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第二章 中核都市エンクホイゼン

第三十八話 素顔

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 ラインハルトの命令に従って、帝国四魔将が孤児院の正門を守っている。

 アキックス伯爵、ヒマジン伯爵、エリシス伯爵、その副官のリリー、ナナシ伯爵の五人であった。

 アキックスが口を開く。

「もう此処は私とヒマジンで十分だろう。奴等のナイフやダガーでは、陛下に傷一つ付けられないだろうが、万が一ということもある。他の者は陛下の傍に」

「・・・承知」

 ナナシはそう答えるとラインハルトの方へ歩いていく。

「じゃ、イケメンさん達、後は任せたわよ。行くわよ。リリー」

「はい」

 エリシスは被っていた銀仮面を外し、アキックスとヒマジンに投げキッスすると、リリーを連れてラインハルトの方へ歩いていく。







 手下を半分近く失ったジェファーソンは焦燥感を募らせていた。

 ジェファーソンの孤児院襲撃計画では、ジカイラ達の存在は『想定外』であった。

 ジェファーソンが口を開く。

「何なんだ!? あいつらは!! 尋常な強さではないぞ!? 孤児院が軍隊を雇ったのか?」

 チンピラが答える。

「門の前の連中は、帝国軍の軍服を着てましたぜ」

 ジェファーソンが呟く。

「・・・帝国軍か。よし!」

 そう言うと、ジェファーソンは、ジカイラ達の前に出て精一杯の虚勢を張り、大声で話し掛ける。

「お前ら、なかなかやるじゃないか! 孤児院に雇われているのだろう! なら、こっちはその倍の金額を出す! こっち側に就け!!」

 ジカイラが乾いた笑い声を上げる。

「むはははは。オレ達を買収するつもりか? 無駄だと思うね」

 ジェファーソンがいきり立つ。

「何だと!!」

 ジカイラとラインハルトは、無言で互いに目線を合わせると、頷く。

 ラインハルトは、銀仮面を外して素顔を見せると静かに名乗る。

「私は、バレンシュテット帝国 第三十五代皇帝 ラインハルト・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット。『アスカニアの癌』であるお前達、麻薬組織『ジェファーソン・シンジケート』に即時死刑を宣告する」

 ラインハルトが銀仮面を外したため、他の者達も付けていた銀仮面を外す。

 驚愕したジェファーソンが呟く。

「こ、皇帝・・・」

 ジェファーソンは悟る。




 革命政府を倒したバレンシュテット帝国の『救国の英雄』。

 マスタークラスの上級騎士パラディンであり、至高にして最強の騎士。

 皇帝ラインハルト。

 『大帝の生まれ変わり』とも言われる、聡明で誇り高い高潔な人物。

 買収が通じるような相手ではない。





 ジェファーソンが、手下のチンピラ達に向けて必死に叫ぶ。

「皇帝だ!! お前達、殺せ! 皇帝を殺せぇ!!」

 ジェファーソンに命令されたチンピラ達は、ジカイラ達とジェファーソンを交互に見て、狼狽える。

 程なく、エリシスとリリー、ナナシがジカイラ達の元にやって来る。

 ナナシが口を開く。

「・・・陛下。孤児院はアキックスとヒマジンに任せてきました」

 ラインハルトが答える。

「判った。残りはこれだけだ」

「・・・御意」

 ナナシはラインハルトに深々と一礼する。

 ジカイラが斧槍ハルバードを肩に担いでチンピラ達に軽口を叩く。

「お前ら、何か言い残すことはあるか?」

 チンピラ達は、互いに顔を見合わせる。

 ジカイラの言葉の意味がまだ理解できないといった素振りであった。

 ナナシが両手をかざして召喚魔法を唱える。

Я ヤー・ приказываюプリカーズ・ユース・ своемуズィムス・ слуге スー・ギャナー・ на ナ・ основанииヴァニエ・ договораダゴヴォラ・ с ス・ джинном.ジュナム
(我、魔神との契約に基づき、下僕に命じる。)

Вождьボシュ・ дьяволаデアブラ・,Повелителиポィエヴィリティ・ демоновディアモノフ
(悪魔達の長、魔界の諸侯)

Убирайся!ウーヴィライーシャ!  Великийヴェリィーキィ дьявол!!・ディアボロ!! 」
(出でよ!上位悪魔グレーターデーモン!!)

