愛なんか知らない

可悠実

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もうそろそろ質問は終わり、花束贈呈になる。花束は幹が曖に、香が晶に渡すことになっていた。
幹はそっと扉から出て、そこで待機していた有田から花束を2つ受け取った。
「ピンクの花が多い方が女性に、ブルーの花が多い方が男性に渡す方ね」
「了解です。オレがピンクのを曖さんに渡せばいいんですね」
「そうそう」
確認してからまた中に戻る。ちょうど館長がマイクに立った所だった。
「今日のお礼に大学から花束の贈呈があります。」
幹は香にブルーの花束を渡し、二人で晶と曖の隣に行く。それから幹は曖の前、香は晶の前に立ち一言お礼を言って花束を渡す。
そして位置を交換し、幹は晶、香は曖の前に行き握手する予定だった。幹が晶に手を差し出し、
「今日はありがとうございました」
お辞儀して目を上げると、晶の顔が近いことにびっくりした。その後悲鳴が聞こえた。
頬、と言っても唇に近い所に柔らかいものを感じ、後ろに後退る。香を見ると香は曖にハグされていた。
幹はどうしていいか分からず、司会している宍戸館長を見る。
館長は苦笑して見せ、マイクで受講者に後ろの出口から出るよう伝えた。
「10分後にサイン会を始めます」
そう言うとチラチラ幹達の方を伺いながら受講者全員出ていった。森川も木皿は最後にこちらを見ながら気遣うように、それでも出ていった。
「止めてください、驚かすのは」
幹が苦々しげに言うと、晶は笑って、
「ちょっとしたパフォーマンスだよ」
ねぇ、と曖に言う。曖は笑って、
「ごめんなさいね。晶は焼きもち焼いたのよ」
「焼きもち?」
「だって僕の話の途中で他の男とアイコンタクトしてたから。僕に見せない笑顔で」
「はぁ?」
アイコンタクトなんて心当たりがない。もしかして森川に挨拶されたことだろうか?
まぁ、いいや。
そこでめんどくさくなり、もうどうせ会うことないしと思う。
「サイン会の準備をお願いします」
谷倉が用意した古平慶の書籍はほとんど売り切れ状態だった。書籍販売する列に先に並び、購入してからサイン会の列に並ぶ。そして二人のサインを書いてもらい、握手する。
 にっこり微笑みながらサインし、握手する二人を少し離れたところで眺め、幹は香に小声で話す。
「オレだったらサインのスタンプ用意すんな」
「良かったわね、有名人じゃなくて」
「ほんとにな」
「好みのタイプなのかな」
「誰が?」
香は晶をちらりと見て、
「幹が、古平晶の」
「からかっただけだろ」
「私は森川くんの方を勧めるから」
「あいつだって恋愛感情じゃないだろ」
「好きって言われたんでしょ」
「一回言われただけ。その後も普通だし」
「好きになってくれるのを待ってんじゃないの?」
「良い奴だと思ってるけど」
それを聞いて香は不満そうに頬を膨らます。
「そういう顔は彼氏にしろ」
頭をコツンとかるく叩く。
「ミキちゃんもそういうことは彼氏にしなさい」
「彼女だろ?」
頚を傾げる幹に、香はぼそっと、
「往生際悪いんだから」
と言ったが、幹は聞いてなかった。
「漸く終わりそうだな」
サイン会の列が消え、後二人だけになった。その二人が済むと、幹は谷倉の元へ行き、
「お疲れ様です。空の段ボールはこちらで処分しますから」
「分かりました。宜しくお願いします」
疲れたような顔で答える。二人のスタッフもお辞儀をして片付けを始めた。
そこへ宍戸館長がやって来て、古平晶、曖に挨拶をする。
「本日は本当にありがとう。卒業生に君達がいることを誇りに思います」
「僕達も楽しかったです」
晶が幹を見る。幹は気付かない振りで館長を見ていた。
「もし良ければ一席設けますが如何ですか?」
「彼らも参加するなら」
幹と香の方を見ながら言った。
「もちろん。よければ学生も何人か誘いましょう。卒業生と在校生の交流と云うことで」
「じゃあ。気軽な店がいいですね。学生時代を思い出すような」
「分かりました。手配します」
館長は今度は帰ろうとしていた谷倉を引き留め、
「君もどうですか?」
谷倉は晶をちらりと見て、
「ありがとうございます。是非」
館長は幹と香に、
「3人を控え室にご案内して。場所と時間決まったら行くから」
「分かりました。学生の方はどうしますか?」
「私の方で何人か見繕う」
仕方なく幹と香は3人を先ほどの控え室に案内した。
先に歩きながら、後ろにチリチリした空気を感じた。そっと香を見ると、頷いて苦笑する。
先程の控え室に案内し、3人にソファーに座るように言う。コーヒーを出すと、
「暫くお待ちください」
香と部屋を出た。
「なんか谷倉さんが変じゃなかったか?」
「あれは嫉妬ね」
「嫉妬って?」
「焼き餅焼くことよ」
「知ってるよ。じゃなくて」
「古平晶がミキちゃんに手を出したのを知ったのよ」
「出されてねーし」
幹は思わず大きい声を出してしまい、慌てて小声で
「焼き餅焼くって谷倉さん、男だろ」
「古平晶も谷倉さんもミキちゃんもね」
香は腐女子には美味しい話よねと嬉しそうに笑った。幹は何故か悔しくて、
「そういうお前だって曖さんにバグされてたじゃねーか」
「曖さんもどっちかと言うと同性に興味があるみたい」
けろっと言って、
「でも彼氏居るからと断ったし」
「だったらオレだって…」
「彼氏居るって言う?」
「普通は彼女だろ?居なくてももしそんなことあったらきっぱり断るからいい」
少し意固地になってしまった。香は母親のように、「はいはい」
幹の腕をとんとん叩いた。ほんとは頭を撫でたかったか、長身の幹の頭には小柄な香りは届かなかったからだ。
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