6 / 20
高校生活
しおりを挟む
桃がよたよたと歩けるようになった春、朔は高校生になった。
倫に教えてもらったから、近くにある学力の高めの公立高校に合格できた。
倫は学力的にはもう少し高い学校も合格確実だったのに、中学で3年間頑張ったバスケットボールが強いという理由で朔と同じ学校に入学した。
新しい学校で不安に感じていたけど、倫がいてくれてとても安心した。
でも倫に重たく感じて嫌われないよう、あまり頼らないようにしようと入学式で心の中で誓った。
朔と倫は同じクラスになった。
同じ中学の人は5、6人いたがほとんど朔は話したこともない人たちだった。
でも倫とは仲が良いみたいで、初めて教室に入った時ハイタッチしていた。
新しいクラスの雰囲気にもやっと慣れてきた頃転校生がやって来た。
朝担任の教師と入ってきた時、静かにどよめきが起きた。
二ヶ月前まで中学生だったとは思えない大人びた美少女だった。
すらっと背が高く、最近背が伸びてきた158cmの朔よりもう少し高く、165cm近くあるようだった。
髪は校則違反が心配な位の少しだけ栗色がかっていて、背中中ばまであった。
「自己紹介して」
担任に促され、彼女はにっこり微笑んで、
「守屋敷麗香です。宜しくお願いします」
おおっ。
クラスの男子達のどよめき。女子はキッと麗香をにらむように見ている。
朔はこの雰囲気はなんか嫌で教室の後ろで小さくなった。
「守屋敷の席は…」
ぎくりとする。
空いている席は…。
「ああ、あそこ、後ろの席な。宮野の隣、空いてたな」
かたん。
朔は座ったまま椅子から落ちそうになった。
麗香は朔の顔を見て、にっこり微笑みゆっくりと歩いて来た。
朔はその優雅な歩き方に、何故か背中がさわさわした。
麗香は朔の前まで来ると、さっきの表情よりもっと綺麗な笑顔で、
「宜しくお願いします、朔くん」
そう言って席に着いた。
入学して最初の頃は倫と一緒に帰っていた。
でも今は倫がバスケットボール部に入部して部活動が始まってからは一人で帰宅していた。
両親や倫にも何かやってみたらと言われたが、結局部活には入らなかった。
倫の他に友達がいない朔はこのところ一人で帰っている。とぼとぼと背中が丸まっていつも以上に覇気がない。
「さーく」
聞き覚えのない声。
でも、そのイントネーション。
朔はぎくりとして立ち止まった。そして恐る恐る声のした方を振り返る。
そこにいたのは。
金髪に近い色の長めの髪、少したれ気味の目。背は高く、180cmはあるようだ。スマートで若者向けのブランド物を着こなしている。
一言で言えば、イケメンな大学生。
「朔。やっと見つけた」
彼は嬉しそうに固まっている朔をゆっくりと眺めた。
声が出ない。怖い。
朔には彼が誰か分かってしまった。
「満月…」
「久し振りだね」
満月は名前を呼ばれ、いっそう嬉しそうに笑う。
「ここじゃゆっくり話せない。カフェにでも入ろう」
そう言って朔の腕を掴む。
「いやっ」
とっさにその手を払ってしまい、怒った顔の満月にしどろもどろで言う。
「帰宅途中に喫茶店とか入るの校則違反だから」
「朔は真面目だね」
じゃあ、そこの公園でと今度は振り払われないようがっちりと肩を寄せるように公園のベンチに座らせられた。
「ちょっと待ってて」
入り口に置かれた自販機からコーヒーとココアを買い、ココアの方を朔の手に握らせる。
「あ、ありがとう」
そう言うと、満月はニッコリ笑う。
もたもたとココアのプルトップを開けようとしてると、満月が貸してと手を伸ばし開けてくれた。
朔はココアを飲みながら、そっと満月を盗み見る。
もう7、8年経つのに昨日まで会ってたような満月の態度。
背は随分伸びて、顔も基本的なところは残っていたが大人の顔になっていた。
なんで会いに来たんだろう。見つけたって言ってた。探したんだろうか。
そうぼんやり考えていると、
「ハウスでは朔の貰われた先教えてくれなかった。個人情報保護法だって」
怒った口調で言った。
「小学校卒業したら、親が急に転勤だって。九州だよ。行きたくないって言ったのに未成年だし、義務教育だからって連れてかれた」
朔は満月の口調が怖くて、ココアの缶をぎゆっと両手で握りしめた。
「高校も向こうで通わされた。でも大学は無理やりこっちを受けてやっと認めさせたんだ」
得意気に言われ、朔はどうしていいか分からなかったが取り敢えず頷いた。
すると満月は満足そうに頷き返した。
「こっちに来て中学校探したんだけど、中学校ってたくさんあるだろう?見つかんなくて。今年高校いくつか探してたらやっと朔を見つけたんだ」
すごいだろ?
