールに入る。
着席して教科書を広げていると、一限目の授業が始まった。
僕はスクリーンに集中しているのだが、今日も隣の席に来訪者が……。
「……早川、どういうつもり?」
「…………」
無視かよ!
ファンという名のお供も連れずにやって来た早川が、スマホを弄っている。
何がしたいんだ?
授業中だけれど、居心地が最悪なので二つ隣に移動する。
よしこれで……。
「…………」
折角離れたのに詰めてきた。だから……なんでだ!
「早川、話があるならさっさと済ませて離れてくれない?」
「うるさいよ。授業中」
こ、こいつ~~~~!!
「目覚ましのアラームだ」と思うのに動けない。
いつもは目覚めがよく、すぐに起き上がることができるのに今日は駄目だ。
「……まだ少し寝かせてやるか」
……うん?
誰かの声が聞こえると同時にアラームが止まった。
煩い音がなくなると、また意識が沈みそうになる。
布団はふかふかだし、背中が温かくて気持ちいい。
人肌って安心するなあ。あれ……人肌?
広いはずのベッドで身動きが取れなくておかしいし、背中から回された腕が微妙に重い。
「細え手首だな」
背中から伸びている手は僕の手首の辺りを掴んでいる。
大きな手だから、手首も手の平も丸ごと包まれているようだ。
手の方に意識がいっていたら、今度は首のあたりがおかしい。
自分のものではない髪が当たっていてくすぐったい。
我慢していると、髪だけじゃなく暖かいものが当たった。
さっきと同じようにくすぐったさを感じるが、それ以上に背中がぞくりとする。
「うーん……」
まだ寝ていたい。
身じろぎしながら前に進み、後ろの熱から離れたのだが……すぐに追いつかれた。
……と思ったら。
「!?」
首の付け根のあたりにまた暖かくて湿ったものが当たったかと思うと、チクッとした痛みが走った。
……今の何?
「あー……やっちまった」
絶望したような呟きが聞こえると、背中にあった熱はなくなった。
ベッドを降りて離れて行く。
近くに気配がなくなったところでむくりと起きた。
そうだ、ここは会長の部屋だ。
……ということは、今離れて行ったのは会長だ。
洗面所にいるようで水の音がしている。
顔でも洗っているのかな。
「首……」
なんかチクッとしたけど?
「……これもアクシデントか?」
そんな馬鹿な。
うっかり人の首に吸い付くなんて……蚊じゃあるまいし……。
いや、蚊なのか?
「き、木野宮!」
「会長、おはようございます」
「……おはよう」
やはり顔を洗っていたようで、首にタオルをかけた会長が戻ってきた。
ベッドに座ってボーッとしている僕を見て挙動不審になっている。
「アラーム止めてくれました?」
「あ、ああ、今起こそうと思ったところだ」
「「…………」」
会長の目が泳いでいる。
実は蚊でした? 疑惑を問い詰めるべきか真剣に悩む。
「あー……腹減ったな?」
「そうですね」
「何がいい? 米はあるし、味噌汁くらいならすぐ作れる。パンもある。あとカレーも残っているが……」
動き始めた会長が話し掛けてきたが、誤魔化している感が凄いです。
会長、普段そんなに早口でした?
……まあいいか。
「カレーが食べたいです」
ベッドを降りて、キッチンの方に向かっていく会長のあとに続いた。
一晩寝かせて、さらに美味しくなっているであろう会長のシーフードカレーを食べたい。
「聞いておいてなんだが、朝からカレーでいいのか?」
「背番号51の選手をリスペクトしているので。朝カレー最高です」
「なんだそれは……」
「知らないならいいです。とにかく、会長のカレーが食べたいだけなので」
「そ、そうか」
あ、会長がちょっと照れている。
カレーを温めるため、IHのスイッチを入れている表情が嬉しそうだ。
「やっぱりいい匂いだなあ」
温度が上がるにつれて広がる匂いに食欲をそそられる。
「食ってから着がえた方がいいな。カレーの匂いが付きそうだ」
「カレー臭……加齢臭? 駄洒落はやめてください」
「俺は言ってないだろう」
「くだらないことを言っていないで器にご飯を入れておけ」と叱られたので大人しく従う。
昨日は手伝えなかったので、張り切ってスプーンとお茶も用意して硝子のテーブルにセッティング。
ごはんも置いて完璧だと思ったら「カレーを入れていないのにご飯だけ持って行くな」と追加で叱られた。
本当だ……全然完璧じゃなかった……。
カレーの入っていないご飯をしょんぼりしながら持って戻ると笑われた。
「米だけ食うのか?」
「『カレーライス』を食べます!」
「くくっ」
そんなに笑わなくても……!
朝から恥をかいてしまった。
カレーがやっぱり昨日よりも美味しかったから許すけど、美味しくなかったら拗ねていたからね!
※
今日は会長と一緒に家を出て、並んで歩きながら登校した。
会長と話すのが楽しくて途中まで気がつかなかったが、秀海の生徒がちらちらとこちらを見てた。
副会長の耳に届いていたような話が、さらに広がったらまずい。
会長に不名誉な噂が広がらないように、学校ではあまり二人きりでいない方がいいのかもしれないと思った。
会長と別れ、一年のホールに入る。
着席して教科書を広げていると、一限目の授業が始まった。
僕はスクリーンに集中しているのだが、今日も隣の席に来訪者が……。
「……早川、どういうつもり?」
「…………」
無視かよ!
ファンという名のお供も連れずにやって来た早川が、スマホを弄っている。
何がしたいんだ?
授業中だけれど、居心地が最悪なので二つ隣に移動する。
よしこれで……。
「…………」
折角離れたのに詰めてきた。だから……なんでだ!
「早川、話があるならさっさと済ませて離れてくれない?」
「うるさいよ。授業中」
こ、こいつ~~~~!!
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