 ナナシの前に四つの大きな魔法陣が現れると、それぞれの魔法陣の中から青黒い大きな悪魔が現れる。



 上位グレーター・悪魔デーモン

 ヤギのような角と黒い穴のような目、蝙蝠のような翼と手足の鋭い爪。

 悪魔族の中でも上位に位置する強力な悪魔である。



 召喚された四体の上位グレーター・悪魔デーモンは、それぞれの魔法陣の中で召喚主であるナナシに向かって跪いている。

 ナナシは、上位グレーター・悪魔デーモンに命令を下す。

「殺れ」
 
 ナナシから命令を受けた四体の上位グレーター・悪魔デーモンは、一斉にチンピラ達に襲い掛かり始める。

「うわぁあああああ!!」

「ぎゃああああ!!」

 上位グレーター・悪魔デーモンの鋭い爪は、次々と非武装に近いチンピラ達の体を簡単に引き裂き、肉片に変えていく。

 ジェファーソンは、手下達を盾にしてジカイラ達や上位グレーター・悪魔デーモンから逃げ出す。

 次元ディメンジョン・牢獄プリズンの中は、阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 



 シンジケートのチンピラ達は全滅し、残るはジェファーソン一人となった。

 走って逃げ回っていたものの、周囲を四体の上位グレーター・悪魔デーモンに取り囲まれる。

「ぐうっ・・・うっ・・・」

 ジェファーソンは鼻水を垂らしながら、必死に逃げ場を探していた。

 ナナシが近寄る。

「待て。殺すな。そいつからは情報を引き出さねばならん」

 二体の上位グレーター・悪魔デーモンはジェファーソンを捕まえると、それぞれジェファーソンの腕を取り押さえる。

 上位グレーター・悪魔デーモンは、ラインハルトの元へ向かうナナシの後ろをついていき、ジェファーソンを引きずっていく。

 ナナシが跪き、ラインハルトに話し掛ける。

「・・・陛下。此奴からはシンジケートの情報を引き出す必要があります。処刑するのは、その後でも良いかと」

 ラインハルトは、二体の上位グレーター・悪魔デーモンに捕まっているジェファーソンを一瞥するとナナシに答える。

「そうだな・・・。卿に任せる」

 ナナシは一礼して答える。

「御意。では、一足先に失礼致します。エリシス。我々は居城へ戻る。転移門ゲートを頼む」

「判ったわ」

 エリシスが転移門ゲートを開くと、ナナシは、ジェファーソンを引きずる上位グレーター・悪魔デーモン達と転移門ゲートの中に消えた。





 ナナシが転移門ゲートで居城に帰る様子を見ていたジカイラがラインハルト達に話し掛ける。

「片付いたな」

「ああ」

「そうね」

 エリシスが次元ディメンジョン・牢獄プリズンを解除すると、黒い壁に囲まれていた周囲の景色は、日常の風景に戻った。

 日常と違うのは、無数のシンジケートのチンピラ達の死体が地面に広がっている事であった。
 
 再びジカイラがラインハルトに話し掛ける。

「・・・この一面に広がっている死体は、どうするんだ? 三百人くらいか」

「死体は、領主にでも片付けさせるさ」

 ジカイラがナナイに話し掛ける。

「どうやら、腕は落ちていないようだな」

「ブランクはあるけどね」

 ナナイは、レイピアの血糊を拭うと鞘に収めた。

 
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