朔の身体は固まってしまった。
怖い。
逃げたい。突き放したい。
でもそんなことしたら満月はきっと怒る。怒ったらもっと嫌なこと言われたりされたりする。
朔がなんの反応もしないので、満月は抱き締めたまま朔の顔を覗き込んだ。
「朔、嬉しいよね」
尋ねると言うより、確認、いや、確信。それ以外は認めない。
「さーく?」
力が込められて朔は慌てて答える。
「びっくりして…」
「そうだよね。見つけるのにずいぶんかかってしまったから」
そう言って朔の背中をゆっくり撫でる。
「でもこれからはいつでも会える。大学卒業して就職したら俺が朔を養ってあげる」
「えっ」
「一緒に暮らそう」
朔には何を言われているか理解ができなかった。
どうして一緒に暮らすのか。どうして満月に養って貰わなきゃならないのか。
「でも…」
言いかけると満月は眉に力をいれて朔を睨む。
「嫌なの?」
違うだろうと言うように。
「僕はお父さんとお母さんと暮らしてるから、満月と暮らせない」
「本当の親じゃないだろ。いつまてもお金や迷惑かけらんないだろ?」
「でも妹のお世話手伝わないとだから」
「その子は本当の子供なんだろ?その子だって手がかからなくなる。そしたら本当の家族だけで居たくなる」
満月は優しい笑顔で笑って言った。
「そしたら朔は邪魔。要らなくなるよ」
それから
「だから俺が朔を拾ってあげる」
どう断れば満月が怒らないだろう。
そう考えている時、近くで音楽が流れ出した。
朔は慌てて鞄からスマホを取り出す。その時やっと満月の腕から逃げ出せた。
陽子の職場からだった。
「はい。…はい、直ぐ迎えに行きます」
「何だよ、どっか行くの?」
不機嫌な満月の表情に朔はスマホを鞄に入れる手が震えた。
「お母さんが妹を迎えに来てって」
「ふうん。スマホ持ってんなら、アドレスとケー番教えて」
「ごめん。これお母さんのだから。しばらく忙しくて迎え頼むかもって持たされてるだけなんだ」
「スマホかって貰えばいいだろ」
「そんなことできないよ」
慌てて首を振る。
本当は父に買ってあげると言われたが、電話やメールをする相手が居ないからと断っていた。
「ケチ臭いな。そのうち俺が買ってあげるよ」
「そんなのいいよ」
「連絡いつでも取れるように、そうしよう」
満足げに言う満月に、朔はとんでもないと首を振り続ける。
「バイトして自分で買うから待ってて」
バイトの予定はまたなかったが、高校に入ったらいつかバイトをしようと考えていた。
「しょうがないな」
許してやるといった表情で満月は肩をすくめてみせる。
「満月、ごめんね。もう行かなくちゃ」
「また迎えに行くからね」
そう言われ、朔は仕方なく頷いた。
「さよなら」
早く離れたくて走って公園をでた。
倫に教えてもらったから、近くにある学力の高めの公立高校に合格できた。
倫は学力的にはもう少し高い学校も合格確実だったのに、中学で3年間頑張ったバスケットボールが強いという理由で朔と同じ学校に入学した。
新しい学校で不安に感じていたけど、倫がいてくれてとても安心した。
でも倫に重たく感じて嫌われないよう、あまり頼らないようにしようと入学式で心の中で誓った。
朔と倫は同じクラスになった。
同じ中学の人は5、6人いたがほとんど朔は話したこともない人たちだった。
でも倫とは仲が良いみたいで、初めて教室に入った時ハイタッチしていた。
新しいクラスの雰囲気にもやっと慣れてきた頃転校生がやって来た。
朝担任の教師と入ってきた時、静かにどよめきが起きた。
二ヶ月前まで中学生だったとは思えない大人びた美少女だった。
