愛なんか知らない

可悠実

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幹が待ち合わせのホテルのロビーに着いたときには、他のメンバーが揃っていた。
両親と桃果、その恋人。
その顔を見て、幹は桃果を見る。
「じゃあ。行こう」
両親と桃果の恋人が歩きながら話しているのを見て、幹は桃果に小声で聞いた。
「なんで二人前の彼氏?」
「やり直したいって」
「元カレじゃなく、元元カレ?」
「元カレは元元カレ、崇と別れて自棄になって付き合っただけだから」
ふうんと桃果の顔を見る。
「何か問題でも?」
「べっつに」
ニヤニヤして言う。
食事会の場所は、両親が泊まっているホテルの地下にある和食レストランだった。高級まではいかないが、上品で趣味がいい店だった。
席に付き落ち着くと、ご挨拶。
桃果の恋人と幹は前にも少し顔を合わせていたが、きちんと話したことはなかった。
「改めまして僕は坂本崇です」
柔らかい笑顔でお辞儀する。
茶髪の少し長めのくせっ毛。目元はキリリとしているが、どちらかと言うと男性的というより中性的な感じ。細いというより華奢な体つき。背は桃果と同じ位。桃果の方が頼りがいがある雰囲気。
「雅司君とか前にちょっと会ったことあるよね」
「会ったと言うか遭遇したと言うか…」
2、3年前高野に付き合ってダブルデートみたいなことをした時、デート中の桃果達と擦れ違った。その時に挨拶だけで別れたので話はしていない。
料理が運ばれてきた。
「なんで和食?ハワイでも和食食べれるんだろ?」
幹が父に言うと、隣の母が嬉しそうに割り込む。小柄で可愛い柔らかい雰囲気の女性。桃果とはあまり似ていない。
「うどんもラーメンもお刺身もあるけど、違うのよ」
「違うって?」
「やっぱりローカルの口に合うように作ってるから本当の和食と違うの。それに気候も違うから同じ物を食べても感じる舌が違う気がする」
なんとなく分かって頷く。
「大抵はなんちゃって和食だしね」
父が笑う。
その顔を見て、晶を思い出す。
(似てるんだ。だから晶とは付き合えない)
納得する。嫌いではないが付き合う対象にはならない。父親の性格雰囲気が、晶に似ている。
まぁ、似てなくても付き合わないけど。
「崇さんはどちらにお勤め?」
さぁ。始まったぞ。
幹は気の毒そうに姉の恋人を見る。
おばちゃん攻撃が始まった。
「桃果さんと同じ会社です。部署は営業部です」
「あら、そうなの?お年は?」
「来年30になります」
母の質問にニコニコして答える。
「ご長男?」
「いえ、兄がいます。妹もいて3人兄弟です」
桃果は恋人が質問攻めにされているのに、知らんぷりで海老のテンプラを口に入れた。
「あら、美味しい。崇海老苦手だったわよね」
そう言って、彼氏の海老を奪う。
「代わりに鱚をあげるわ」
「まぁ、キスだって」
笑う母。
父は妻を野放しにして、苦笑する。
好奇心いっぱいの妻を愛していて、桃果の恋人を嫌な気持ちにさせることはないと信頼していた。
(うちの男はうちの女性には勝てないからな)
幹は気の毒そうにまた姉の恋人に視線をやる。
この人もその仲間入りか。
そして森川の顔を思い浮かべる。
もしここに彼を連れてきたらどんな状況になるだろう。
そんな度胸が幹にはあるだろうか?
森川は?
幹はともかく森川はニコニコして母の質問攻めに答えそうな気がする。自分の方が心配だった。
そろそろ話をそらそうと、
「結婚式って明日?」
幹が父親に尋ねると、母が横から
「そうよ。明日の二時からお呼ばれなの」
「友人って?」
電話で友人の結婚式と言っていたので、どういう友人か聞いてみた。
「勤めてた会社の元部下」
「それは友人ではないんじゃあ」
そう言うと、父は笑って、
「今は友人だよ。元上司ではなく、友達付き合いしてるから」
元とはいえ、上司と友達付き合いできるんだろうか?
「2つ出るって言ってたよね」
「ああ」
また横から
「もうひとつは結婚式ではなくパーティーよ」
「式はしないの?」
「籍入れられないから。身内でパーティーするって」
「?」
「同性同士で日本ではまだ認められてないから」
母の言葉に父が説明する。
「その人も父さんの元部下?」
「いや。こっちは本当に友人。同級生」
崇が聞く。
「お父さんっていくつなんですか?」
「48だよ」
「若く見えますね」
「好きなことしかしないから」
幹が茶化す。
「雅司は付き合ってる子いないのか?」
「えっ」
桃果はニヤニヤして見ている。
「居ないことはないけど」
「金髪だってかなりの年上だっていいから今度会いたいわ」
「なんだよそれ」
幹はふくれる。
「雅司が選んだ人だから、例えヤクザ屋さんやキャバ嬢でも、それからアイドルでもホストでも好い人だって分かるから」
「…」
隣で桃果は、
「そういうことだから、今度ちゃんと紹介しなさい」
しめるように言った。
「考えとく」
食事が終わり、明日は早いと言う両親を桃果が部屋まで送ることになった。お土産を渡したいらしい。
幹は崇とロビーで待つことになった。
綺麗な横顔を眺めながら幹は言ってみた。
「なんで桃果と一回別れたんですか?」
崇は苦笑して
「直球だね」
うーんと、言葉を選ぶように考え、
「彼女って腐女子だよね」
「そうですね」
今度は幹が苦笑する。
「知ってて付き合ってたんだけど。初めは読むだけの人だったけど、自分で書くようになったんだよ」
「小説?」
それは知らなかった。
崇は頷いた。
「僕ってBLのモデルにいいらしくって」
幹も頷く。
「オレもよく桃果にされました」
「だけど小説に書かれて、それを読んじゃって…」
「あちゃー」
気の毒そうに笑う。
「君も笑えないよ」
「なんで?」
「相手、君だから」
呆気に取られ、口が閉まらない。
そしてやっと言う。
「どっちが受けですか?」
「僕」
二人は見つめあって、そして顔を歪ませた。
幹は深いため息を着いた。
「姉がすみません」
崇は苦い笑みを浮かべ、
「それでケンカして、別れたんだ」
「気持ちは分かります。でもまた付き合うんだ」
「そうなんだよね。仕方ないさ。惚れてんだから」
そう言って笑う。
いい笑顔だ。
幹はそう思って、崇に同情した。
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