愛なんか知らない

13

いつものようにカウンター業務をしていたら、森川が本を置いた。
「久しぶりだね、森川くん」
いつもは声を掛けないのに、何故かすっと言葉が出た。この前起こしてもらったので、森川は良い人だと認定されたようだ。
「急ぎのレポートが立て込んでて」
いつもの無愛想な表情だったが、気にならない。
一度良い人だと思うと、無愛想だろうが、しかめっ面だろうが気にしない。単純なのだ。
「ご苦労様」
そう言って笑顔を見せる。
「ありがとうございます」
慌てたように、貸し出し手続きが終わった本を掴んで図書館を出ていった。
「相変わらず、タラシだね」
いつの間にか香がニヤニヤして立っていた。
「何しに来たんだ？」
「本を借りに来たんでしょ」
ここは図書館だから。
「BL本はないぞ」
「あるんだな、これが」
うそだろ？
「同性ものって、以外とあるのよ」
「そりゃ。よかったな」
苦笑。
「それよりいつの間に仲良くなったの？」
「なんのことだ？」
「さっきの学生。前に嫌われてるとか言ってた子だよね」
「別に仲良くはなってないけど。」
なになに？期待を込めた目で見つめられ、
「昼休憩中寝過ごしたのを起こしてくれただけだよ」
きゃあ。
香の声に幹は慌てて、
「ここは図書館だぞ」
ごめんごめん。笑って。
「寝顔見られちゃったか…」
「居眠りしてただけだろ」
むふふ…
香が変な笑い方をするので、幹は背中にすっと冷たい風が入ったような、嫌な感じがした。
「どこにもBL要素がないだろ？」
「そう？」
ニヘラと美人に笑われ、本当にゾッとする幹だった。
「草食系なのかなぁ」
「何がだ？」
「さっきの子。バレバレなのに告白したりしないのかな」
バレバレって？
「分かってないのミキちゃんだけだよ」
ねぇ、とカウンターの端にいた有田にふる。
「そうねぇ」
有田も嬉しそうに笑う。
なんか、香が増殖してるようで、怖い。そう思う幹だった。