すらっと背が高く、最近背が伸びてきた158cmの朔よりもう少し高く、165cm近くあるようだった。
髪は校則違反が心配な位の少しだけ栗色がかっていて、背中中ばまであった。
「自己紹介して」
担任に促され、彼女はにっこり微笑んで、
「守屋敷麗香です。宜しくお願いします」
おおっ。
クラスの男子達のどよめき。女子はキッと麗香をにらむように見ている。
朔はこの雰囲気はなんか嫌で教室の後ろで小さくなった。
「守屋敷の席は…」
ぎくりとする。
空いている席は…。
「ああ、あそこ、後ろの席な。宮野の隣、空いてたな」
かたん。
朔は座ったまま椅子から落ちそうになった。
麗香は朔の顔を見て、にっこり微笑みゆっくりと歩いて来た。
朔はその優雅な歩き方に、何故か背中がさわさわした。
麗香は朔の前まで来ると、さっきの表情よりもっと綺麗な笑顔で、
「宜しくお願いします、朔くん」
そう言って席に着いた。
入学して最初の頃は倫と一緒に帰っていた。
でも今は倫がバスケットボール部に入部して部活動が始まってからは一人で帰宅していた。
両親や倫にも何かやってみたらと言われたが、結局部活には入らなかった。
倫の他に友達がいない朔はこのところ一人で帰っている。とぼとぼと背中が丸まっていつも以上に覇気がない。
「さーく」
聞き覚えのない声。
でも、そのイントネーション。
朔はぎくりとして立ち止まった。そして恐る恐る声のした方を振り返る。
そこにいたのは。
金髪に近い色の長めの髪、少したれ気味の目。背は高く、180cmはあるようだ。スマートで若者向けのブランド物を着こなしている。
一言で言えば、イケメンな大学生。
「朔。やっと見つけた」
彼は嬉しそうに固まっている朔をゆっくりと眺めた。
声が出ない。怖い。
朔には彼が誰か分かってしまった。
「満月…」
「久し振りだね」
満月は名前を呼ばれ、いっそう嬉しそうに笑う。
「ここじゃゆっくり話せない。カフェにでも入ろう」
そう言って朔の腕を掴む。
「いやっ」
とっさにその手を払ってしまい、怒った顔の満月にしどろもどろで言う。
「帰宅途中に喫茶店とか入るの校則違反だから」
「朔は真面目だね」
じゃあ、そこの公園でと今度は振り払われないようがっちりと肩を寄せるように公園のベンチに座らせられた。
「ちょっと待ってて」
入り口に置かれた自販機からコーヒーとココアを買い、ココアの方を朔の手に握らせる。
「あ、ありがとう」
そう言うと、満月はニッコリ笑う。
もたもたとココアのプルトップを開けようとしてると、満月が貸してと手を伸ばし開けてくれた。
朔はココアを飲みながら、そっと満月を盗み見る。
もう7、8年経つのに昨日まで会ってたような満月の態度。
背は随分伸びて、顔も基本的なところは残っていたが大人の顔になっていた。
なんで会いに来たんだろう。見つけたって言ってた。探したんだろうか。
そうぼんやり考えていると、
「ハウスでは朔の貰われた先教えてくれなかった。個人情報保護法だって」
怒った口調で言った。
「小学校卒業したら、親が急に転勤だって。九州だよ。行きたくないって言ったのに未成年だし、義務教育だからって連れてかれた」
朔は満月の口調が怖くて、ココアの缶をぎゆっと両手で握りしめた。
「高校も向こうで通わされた。でも大学は無理やりこっちを受けてやっと認めさせたんだ」
得意気に言われ、朔はどうしていいか分からなかったが取り敢えず頷いた。
すると満月は満足そうに頷き返した。
「こっちに来て中学校探したんだけど、中学校ってたくさんあるだろう?見つかんなくて。今年高校いくつか探してたらやっと朔を見つけたんだ」
すごいだろ?
