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第三章 中核都市エームスハーヴェン
第五十八話 進軍
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--翌朝。
ジカイラ達5人とラインハルト、ナナイ、エリシス、リリーの4人は、いつもの時間に宿屋の一階の食堂に集まり、朝食を取っていた。
宿屋の主人が血相を変えて食堂に走り込んで来る。
「お、お客さん! 大変でさぁ!! カスパニア軍がこの街に迫ってます!! 早く逃げたほうが良いですぜ!!」
「ほう?」
ラインハルトの目付きが変わる。
ジカイラが宿屋の主人に尋ねる。
「主人! カスパニア軍は、あと、どれくらいでこの街に着くんだ?」
「北西街道を真っ直ぐこの街に向かっているようで、今日の夕方には街に迫るみたいです!」
ジカイラは、座っている椅子の背もたれに寄り掛かる。
「夕方ねぇ・・・」
天井に目線を移して不敵な笑みを浮かべるジカイラをヒナが茶化す。
「ジカさん、楽しそうね」
「ま、退屈はしないだろうな・・・。それで、ラインハルト。どうするつもりだ?」
ジカイラは、真顔でラインハルトの方を向く。
ラインハルトは、鼻で笑う。
「フッ。簡単なことだ。叩き潰すさ」
カスパニア王国は、アスカニア大陸諸国の『列強』の一角に数えられているが、その文明レベルは『中世』であり、戦争となれば文明のレベルが『前近世』に近いバレンシュテット帝国がカスパニア王国を圧倒するのは、目に見えていた。
ジカイラがラインハルトを諌める。
「カスパニアとの戦争は避けるべきだろ。革命政府が倒れ、アスカニア大陸にやっと平和と秩序が戻りつつあるのに」
ジカイラの讒言にラインハルトは苦笑いする。
「理由はどうあれ、自国の街は守るさ。皇帝の務めだ」
ラインハルトは、同じ円卓の席に着くエリシスに告げる。
「エリシス。朝食が終わったら、エンクホイゼンのヒマジンに軍を率いて、この街に来るように伝えてくれ」
「御意」
ジカイラがラインハルトに話し掛ける。
「皇帝のお前が直接出たら、否応無しにカスパニアと全面戦争になる。・・・オレに良い考えがある。オレに任せろ」
「ほう? ・・・判った」
ラインハルトから簡単に一任され、拍子抜けしたジカイラは軽口を叩く。
「ま、失敗した時は、お前に任せるわ」
ジカイラの軽口にその場にいる一同が笑い出す。
「「ははは」」
朝食が終わり、一同が食後のお茶を飲み終えた頃、エリシスが口を開く。
「陛下。そろそろ、私はエンクホイゼンのヒマジンの元へ参ります」
ラインハルトが答える。
「頼んだぞ」
「行くわよ。リリー」
「はい」
エリシスとリリーは、転移門を通り、エンクホイゼンのヒマジンの元へ向かった。
--中核都市エンクホイゼン上空 帝国軍総旗艦 ニーベルンゲン 艦橋
ニーベルンゲンの艦橋には、百万のバレンシュテット帝国軍を預けられたヒマジンと、その副官のロックス、艦長のアルケットが居た。
艦橋に転移門が現れ、中からエリシスとリリーが現れる。
エリシスが口を開く。
「ヒマジン。陛下からの勅命よ。『全軍を率いてエームスハーヴェンに来い』と。カスパニア王国軍が越境したわ」
エリシスの言葉を聞いたヒマジンが笑顔を浮かべ、副官のロックスに話し掛ける。
「聞いたか? ロックス! 陛下からの勅命だ!!」
「はい」
「全軍へ通達! 直ちにエームスハーヴェンに向けて進軍する!!」
ヒマジンがエリシスに話し掛ける。
「・・・アキックスもナナシも自分の居城に帰っちまうし、お前は、陛下のお気に入りで陛下の傍に居るし、陛下はエンクホイゼンに居るオレの事を忘れているんじゃないかと、心配していたんだ」
エリシスが笑う。
「あは。大丈夫。陛下は聡明な方だし、陛下には陛下のお考えがあるのよ。現に『勅命』が来たじゃない」
エンクホイゼンのバレンシュテット帝国軍百万は、エームスハーヴェンに向けて進軍を開始した。
--夕刻。
--中核都市エームスハーヴェン 領主の城
領主のヨーカンは、謁見の間に居た。
カスパニア王国軍十万は、北西街道の北から街の門の外に迫り、北西街道の南からはバレンシュテット帝国軍百万が、この街に向けて進軍していた。
衛兵から報告をうけたヨーカンは、玉座から立ち上がり、二歩三歩と歩くと床にへたり込む。
「・・・終わりだ。・・・もう破滅だ」
南北から街に迫る軍勢は、エームスハーヴェンの衛兵で、どうにかできる軍勢ではない。
絶望するヨーカンの元にダークエルフのシグマが現れる。
「無様だな。領主」
ダークエルフのシグマが侮蔑しきった目で、床にへたり込むヨーカンを見下す。
ヨーカンがシグマを見上げて呟く。
「シグマ。今頃、来たのか? ・・・もう、手遅れだ」
シグマは、その顔に歪んだ笑みを浮かべる。
「手遅れ? 何が?」
「北西街道の北からはカスパニア王国軍十万が、南からはバレンシュテット帝国軍百万が、この街に向けて進軍している。・・・もう手遅れだ」
「いいや。間に合うさ」
シグマの答えを聞いたヨーカンが驚く。
「どういうことだ?」
「簡単だ。領主のお前がカスパニアやバレンシュテットに逮捕される前に、お前を殺して、その口を塞ぐ」
「何だと!?」
次の瞬間、シグマのレイピアがヨーカンの胸を貫く。
床の上にうつ伏せに倒れて絶命するヨーカンに、シグマが見下ろしたまま、呟く。
「・・・遅いのはお前だ。領主」
ジカイラ達5人とラインハルト、ナナイ、エリシス、リリーの4人は、いつもの時間に宿屋の一階の食堂に集まり、朝食を取っていた。
宿屋の主人が血相を変えて食堂に走り込んで来る。
「お、お客さん! 大変でさぁ!! カスパニア軍がこの街に迫ってます!! 早く逃げたほうが良いですぜ!!」
「ほう?」
ラインハルトの目付きが変わる。
ジカイラが宿屋の主人に尋ねる。
「主人! カスパニア軍は、あと、どれくらいでこの街に着くんだ?」
「北西街道を真っ直ぐこの街に向かっているようで、今日の夕方には街に迫るみたいです!」
ジカイラは、座っている椅子の背もたれに寄り掛かる。
「夕方ねぇ・・・」
天井に目線を移して不敵な笑みを浮かべるジカイラをヒナが茶化す。
「ジカさん、楽しそうね」
「ま、退屈はしないだろうな・・・。それで、ラインハルト。どうするつもりだ?」
ジカイラは、真顔でラインハルトの方を向く。
ラインハルトは、鼻で笑う。
「フッ。簡単なことだ。叩き潰すさ」
カスパニア王国は、アスカニア大陸諸国の『列強』の一角に数えられているが、その文明レベルは『中世』であり、戦争となれば文明のレベルが『前近世』に近いバレンシュテット帝国がカスパニア王国を圧倒するのは、目に見えていた。
ジカイラがラインハルトを諌める。
「カスパニアとの戦争は避けるべきだろ。革命政府が倒れ、アスカニア大陸にやっと平和と秩序が戻りつつあるのに」
ジカイラの讒言にラインハルトは苦笑いする。
「理由はどうあれ、自国の街は守るさ。皇帝の務めだ」
ラインハルトは、同じ円卓の席に着くエリシスに告げる。
「エリシス。朝食が終わったら、エンクホイゼンのヒマジンに軍を率いて、この街に来るように伝えてくれ」
「御意」
ジカイラがラインハルトに話し掛ける。
「皇帝のお前が直接出たら、否応無しにカスパニアと全面戦争になる。・・・オレに良い考えがある。オレに任せろ」
「ほう? ・・・判った」
ラインハルトから簡単に一任され、拍子抜けしたジカイラは軽口を叩く。
「ま、失敗した時は、お前に任せるわ」
ジカイラの軽口にその場にいる一同が笑い出す。
「「ははは」」
朝食が終わり、一同が食後のお茶を飲み終えた頃、エリシスが口を開く。
「陛下。そろそろ、私はエンクホイゼンのヒマジンの元へ参ります」
ラインハルトが答える。
「頼んだぞ」
「行くわよ。リリー」
「はい」
エリシスとリリーは、転移門を通り、エンクホイゼンのヒマジンの元へ向かった。
--中核都市エンクホイゼン上空 帝国軍総旗艦 ニーベルンゲン 艦橋
ニーベルンゲンの艦橋には、百万のバレンシュテット帝国軍を預けられたヒマジンと、その副官のロックス、艦長のアルケットが居た。
艦橋に転移門が現れ、中からエリシスとリリーが現れる。
エリシスが口を開く。
「ヒマジン。陛下からの勅命よ。『全軍を率いてエームスハーヴェンに来い』と。カスパニア王国軍が越境したわ」
エリシスの言葉を聞いたヒマジンが笑顔を浮かべ、副官のロックスに話し掛ける。
「聞いたか? ロックス! 陛下からの勅命だ!!」
「はい」
「全軍へ通達! 直ちにエームスハーヴェンに向けて進軍する!!」
ヒマジンがエリシスに話し掛ける。
「・・・アキックスもナナシも自分の居城に帰っちまうし、お前は、陛下のお気に入りで陛下の傍に居るし、陛下はエンクホイゼンに居るオレの事を忘れているんじゃないかと、心配していたんだ」
エリシスが笑う。
「あは。大丈夫。陛下は聡明な方だし、陛下には陛下のお考えがあるのよ。現に『勅命』が来たじゃない」
エンクホイゼンのバレンシュテット帝国軍百万は、エームスハーヴェンに向けて進軍を開始した。
--夕刻。
--中核都市エームスハーヴェン 領主の城
領主のヨーカンは、謁見の間に居た。
カスパニア王国軍十万は、北西街道の北から街の門の外に迫り、北西街道の南からはバレンシュテット帝国軍百万が、この街に向けて進軍していた。
衛兵から報告をうけたヨーカンは、玉座から立ち上がり、二歩三歩と歩くと床にへたり込む。
「・・・終わりだ。・・・もう破滅だ」
南北から街に迫る軍勢は、エームスハーヴェンの衛兵で、どうにかできる軍勢ではない。
絶望するヨーカンの元にダークエルフのシグマが現れる。
「無様だな。領主」
ダークエルフのシグマが侮蔑しきった目で、床にへたり込むヨーカンを見下す。
ヨーカンがシグマを見上げて呟く。
「シグマ。今頃、来たのか? ・・・もう、手遅れだ」
シグマは、その顔に歪んだ笑みを浮かべる。
「手遅れ? 何が?」
「北西街道の北からはカスパニア王国軍十万が、南からはバレンシュテット帝国軍百万が、この街に向けて進軍している。・・・もう手遅れだ」
「いいや。間に合うさ」
シグマの答えを聞いたヨーカンが驚く。
「どういうことだ?」
「簡単だ。領主のお前がカスパニアやバレンシュテットに逮捕される前に、お前を殺して、その口を塞ぐ」
「何だと!?」
次の瞬間、シグマのレイピアがヨーカンの胸を貫く。
床の上にうつ伏せに倒れて絶命するヨーカンに、シグマが見下ろしたまま、呟く。
「・・・遅いのはお前だ。領主」
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