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第三章 中核都市エームスハーヴェン

第五十七話 カスパニア軍侵攻と高貴な二人

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 国境へ向けて兵を進めるカスパニア軍の将軍ロビンの前へ、空から大きなロック鳥が降りて来て着陸する。

 ロック鳥の背から女魔導師が降り、ロビンの元へ歩いて来る。

 カスパニアの宮廷魔導師ナオ・レンジャーであった。

 南方系特有の褐色の肌と短い茶褐色の髪で、整った顔立ちの切れ長の目の、性格のキツイ印象の女であった。

 首には数々の宝石が付けられた首飾りをいくつも下げ、薄い紫のコートを羽織っていた。

「ロビン。国王陛下からの指令書だ」

 ナオ・レンジャーが羊皮紙の巻物をロビンに渡すと、ロビンは巻物の封印を切って、指令書に目を通す。

 指令書を読むロビンの表情が強ばる。

 ナオ・レンジャーがロビンに尋ねる。

「国王陛下は、なんと?」

 ロビンが答える。

「・・・『直ちにエームスハーヴェンに攻め込み、王太子を捜索し救出せよ』と」

「ほう?」

「国王陛下は本気か?」

「指令書にそう書かれている以上、本気だろう。貴様、怖気づいたか?」

 詰め寄るナオ・レンジャーにロビンが言い訳する。

「近隣の弱小国と戦争するのとは訳が違う。バレンシュテット帝国軍は極めて強力だ」

 ナオ・レンジャーは、軽蔑の目をロビンに向ける。

(つまらない・・・。胆の小さな男だ)

「安心しろ。私も貴様と同行するように命じられた」

「・・・第六位階魔法まで使える『カスパニアの魔女』と呼ばれる貴女が一緒とは、心強い」

 意を決したロビンがカスパニア軍に命令する。

「王命である! 全軍、エームスハーヴェンに進軍!! 王太子殿下を捜索し救出せよ!!」

 カスパニア軍は国境を越え、エームスハーヴェンに向けて進軍を始めた。







--夕刻。

 街の衛兵達がジカイラ達の宿屋にやってくる。

 衛兵は、宿屋の入り口にたったまま、大声で口上を述べる。

「人探しだ! 失礼するぞ!!」

 声を聞いた宿屋の主人が衛兵達に駆け寄る。

「この宿は、こちらのお客様の貸し切りでして」

 宿屋の主人の言葉に衛兵達は、食堂のジカイラ達を見る。

「どけ! 仕事だ!!」

 そう言って衛兵達は食堂に入ると、ジカイラ達の前に歩いて行く。

「お前らは何者だ?」

 衛兵からの問い掛けにジカイラは悪びれた素振りも見せず答える。

「巡礼者の一行さ」

「ほう?」

 衛兵達は、ジカイラ達、一人一人の顔を見聞していく。

 衛兵達の目が止まる。

 その目線の先には、明らかに場違いの『雰囲気の違う2人』が長机の席に座り、寛いでいた。

 バレンシュテット帝国皇帝ラインハルトと皇妃ナナイであった。

 『見るからに高貴な身分』のオーラを醸し出す2人に衛兵達は怯み、ラインハルトとナナイに話し掛けることを躊躇する。




 衛兵の一人がジカイラに話し掛ける。

「あの・・・あちらの御二人は?」

 ジカイラがニヤけ顔で衛兵に答える。

「『お忍び』で来ている、帝国のとある上流貴族の御夫妻さ。関わらないほうがお前らの身のためだぜ?」

「そうなのか?」

 ジカイラが衛兵の耳元でコッソリと囁く。

「いいか? 向こうに気取られないように見ろよ? 御夫人が身に付けているネックレスだ。・・・アジャスターの先のエンドパーツをよ~く見ろ。どこの家の紋章だ?」

 衛兵は少し離れたところから、優雅に紅茶を飲むナナイのネックレスに目を凝らす。

 気付いた衛兵がジカイラに小声で答える。

「・・・!? プラチナの戦乙女ヴァルキリー!! 帝室の姻戚で、帝国最大最高位と言われる、あのルードシュタット侯爵家の!?」

(※ルードシュタット侯爵家:ナナイの実家。皇帝のラインハルトとナナイが結婚したことで、ルードシュタット侯爵家は、帝室と姻戚となった)

 驚愕する衛兵に、ジカイラは口の前に人差し指を立てて、話し掛ける。

「シーッ! 静かに!! あの2人が『帝室に縁のある上流貴族』だって事は、判ったろ? 関わらないほうが良い。『お前達は何も見なかった』。良いな?」

 ジカイラの言葉に衛兵達は怖気付く。

 仮に『帝室に縁のある上流貴族』の不興を買えば、皇帝に口添えされ、その一声でこの街の領主でも簡単にクビが飛んでしまう事は、街の衛兵でも知っている事であった。

「そ、そうだな・・・。そうしよう。それに、我々が探しているのは独身の男で、妻帯者じゃない。あの二人ではないだろう」

 そう言うと、衛兵達は宿屋から立ち去って行った。







 ヒナがジカイラに尋ねる。

「ジカさん、衛兵と何を話していたの?」

 ジカイラが笑顔で答える。

「なぁに。世間話さ」

「そうなの?」

「そうさ」
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