朔の身体は固まってしまった。
怖い。
逃げたい。突き放したい。
でもそんなことしたら満月はきっと怒る。怒ったらもっと嫌なこと言われたりされたりする。
朔がなんの反応もしないので、満月は抱き締めたまま朔の顔を覗き込んだ。
「朔、嬉しいよね」
尋ねると言うより、確認、いや、確信。それ以外は認めない。
「さーく?」
力が込められて朔は慌てて答える。
「びっくりして…」
「そうだよね。見つけるのにずいぶんかかってしまったから」
そう言って朔の背中をゆっくり撫でる。
「でもこれからはいつでも会える。大学卒業して就職したら俺が朔を養ってあげる」
「えっ」
「一緒に暮らそう」
朔には何を言われているか理解ができなかった。
どうして一緒に暮らすのか。どうして満月に養って貰わなきゃならないのか。
「でも…」
言いかけると満月は眉に力をいれて朔を睨む。
「嫌なの?」
違うだろうと言うように。
「僕はお父さんとお母さんと暮らしてるから、満月と暮らせない」
「本当の親じゃないだろ。いつまてもお金や迷惑かけらんないだろ?」
「でも妹のお世話手伝わないとだから」
「その子は本当の子供なんだろ?その子だって手がかからなくなる。そしたら本当の家族だけで居たくなる」
満月は優しい笑顔で笑って言った。
「そしたら朔は邪魔。要らなくなるよ」
それから
「だから俺が朔を拾ってあげる」
どう断れば満月が怒らないだろう。
そう考えている時、近くで音楽が流れ出した。
朔は慌てて鞄からスマホを取り出す。その時やっと満月の腕から逃げ出せた。
陽子の職場からだった。
「はい。…はい、直ぐ迎えに行きます」
「何だよ、どっか行くの?」
不機嫌な満月の表情に朔はスマホを鞄に入れる手が震えた。
「お母さんが妹を迎えに来てって」
「ふうん。スマホ持ってんなら、アドレスとケー番教えて」
「ごめん。これお母さんのだから。しばらく忙しくて迎え頼むかもって持たされてるだけなんだ」
「スマホかって貰えばいいだろ」
「そんなことできないよ」
慌てて首を振る。
本当は父に買ってあげると言われたが、電話やメールをする相手が居ないからと断っていた。
「ケチ臭いな。そのうち俺が買ってあげるよ」
「そんなのいいよ」
「連絡いつでも取れるように、そうしよう」
満足げに言う満月に、朔はとんでもないと首を振り続ける。
「バイトして自分で買うから待ってて」
バイトの予定はまたなかったが、高校に入ったらいつかバイトをしようと考えていた。
「しょうがないな」
許してやるといった表情で満月は肩をすくめてみせる。
「満月、ごめんね。もう行かなくちゃ」
「また迎えに行くからね」
そう言われ、朔は仕方なく頷いた。
「さよなら」
早く離れたくて走って公園をでた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる